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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

なぜ勇者は聖女を殺したのか

 勇者アレクが聖女リディアーナを殺害した。


 そのニュースは、ある日突然王都を駆け巡った。


 リディアーナ様の従者である私は、事が起こったその時、リディアーナ様のお使いでちょうど王都を離れていたのである。


「なんで、勇者様がリディアーナ様を……」


 リディアーナ様の元を離れていたことを、私は悔やんだ。何より、魔王討伐の旅で親しく過ごしていたはずの勇者様がリディアーナ様を殺害しただなんて事が、信じられなかった。


 私は一人、酒場に向かう。


 良くないとは思いつつも、酒にでも溺れなければこの酷い状況に耐えられる気がしなかったのだ。


「勇者様が聖女様を殺したって、ほんとかよ?」

「せっかく魔王が討伐されたってのに、王都を守護してくださる勇者様がご乱心とは……」

「勇者様はどうやら今、捕縛されているらしい……」


 魔王討伐の旅で、リディアーナ様の従者である私は勇者様ともご一緒している。その中で、勇者様はとても正義感が強く、お優しく、そして何より勇敢な方だった。


 そんな方がどうして、と思う。


 そうだ、どうして、だ。


 理由がわからないまま、このまま勇者様が断罪されて終わりになってしまうのは、あまりにも納得できない。


 せめて、勇者様から直接話を聞きたい。けれど、リディアーナ様の従者としてともに旅をしたとはいえ、一介の平民風情が囚われの身となっている勇者様に面会できるはずもない。


 何か、事情を知る手掛かりはないものだろうか。


 私は考えた末に、勇者パーティーとしてともに旅をした盾役のゴードンさんに話を聞くことにした。


 ゴードンさんは、魔王討伐の報酬で王都郊外にお屋敷を購入したと聞いている。そこを訪ねていけば、会うこともできるだろう。


 石畳の道を馬車でガタゴトと揺られる。建物同士の距離は徐々に離れていき、大きな庭を持つ邸宅が立ち並ぶようになっていた。


「確かこのへん、だったはず……」


 馬車を降りた私は、ゴードンさんから聞いていた住所の付近を彷徨う。


「あのー、すみません。この辺りに新しく引っ越してきた、ゴードンさんのお宅はどちらでしょうか……」


 近所を歩いているお爺さんを捕まえて尋ねると、お爺さんは快く場所を教えてくれた。


「ああ、それだったら、そこの角を右に曲がった突き当たりの、青い屋根の家だよ」

「あ、ありがとうございます!」


 お爺さんの案内に従って歩いていくと、青い屋根のお屋敷が見えてきた。


 ドアノッカーを鳴らして、(おとな)いを告げる。


「はい」


 使用人の方が屋敷のドアから顔を出した。


「あの、突然の訪問失礼します。私は聖女リディアーナ様の従者、ミランダと申します。ゴードンさんに御用がありまして」

「はあ、かしこまりました。お取次いたします」


 玄関を通されると、応接間でしばらく待つように告げられる。

 サーブされたお茶を飲みながら待っていると、重たい足音が響いてゴードンさんがドアの向こうから現れる。


 ゴードンさんは盾役にふさわしい、梁のような腕を持つ大男だ。


「よう、久しぶりだな、ミランダ。どうした?」


 どっかりと対面のソファに座って、ゴードンさんは口を開いた。


「その……勇者様がリディアーナ様を殺害した件について、何か知っていることはないかと……」

「その件か……」


 ゴードンさんは苦い顔をした。仲間が仲間を殺したのだ。そんな表情にもなるだろう。


「俺も詳しいことは何も知らん。アレクも黙秘を続けているそうだ。なぜリディアーナを殺したりなどしたのか……」

「そう、なんですね……」

「ああ。……そうだ、ミランダ、俺と一緒に事情を調べてみないか? 俺もこのままアレクが処断されて終わりでは、あまりにも納得がいかないからな」

「は、はい! ぜひお願いします」


 ゴードンさんの申し出に、一も二もなく私は頷く。


 勇者様がなんのお考えもなく人を殺すような方だとは思えない。もし事情があるのなら、それを知りたかった。




 翌日から、私とゴードンさんは調査を開始した。


 まず初めに、勇者様がリディアーナ様を殺害したとされる、遺跡に向かうことにした。王都近郊の森の中にある遺跡は、美しい彫刻の施された巨大な石が組み上げられている場所だ。

