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Ⅲ 皮肉の威力は散弾銃並みに

 中尉は目線を変えない。ただ平然と呟いた。

「…安全装置、下がってないぞ」

「なっ!?」

 クルーヴィヒ大佐は一瞬取り乱し、すぐさま安全装置を解除しようと銃に目線を向ける。

 その瞬間、コベル中尉が動いた。左手で大佐の手に握られた拳銃(ワルサーP38)を弾き飛ばす。

 鈍い金属音が床を伝い、部屋の隅へと転がっていった。

「銃の扱い方くらい学んどきなよ、痛い目見るよ?」

「ッッッッッ!!」

 中尉に掴み掛からんばかりの勢いで机から身を乗り出す大佐。部屋の後方に立っていたおそらく上級兵の人たちがこの争いに介入しようとしてくる。

 まずい。こんな不祥事に巻き込まれたくない。

 中尉は軍服の左ポケットに手を突っ込んで一歩後ろに下がる。

 さっきの動きといい、今の動きといい、動作に全く迷いが無い。戦場で体に刻まれている動きだ。

 って感心してる場合じゃない。どうしようか。


 不意にドアが開いた。

「失礼、ルーツィエ・コベル殿を迎えに来たのだが」

 部屋の全員の視線が集まる。

 立っていたのはおそらく70歳超えの男性。襟のところ階級は中将。本当にお偉いさんだ。

 全員が今していた行動をやめ、即座に敬礼する。

 クルーヴィヒ大佐が恐る恐る尋ねる。

「モーゼル中将、迎えに来たと仰いましたが…一体?」

「その言葉の通りだがね、クルーヴィヒ大佐」

 ゆったりとした絶対的自信を持つ声。クルーヴィヒとは違う幹部の雰囲気を纏っている。

「まさか令状の内容に目を通してない訳なかろうな、大佐?」

「…申し訳ありません!」

 コベル中尉は中将に見えないようにしかめっつらをした。

 大佐が腰を90度まで一気に曲げ、謝罪の意を示す。普段動いてなさそうだから腰やらないか心配になるな。

「『召集するルーツィエ・コベル殿は、次作戦より第七小隊および第四中隊の司令にあたるため、くれぐれも丁重に扱うように』。そうだったな、大佐」

 は…、と力なく返事する大佐。そんなことは気にも留めず、コベル中尉が口を開いた。

「司令!?僕が?正気ですか中将?」

「もちろん正気さ、ルーシー」

「なぜ…」

「それよりも、詳しいことは聞いてないのか」

 コベル中尉は軽く大佐の方を見やったあと、言った。

「全く」

「ふむ…まあいい。時間がない、すぐ車に乗りたまえ」

 そう言い、中将は部屋を出ていった。

 熱が冷め、気まずい静寂が部屋に充満する。

「命拾いしたね大佐」

 コベル中尉が突き刺すような視線を大佐に向ける。

「それは貴様もだろう中尉」

 さっきとは打って変わって全く心の入っていない返事。心ここに在らずとはこのことである。

 不意にまた扉が開く。

 二度目の登場である。

「言い忘れていた。君も乗りたまえ、ガレン上等兵」

 え俺なんかやらかした?

 はい、とは答えるも、正直言って幹部とか位の高い人といるのは苦手だ。

「生きてればまた会おう、クルーヴィヒ大佐」

「ああ」

 いわゆる社交辞令というやつを交わし、コベル中尉は部屋を後にする。

「失礼します!」

「ご苦労」

 俺も敬礼し、部屋を出る。

 扉を閉めた後、すぐにドン、と鈍い木材の音がした。

「なあホルスト君」

 コベル中尉が意地悪そうな笑みを浮かべて話しかけてくる。

「生きてれば会おう、の真意って知ってるか?」

 考えを巡らせ、首を振る。

「次会うまでにくたばれ」

 中尉はチラリと大佐の部屋に目を向ける。

 よかった、意地悪の方向は俺に向いていた訳ではなかった。

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