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Ⅳ 驚愕の事実

「え…っと中将?なんて仰いました?」

 俺は今、モーゼル中将の車の後部座席で驚愕していた。

 珍しく中尉に同意できる。なんで俺がその立ち位置になるんだ。

 少し遡ろう。


 駐車場にウェストタウン駐屯地らしからぬ高級車が止まっていた。

 政府御用達の最新モデルだ。真っ黒で中が限りなく見えにくくなる窓。おそらく防弾ガラスだろう。

「ヒュテル中央司令部まで頼む」

 モーゼルと呼ばれたお方が後部座席のドアを開けつつそう言った。

 そのまま乗り込むのに対し、コベル中尉はなんの遠慮もなく続いていく。まるで当たり前かのような雰囲気だ。

「君、突っ立てないで早く乗りな」

 中尉がこちらを向いて急かした。そんなお偉いさんの車にただの上等兵がズカズカ入り込んでっていいんだろうか。

 躊躇していると、中から声がする。モーゼル中将だ。

「ガレン上等兵、遠慮はいらんよ」

 そう言われても恐れ多いわ、と出かかった言葉を押し留め、車に乗った。

 車内は良い具合に冷房が効いており、なおかつピカピカに磨かれていた。さすが政府、金の使い方が荒い。

「さて」

 不意にコベル中尉が切り出した。

「説明を頂きたいのですが、中将」

 声は非常に冷たかった。そして鋭かった。ただ態度が大きいのではなく、階級相応の威厳を持っているということだ。

「先ほどの通りだ。来月から始まる要衝アークエリツ防衛作戦にて第七小隊および第四中隊の指揮を執ってもらう」

「…明らかなる人選ミスだ。作戦を練り、戦線をまとめ指揮を執るのと、最前線で死ぬか生きるかの駆け引きをするのは話が違う」

 話している最中、コベル中尉は右手に一瞬目をやった。いや、正確には右手があったはずの位置にだ。

 モーゼル中将が間を置いて口を開く。

「…君は自分を過小評価しすぎている節があるな。ルーシー、仮にも君は隊を率いて戦った人間だ。正確な判断においては一級品だと思うがね」

「ありがたいお言葉ですが」

 ふふ、と少しだけ口元が綻ぶ中尉。その様子を優しく見守る中将。

 そういえばこの二人はどのような関係なのだろうか。今の会話は階級差的に考えればあり得ないようなものだ。師弟関係だろうか。

「そういえば、右腕の調子は?痛くないかね」

「まだ多少幻肢痛がありますね。どうも僕のは鎮痛剤も効果がないようで」

 コベル中尉はフラフラしている右袖を掴んで言った。

 正直、俺が乗った意味がわからない。この二人の空気に入れる気がしない。

「ホルスト君」

 不意に名前が呼ばれる。コベル中尉からだ。

「紹介がまだだったな。この人はヘクター・モーゼル中将。僕の育ての親であり、師であり、僕の銃の制作者であったり…つまるところ恩師だ」

 なるほど、育ての親か。さらに銃の制作者と。多才だな、と尊敬が湧いてくる。

「ちなみに若き頃は自分自身も前線で戦ってきた。一次大戦の英雄さ」

 一次大戦というのはヒュテルが独立する前に起きた戦争のことだ。当時の最新技術である航空機は当時の軟弱な対空兵装ではどうにもならず、甚大な被害を与えた。

「英雄と呼ばれるほどでもない。軍の命令通りに市街地を占領しただけさ」

 平然と言ってのける中将。どこか誇らしげな発言だった。

「僕自身もちゃんとした自己紹介をしていなかった。改めて、ルーツィエ・コベル。階級は中尉だ。よろしく」

 青い目がこちらを捉える。こう見るとコベル中尉は身長が小さい。確か13だっただろうか。年相応と言えばそうだ。

「ホルスト・ガレン上等兵であります。よろしくお願いいたします」

 言い終わったタイミングで中尉がふ、と笑った。

「硬いよ」

 そりゃそうだろ階級差考えろ。

 出かかった言葉を留め、飲み込むと、コベル中尉が切り出した。

「そいえばホルスト君はどこに配属されるの?」

 俺自身どこに行くのかさっぱりだった。口を開く前にモーゼル中将が言った。

「ガレン上等兵には君、ルーシーの世話役として同行してもらう」

………は?

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