第10話 愛とは?(笑)
記念すべき第10話です
馬車で揺れながら、四人は押し黙る。先に口を開いたのは執事のグランだった。
「…お嬢様は事情があって、未だに婚約者がおらず、皆も困り果てていたのです」
「え? えっと…リュミエール・アルトリアさん? って」
「アルトリアを縮めてアリアで結構です。親しい人は皆そう呼びます」
「あ、はい。アリアさんって十歳ぐらいですよね? それなのに婚約者…?」
「貴族では普通、6歳ぐらいで婚約者を決めるんだよ。」
「そ、そうなんだ…。あ、そういえば僕ら名乗ってないじゃん。えっと、僕は…」
「僕はフェクションで、こっちはつむぎです」
ロキは急にシヅキの言葉を被せ、清々しい顔で偽名を言い放った。
(ロキ!?)
「…それ、偽名ですよね?」
アリアはどこを見ているのかわからないように目を細めた。
(へえ…)
「…ちょっとしたジョークですよ、改めて、僕はロキで、こっちがシヅキですよ」
「ちょっとロキ、迷いなく偽名言うのやめてよ。ところでアリアさん、どうしてわかったんですか?」
「…それは」
「アリアは多分、魔眼持ちだからじゃないかな?」
『っっっ!?』
ロキがそう言うと、アリアとグランは驚愕した。
「魔眼って何ですか?」
「生まれながら、特殊な魔素が目にこもったときに発現する能力です」
「あれ? でも、どうしてわかったの?」
「①アリアはどう見ても箱入り娘なのに、嘘を断言しているのが不自然
②嘘を見破る時、目線がどこも見ていなかった
③有能な人が嘘を見破れる、または感情や思考が見えるなら、伯爵の後継者になるのは必然、と最初から推測していた」
「ええ、そんな少ない情報で?」
「その通りです。魔眼を使うと、相手の思考が色として漏れ出て見えるのです。ですが、思考を自分で抑制している人は見えにくい。さっきの御者が暗殺者だと見破れなかったように」
「凄い…アリアさん、僕はどう見えるんですか?」
「とても綺麗で、一切濁りがありません。ここまで綺麗な色は初めて見ました」
「なるほど。その綺麗な色が、求婚に至った理由ってわけね?」
「…はい。お嬢様の魔眼に狂いはありません。ましてや、求婚までするほど信用できる色の持ち主です」
(なるほど、だからここまで妙にトントン拍子だったのか…)
「で? 求婚するってことは、そういう事?」
「そういう事とは?」
「子供を作る気、あるのかって事」
ロキは清々しく言い放つ。
「ロキ!?」
「野次馬根性で聞いたんじゃない。覚悟もないのに求婚なんて、甘すぎるだろ」
「…はい、その覚悟はあります」
「き、ききき、キスして子供が産まれるんでしょ?」
アリアは赤面しながら言った。
「はあ?」
ロキは呆れ顔で見つめる。
「あのなあ…」
「え!? 子供ってコウノトリが運ぶんじゃないの!?」
「…シヅキ、お前もか」
ロキはシヅキをアホを見る目で見る。
「お前ら、そんな馬鹿な話、誰から聞いたんだ?」
「お母様から」
「師匠から」
(過保護な保護者め…)
「じゃあ、子供ってどうやって出来るの?」
ニコリとロキは笑った。
「セッk—」
「ぬおおおおおお、待ってくだされ
ロキどのお!!!!?」
「モガモガ」
ロキが清々しい顔で何か言おうとした瞬間、グランが突然雄叫びをあげ、ロキの口を塞いだ。
「ぶは、離せ!」
ロキは力づくで執事を引き剥がした。
「うーん、でも結局どうしたらいいんだろ? ロキ」
「知らない。好きにすれば?」
「そ、そんな適当な…」
「適当じゃないよ? そういうことは本人たちが決めることだ。よっぽどのことじゃないと、他者が口出ししてはいけない」
「…」
「…シヅキ?」
「ロ、ロキがまともなこと言ってる!?」
「…人の助言をちゃんと聞かない奴は、いつか本当に痛い目を見るよ?」
ロキは笑顔。しかし目は笑っていない。アイアンクローでシヅキを押さえつける。
「痛い痛い痛い、ごめんなさいいい!」
メキメキと嫌な音が馬車に響く。しばらくして、
「はあはあ…」
シヅキは頭を擦りながら座り込んだ。
(う〜、結局よくわかんないよ…。結婚? 子供? 愛とは?)
馬車の揺れに身を任せ、シヅキは考え込む。アリアの笑顔も、ロキの意味深な目線も、理解できない。
(でも…まあいいや。どうせ僕には関係ない話だし…)
そのとき、ロキがぽつりと呟いた。
「……愛ってのはさ」
「え?」
「頭が壊れる病気だろ、あれ」
シヅキが瞬きをする。
ロキは窓の外を見たまま続けた。
「判断も優先順位もぐちゃぐちゃになる。自分から鎖つけて、勝手に溺れて、勝手に死ぬ」
淡々とした声だった。
まるで天気の話でもするみたいに。
「理解できないよ。なんであんな非効率なもんに縋るんだか」
小さく肩をすくめる。
「……まあ、だから面白いんだけどな」
「え?」
「いや、別に」
ロキは視線を外した。
「見てる分には退屈しないってだけだ」
馬車はも揺れ続ける。答えのない問いも、止まらない日常も、確かに続いていく
――
ただ少しだけ、世界の見え方が変わった気がした。
記念すべき第10話がギャグです(笑)




