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第3話 黒い願いの代償は.....

今回はシヅキはあまり登場しません



……歩いて、歩いて、歩き続けた。


……靴底は擦り切れ、足の感覚は、もうない。

それでも止まれなかった。


何でこうなったんだろう。


父は、物心つく前からいなかった。


母は、ずっと寝床にいた。

止まらない咳。細い背中。

それでも、優しくて――大好きだった。


数日前。

その咳が、唐突に聞こえなくなった。


何日も泣いて、それでも。

「生きてほしい」

それが母の願いだったから、前を向こうとした矢先に――


母の唯一の形見だった首飾りまで、怖い人たちに奪われた。


痛い。


抵抗した時に手足を押さえつけられ、

顔を叩かれ、腹を蹴られた。痛くて、苦しくて、叫び続けた。

倒れた体を、何度も、何度も殴られて、蹴られた。


……痛い。

体中が、たまらなく痛い。


誰も助けてくれない。

苦しい。辛い。


だれか、だれか――


『私の大好きな――』


母が生きていた頃、

はにかみながら頭をなで、

いつも口にしていた言葉が蘇る。


――嫌だ首飾りを取り返さなきゃ。


藁にも縋る想いで、地味な少年に助けを求めた。


「……お願い、です」


ーーーーーーーーーーー


朝、シヅキはひどい頭痛で目を覚した。


「……頭、痛い……」


「どうしたんだい? ずいぶん酷い顔してるよ。鏡、見てみな」


言われるまま、小さな鏡を覗き込む。顔をしかめた。


「うわ……ほんとだ。酒飲みすぎた師匠みたいな顔……」


鼻をくすぐる、妙な匂いもあった。


(なんだろ……水の匂いじゃない、独特な……)


リュックに手を伸ばし、水筒から水を飲む。


(……あれ? 中身、ちょっとずれてる……?)


頭痛のせいで深く考える気力はなく、昨夜の小雨のせいだろうと思った。


ごくり、と水を飲み干し、ふらふらと部屋を出る。


扉が閉まる音を確認してから、フェイク=ナムルスは小さく息を吐いた。


「……バレてなさそうだな」


小さく息を吐き、荷物をまとめた。


今日は街で、金をどうにかする必要があった。


両替屋は街の外れにある。

木製のカウンターに硬貨を並べ、フェイクは淡々と告げる。


「これ、両替して」


店主は硬貨を一瞥し、鼻で笑った。


「はあ? こんなもん、今どき価値ねえよ」


提示された金額はあまりにも安すぎた。


(……なるほど)


フェイクは舌打ちした。村から持ち出した金は、この街では「信用」に足りなかった。


「……はあ」


想定外だ。ここまで安いとは。

途方に暮れ、路地へ出たその時――掠れた声が聞こえた。


「……お願い、です」


振り返ると、薄汚れた外套をまとったボロボロの少女が立っていた。


何時間も叫んだように声は掠れ、

目は赤く腫れ、

何日も泣いた痕が残っている。


「……あなた、強そうだから」


「で?」


フェイクは立ち止まらず歩き続ける。

少女は必死に言葉を絞り出した。


「荒くれ者の組織に……大切なものを奪われたの。母の形見の、首飾り……十字架の」


「それで?」


「取り返してほしいの……お願い……」


フェイクはようやく足を止めた。

眼光は冷たく、体の重心は最小限の緊張で保たれる。


「……断る」


少女の顔が絶望で歪む。


「僕に得は?」


「それに、もしも取り返せた後どうする? また縮こまって怯えて生きるのか?」


淡々と、冷たい刃のような言葉を投げる。


「『自分は弱いから仕方ない』って言い訳しながら?」


少女の唇が震える。


「君はただ怖いだけだ。痛いのが嫌で、殴られるのが嫌で、大事なものすら自分で取り返そうとしない」


「そんな臆病者に、僕は手を貸さない」


少女は崩れ落ち、声は掠れ、やがて叫びに変わる。


「私だって憎いのに……! ああああああああああ!!」


沈黙。

次の瞬間、掠れた声で告げた。


「……憎い」


少女は、絶望した目で吐き出す。


「……殺したい」


何かが、壊れた。


その言葉を聞いた瞬間、フェイクの目がほんの一瞬細まった。


「なるほど、面白い。恐怖の奥底に、こんな炎が眠っていたとは。」


ゆっくり振り返り、淡々と問いかける。


「悪魔に魂を売ってでも、叶えたい?」


少女は即答した。


「当たり前よ」


「じゃあ、協力してあげる。ただし……その組織を潰すのは君自身だ」


フェイクは手に炎を作る。

それは、どす黒い怒りと苦しみそのものだった。


「これは――咎人の炎だ。この炎を受け取れば、強大な力が手に入る。だが同時に、使えば削れる。命も、魂も。

その願いは、本当に悪魔に魂を売るほど強いのか?」


少女の怒りは揺るがず、むしろ燃え上がった。


「よこしなさい、それを!」


少女の中に火が宿った。

怒りが火を歪ませ、強化した


絶対に消えない代わりに、生命を少しずつ燃やし尽くす炎。


体中の血管が熱を帯び、手が小刻みに震える。まるで命の芯から燃やされているようだ。


夜。


組織の住処は炎に包まれた。


逃げ場はない。叫びも、命乞いも、すべて焼き尽くされる。


少女は炎の中で首飾りを見つけた。


「あ……あった……」


涙を流しながら、ふらつく手を伸ばす。


首飾りを握りしめた瞬間、くしゃりと顔が崩れた。


泣きながら、それでも笑っていた。


「……やった。私の力で……取り戻したよ」


「お母……さ……」


――コトン。

力尽き、倒れる。炎は嘘のように消えた。

少女の亡骸を前に、フェイクは黙って立つ。

首飾りを受け取り、組織の金を懐にしまう。


遺体を埋め、土をならす。


首飾りの裏には、小さく文字が刻まれていた――


〘私の大好きなサリア〙


ぽつり、と呟く。


「……最後に、願いは叶ったんだ」


「重すぎる代償なんて、ないよ」


それだけ確認すると、土を均した。


……そして、

もう二度と振り返らなかった

「僕に得は?」って主人公らしからぬセリフですね

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