 だが、そこは今は見る影もなく崩れ去っている。


 石は粉々に砕け散り、あちらこちらに血飛沫の跡が残っている。木々は薙ぎ倒され、土はえぐれていた。まるで、激しい戦闘でも起こった後みたいに。


「どういうことだ?」


 その現場を見たゴードンさんは、不審げに眉を顰めた。


「? 何かありましたか?」

「ここに残っているのは戦いの跡だ」

「それがどうかしたんですか?」


 勇者様と、リディアーナ様が戦いになって、勇者様が勝った、ということではないのだろうか。


「リディアーナは癒しと浄化の力を持つ聖女。アレクとは対等に戦えるはずがない。なぜ、こんな戦闘の跡が残ってるんだ」

「そう言われてみれば……」


 改めて周囲を見回す。薙ぎ倒された木には風の刃で切り裂かれたような人工的な切れ込みが入っており、地面には大穴が空いている。

 リディアーナ様と勇者様では、こんな戦いにはなるはずもない。


 まるで、魔王との戦闘現場を再現したかのような有様であった。


「ここで、何かがあったんでしょうか。たとえば魔物がリディアーナ様を殺して、勇者様が冤罪で捕まったとか」

「それなら、黙秘している理由がわからないが。だが、ただアレクがリディアーナを殺した以上の何かがあったのは確実だ」


 私たちは、崩れた遺跡を一通り見聞して、その場を後にした。


 それから後も、遺跡のある森林周囲の村に聞き込みをしたり、王城の騎士にお金を握らせて勇者様の情報を少しでも引き出そうとしたり、私たちは精力的に動いた。


 だけど……。


「ダメだ、これ以上の手がかりが掴めない」


 ゴードンさんは苦々しげに言う。


 それから一週間、私たちは王都中をかけ回ったが、新しい手掛かりは見つけられなかった。

 遺跡周辺の村人たちは事件当日に不気味な光を見たというが、それ以上のことはわからない。王城の騎士たちも口は堅く、勇者様の情報はほとんど得られなかった。


「試しに、リディアーナ側の部屋を調べてみるのはどうだろうか。アレクの情報が手に入らないのであれば、リディアーナの事情を知れば二人の間に何があったのかわかるかも知れない」


 たとえば、二人の間に痴情のもつれなどがあったのであれば、リディアーナ様の日記などを調べることで事情がわかるかも知れないのだ。


 私はゴードンさんの提案に同意し、リディアーナ様のお屋敷の一室、リディアーナ様の自室へとゴードンさんを案内した。

 リディアーナ様の部屋は、年頃の女性らしい、清潔な白と桃色でまとめられていて、私の好みにドンピシャだった。


「可愛らしい部屋だな」

「でしょう? リディアーナ様の机はこちらなので、日記などはこの辺りを探せばあるかも知れません」


 私たちはリディアーナ様の机周辺を探す。すると、一冊の革表紙で装丁されたノートが出てきた。


「あれ? これ……」


 そのノートに書かれている内容を見ていくと、それはリディアーナ様の日記、に見える。

 けれど……。


「おい、これ、お前の字じゃないか?」


 ゴードンさんは不審げに眉を顰めた。

 確かに、リディアーナ様の日記に書かれている文字は、私の文字にそっくりだった。


「代筆なんて、した覚えはないのですけど……。それに、リディアーナ様は読み書きが出来る方ですし……」


 書いた覚えのない文字の羅列に、私は戸惑う。


 『太陽暦587年青月3日

 今日はアレク様と共に教会と孤児院の慰問に行ってきました。微々たるものですが寄付も行いました。孤児院は王国からそれなりに助成金も入っているようで、子供達は笑顔で健康そうでよかったです。ですが、魔王軍による被害が激化すれば削られるのはここの予算からでしょう。早く魔王を討伐しなければ。

