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第0話 孤独な狼           

連載スタートしました

  


むかしむかし、孤独な狼がいたそうな。

狼は極めて現実的だった。


深い森があった。


その森は「魔の森」と呼ばれ、言葉を解し、人の姿を取る怪物もいると言われていた。


狼はその森の奥深くに、ひっそりと身を潜めていた。


この狼は、どこか別の世界から彷徨い、魔の森にたどり着いた。


森の怪物たちと同じく、異形の力を秘めた存在だった。


――この世界に価値などないよ、と


――口癖のように何度も呟く。


誰よりも捻くれ、誰よりも世界を歪んだ目で見ていた。


だが、それでも――興味だけは消せなかった。

ある日、一人の少女が、勝手に狼の住処に居座った。


首には、鉄で作られた狼の顔を象った不思議な首飾りを身につけていた。

狼は少女を排除しようとした。


ただ追い払うだけではつまらない――心をへし折り、二度と近づけないようにする。


さらに、近くの村への見せしめにもなるだろう。


「おいお前、ここで何をしている。

こんなところにいたら、怖くて恐ろしくて醜い狼に八つ裂きにされるぞ。

例えば、俺とかな?」


狼は喉笛のすぐ近くまで噛みつくふりをした。

だが少女は不思議そうな顔で言った。


「私は、あなたが綺麗で美しいと思うわ」


その瞳には、恐怖ではなく、好奇心と無邪気さが混ざっていた。


狼は追い払うことを忘れ、ただ少女を観察する。


人間の考えを理解し、戦うための対策を練る


――情報源としては最適だ。

この少女、ただの人間ではない

変人のようだし、村から追い出されたのだろうか。


ならば、衣食住を与えれば、恩を感じて話すかもしれない。


狼は合理的に考えた。

狼は突然、人間の子供の姿に変わった。


森の異形の怪物たちと同じく、必要に応じて人の姿を取ることができるのだ。


「君、何考えてんの?怖くないの?」


少女はにっこり笑って答えた。


「全然怖くないよ。むしろ美しい」


狼は心の底から、この少女を変人だと再確認した。


「あのさ、ところで私、居場所がないの。で、頼みがあるの」


狼は「そらきた」と思った。


「ここらへんで寝床になるところはない?」


「うん?僕の住処に居させて欲しいって頼みじゃないの?」


予想もしてなかった頼みであったため、思わず本心が漏れ出てしまった。


狼は少し考えた後こう言い出した


「…それじゃあ、人間の事を教えて、興味があるんだ」


「教えてくれる代わりに衣食住は保証するよ。」


少女は少し戸惑いながらも答えた。


「狼さんの住処を欲しがるほど、私ひどくないよ?」


「いいんだよ、僕はずっと1人だったから話し相手が欲しいんだ」


狼は寂しそうな顔をしてそう言った。


「……それとも、狼なんかと暮らしたくない?」


「ううん、そんなことないよ。分かった、それでいい」


狼の作戦は成功した。

あっさりすぎて拍子抜けするほどだ。


優しい人間ほど、このやり方は断りづらい――合理的な推理が当たったのだ。


その後、少女と狼は長く平穏に暮らした。

しかし、平穏は永遠には続かなかった。


ある日、少女は村に帰りたい、家族に会いたいと言い出した。


狼は了承した。

すでに充分な情報は引き出していたからだ。


だが、少女は何日経っても戻らなかった。

嫌な予感が胸を締め付ける。


「……まさか、殺されてしまったのでは?」


狼は人間の姿で村へ向かった。


――そして、見つけたときにはもう遅かった。

村人の会話が耳に入る。


「あの少女は魔女だ。森の入口で狼と並んで歩いているのを見たって奴がいた」


「家族自体、変人だった。恐ろしく醜い狼を祀るなど」


「生まれた時から殺すべきだった。狼と組んで村に厄災を招くつもりだったのだ」


狼はショックを受けた。

その感情を抱く自分自身にも、さらに驚愕した。

だが、心の奥では分かっていた。


少女の死は自分に原因がある――最初から分かっていた。


もともと少女を、ただの情報源として見ていたのだから。

狼は少女の首飾りを手に取った。


それは、まるで醜い狼そのもののようだった。

静かに首に掛けた瞬間


――

――ロキ。

どこからか、そう呼ばれた気がした。


耳でも、頭でもない。

心の奥、最初からあった言葉が浮かび上がっただけだった。


狼の瞳に映る景色

――見覚えがないのに懐かしい。


古い古い、自分のものではない記憶。


理由は分からない。

ただ胸の奥で何かが震え、名前が自然と浮かんだ。


「……そうか」


狼はそれ以上考えず、森から姿を消した。


――それ以来、狼は二度と現れなかったそうな。

狼の物語です

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