 ところで最近、わたくしの従者となってくれたミランダの作るご飯がとても美味しくて気に入っています。今まで食べたことないような芳醇な香りがして、これ以上食べたら太ってしまいそう。気をつけないと』


 そんな取り止めもない内容が、私の文字で綴られている。

 どうして私はリディアーナ様の日記を代筆したりなどしたのだろう。それに、その記憶が無くなっているのも変だ。

 この辺りに、何か手がかりがあるのだろうか。


「お前がその辺の事情の記憶を思い出せれば、今のおかしな状況の手がかりも見つかるかも知れんな」


 ゴードンさんはそう言って私の頭にポンと手を置いた。


 私の記憶が無くなっている。そのことに気づいてから、私は必死で昔のことを思い出そうとしてみた。


 すると、おかしなことに気がついた。


 リディアーナ様の従者となる以前の記憶が、薄い。


 私は田舎の村に生まれ、王都へ出稼ぎに来て、リディアーナ様と出会い従者として召し上げられた。


 そのはず、だ。


 そういった『ストーリー』は覚えているのに、具体的なことは何も思い出せない。出身の村の名前、両親の顔、私に兄弟がいたかどうかさえ、思い出せなかった。


「う……」


 思い出そうとすると、酷い頭痛がする。

 頭の中に靄がかかったようになって、その靄の中で私は迷子になりながら足掻いている幼子のようだった。


 思い出そうと努力するうちに、頭痛はどんどん激しくなっていった。


「ミランダ、無理をするな。顔色が悪いぞ」


 ゴードンさんが心配そうに私の肩を支えた。


「す、すみません……ちょっと休ませてください」


 私はソファに座り込んだ。


 なぜ、自分の過去を思い出せないのだろう。


「リディアーナの日記をミランダが代筆していたことが、今回の殺人事件と関係するとも限らない。無理して思い出す必要はないさ」


 ゴードンさんはそう言うけれど、なぜか私は、この代筆の件がリディアーナ様が殺された理由と関係しているような気がしてならなかった。


「記憶が曖昧なら、試しにお前の部屋でも見てみるか?」


 ゴードンさんの提案で、私たちはリディアーナ様のお屋敷の中にある、『従者の間』つまり私の私室へと向かった。


 私の部屋は、従者の私室らしく殺風景だ。私はあんまりこの部屋の内装を気に入っていない。リディアーナ様の部屋の方が、私の好みにぴったりだった。


 机などをひっくり返しても、日記の類は見当たらない。実際、日記など書いた覚えもないのだから仕方ないのだけれど。


 手がかりらしい手がかりは何も……。


「あれ?」


 当然あるべきはずのものが、ない。

 誰もが一冊は持っているはずの、ポケットサイズの聖書。


 聖女であるリディアーナ様の従者たる私が持っていないのはおかしい。なのに、どこを探しても聖書は見つからないし、何より、自分自身教会で交付された覚えもない。


 成人の儀の際に、教会で交付されるはずなのに。


 そういえば私、成人の儀ってやってたっけ?


「聖書がない? なんでだ? 普通は持ってるはずだよな」


 ゴードンさんに事情を訴えると、彼は不思議そうに顎を撫でる。


 この屋敷には、おかしな点がいっぱいある。私たちは戸惑いながら、顔を見合わせた。


 勇者様がなぜ、リディアーナ様を殺したのかを探っていたはずなのに、それ以上の謎がどんどんと湧き出てくる。


「全然手がかりも見つかりませんし、このまま聖書を持たないでいるのも落ち着かないので、今日はこの後教会に行ってみようと思います」

「おお、それもいいかもしれんな」


 暗礁に乗り上げた調査を一時中断して、私たちは教会へと向かった。

 けれど、教会に近づくにつれて、過去を思い出そうとした時のような酷い頭痛が私を襲い始めた。


「な、なんだろう、これ……」


 ようやく教会に辿り着き、聖書の交付を願う頃には、割れるように頭が痛くなっていた。


「だ、大丈夫ですか?」


 神父様が心配そうに私の顔を覗き込む。


「は、はい。大丈夫です」


 綺麗に装丁された真新しい表紙の聖書を受け取ると、ちかり、ちかりと視界が瞬く。その光の隙間から、誰かが微笑んでいる姿の幻影が見えた気がした。


「勇者、様……?」

「どうした、ミランダ」

「い、いえ、なんでもないです」


 いつの間にか頭痛は治り、幻影も消えた。

  

「今日はもう帰って休め。お前、様子がおかしいぞ」

「はい……、そうします」


 ゴードンさんに言われ、リディアーナ様のお屋敷へと帰る。自室に戻ると、聖書を枕元に置き、私はベッドに横たわった。


 その日の夜、私は奇妙な夢を見た。


 勇者様と二人、王城の庭で話している夢だ。


 『リア、君は魔王との戦いが終わったら何がしたい?』


 夢の中で、私はリディアーナ様になっていた。勇者様はリディアーナ様を、リアと呼ぶ。


 『私は、自由が欲しいわ。市井の民のように、毎日何気ないことを楽しみに思いながら、庭の手入れをしたり、パンを焼いたりしてゆっくり過ごしたい。まあ、聖女の身である以上、叶わない夢だけれど』


 私がそう言うと、勇者様は困ったように笑った。



 

 朝起きると、枕に抜けた髪がついていた。その髪の色は、桃色。聖女様の髪の色と同じだった。私の髪の色は緑色のはずなのに、どうして桃色の髪が枕についているのだろう。


「一体全体、なんなのよ……」


 勇者様による聖女殺害事件以来、奇妙なことが続いていて私は疲弊し切っていた。


 そんな朝、今度はゴードンさんの方から私を訪ねてきた。


「アレクと面会ができることになったぞ」

「え? 本当ですか?」

「ああ。王城の調査官たちも、アレクがずっと黙秘しているせいで捜査が進まないらしくてな。旧知の仲の俺たちなら、口を開くんじゃないかってことで、面会が許可された」


 私は慌てて支度を整えると、ゴードンさんと一緒に外に飛び出した。

 勇者様に直接話を聞ければ、何かわかるかもしれない。王城へと馬車で向かい、門番に要件を伝える。魔王を討伐した勇者パーティーの者だと伝えれば、ひれ伏さんばかりに崇敬の目で見られた。

 勇者様がこの栄誉を失ってしまったことが悲しい。勇者様こそ、魔王を倒した功労者であるというのに、どうしてこんなことになってしまったんだろう。


「どうした? ミランダ。落ち込んだ顔をして」

「いえ、どうしてこんな状況になってしまったんだろうと思って。勇者様は、何を考えてリディアーナ様を殺害したのでしょうか」

「そうだなぁ。今日、その話が聞ければいいが」


 私たちは高い塔の最上階に幽閉されている勇者様のもとへと向かった。勇者様は、魔封じの手錠をかけられて、鉄格子の向こうからこちらを見ている。


「久しぶりだね。ゴードン……。それから、ミランダ」

「アレク。久しぶりだな。こんな形で再会することになるとはな」

「うん。みんなには心配をかけたね。ミランダは、今の生活はどうだい? 楽しく過ごせてる?」


 勇者様は、やけに私の生活を心配してきた。まるで、それが今の一番の関心ごとであるかのように。


「それは……」


 頭痛や過去を思い出せないこと、奇妙な夢などに思い煩わされて、気が休まらない私は、勇者様の質問に口ごもった。


「あんまり、楽に生活はできていないのかな」


 勇者様の表情が曇る。


「アレク、そんなことより、リディアーナを殺した理由を聞かせてくれ。お前がなんの理由もなく、仲間を裏切るような奴じゃないと俺は知っている」

「ゴードン、それは……」


 勇者様は、黙り込んだ。


「私からも教えてください。勇者様。このまま勇者様が幽閉されているのを見るのも、私は嫌なんです」


 私も必死で言い募る。

 私の言葉に、勇者様は表情を動かした。何故か真摯な顔で、じっと私の目を見てくる。


「ミランダ。君の願いはそれなのかい? 本当に、聞いても後悔しない?」

「はい。どうかお聞かせください。勇者様」

「……わかったよ、リア」


 勇者様の返事に、私は瞳を瞬かせる。その呼びかけはあまりにも自然で、咄嗟に返事を返しそうになった。


「リア?」

「相貌交換の秘術というのを知っているかな。古代の魔族に伝わる術らしいのだけれど」


 勇者様は、特にその発言を説明することなく、話を始めた。


「相貌交換?」

「簡単に言うと、人と自分との容姿を入れ替えて、記憶まで植え付ける魔法のことさ。他人に成り変わるための術だね」

「それが、リディアーナを殺害したことと何か関係が?」


 ゴードンさんの質問に、勇者様は深く頷いた。


「リアは、魔族と入れ替わっていた。魔王との最後の戦いの後、俺たちが気を失って倒れていたその隙に、パーティーの中に紛れ込んでいた魔族がリアと自分に相貌交換の魔術をかけたんだ」


 説明が続くにつれて、私は嫌な予感に支配されていく。朝、あの枕に付着していた桃色の髪が、脳裏をよぎった。


「まさか……。じゃあ、王都に凱旋して来た時には、リアは魔族と入れ替わっていたというのか」

「そうだ。そして、入れ替わっていた魔族というのは……、ミランダ、君だ」

「私、が……」

「ミランダ、いや、リア。君こそが本物のリディアーナだ。パーティーに従者として紛れ込んでいた魔族ミランダに、君は記憶を奪われ、容姿を奪われたんだ」

「そんな、まさか」


 勇者様の話に、私は青ざめる。でも、思い返せば心当たりしかない。過去の記憶は曖昧だし、リディアーナ様の部屋にあった日記は私の字体だった。

 教会に近づくにつれて頭痛がひどくなったのは、魔族の術にかけられているせいだろう。枕についていた桃色の髪は、聖書を枕元に置いていたことで術が緩んでいたのかもしれない。


 勇者様の話を聞くにつれて、私の記憶が揺さぶられていく。それと同時に私の輪郭がゆらゆらと揺らめき、再構築されていく。緑色の短い髪が、桃色の長い髪へと変わり、ふわりと空中に広がった。


「リディアーナ」


 ゴードンさんが、私を見て驚いた顔でつぶやく。


「勇者様、いえ、アレク……」

「思い出したんだね」

「はい。でも、どうして黙秘していたの? 魔族を倒しただけなら、正直に言えばこんな風に幽閉されることはなかったのに」

「それは……。君が自由に生きたいって言ったから」


 今朝方見た夢を思い返す。あれが原因か。私が自由に生きたいと言ったから、聖女としてではなく、従者ミランダとして自由に生きられるように。入れ替わったことがバレないように秘していたということか。


「バカね……。そんなこと、しなくていいのに」

「魔王討伐まで付き合ってくれた仲間の願いを叶えるのが、俺の望みだったんだよ」

「私は……私は聖女として生きていくことくらい覚悟しているわ」


 全てを思い出した私は、アレクにそう言った。本当は強がりだ。聖女として身分を縛られて生きていくのは、少し辛い。でも、だからと言って仲間に無実の罪を着せ掛けて生きていきたいわけじゃないのだ。


「アレク。全ての真実をちゃんと伝えましょう。あなたが殺したのは私じゃない。魔族ミランダだったのだと」


 そうして、勇者による聖女殺害騒動は、終結をみたのだった。

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