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XV 寝坊の代償

 暗闇で目が覚める。地面が冷たい。時刻は早朝四時、行動開始には若干早いな、と思った時。ハッチが開いて誰かが入ってくる。

「ふわあ…次第五小隊の人ですよね…」

 ヒューゴだ。大丈夫だったんだろうか。梯子を下ってきたところで目が合う。

「あ、ガレン上等兵、早いですね」

 目の下にクマが出来ているが表情から察するに、何かあったわけではなさそうだ、よかった。

「えーっと次が第五小隊のアントン上等兵の組なんですが…どなたかわかりますか?」

 俺も昨日の時点で全員の名前と顔を把握できたわけじゃない。

「すまない、わからない」

 そう答えると、ヒューゴは少し考えて言った。

「イーヴォさんから、もし次の偵察の組が起きてなかったら一旦戻ってこいって言われてるんですが…言って大丈夫ですかね?」

 移送車内の一幕から考えると、言ったら間違いなく一悶着起きると予想できる。俺たちで見つけて起こした方がいいな。

「嫌な予感がするな…俺たちで起こした方がいいだろう」

「わかりました」

 幸い全員川の字に雑魚寝しているので探すのは苦労しない。忍び足で部屋を歩き、一人一人を確認していくが、いかんせん名前と顔を覚えていないので、いくら探してもわかるわけなかった。だが、このままイーヴォのところに戻ると怒鳴られるのがオチだろう。何か案はないものか…。

「…お二方、何してるんだ?」

 急に暗闇から声がする。声の方向を向くとヤクシー兵長が部屋から出てくるところだった。

「あっ兵長、アントン上等兵の組と偵察の交代なのですが…」

 ヤクシー兵長は状況を把握したようで、はあ、とため息をついた。そして雑魚寝している中の一人の襟首を掴み、引っ張って怒鳴った。

「アントン!起きろ寝坊助が!」

 引っ張られた時点でアントン上等兵は起きた。耳元で叫ばれたのに動揺も何もしないあたり、常習犯か。呆れたものだな。

 ヤクシー兵長が怒鳴ったことにより周りの兵士たちも起きた。

「…なんだ?」

 跳ね起きたダルガーのしわがれ声が響く。それに続いて他の兵士たちが声を上げる。

「またアントンかよ、いい加減にしてくれ!」

「お前いつになったら起きれるんだよ!」

 当のアントン本人は欠伸を押し殺しながらバツの悪そうな顔をしている。

「あとお前も同罪だぞ、リベロ」

 ヤクシー兵長が起きた兵士の中の一人を指さして言った。おそらく組になってる片割れだろう。どさくさに紛れて梯子に行こうとしていたようだ。

 こういう兵士が一番タチ悪い。自分のミスを隠して報告しない。そこから綻びが生まれ、最悪の場合部隊が全滅するのだ。

 いつの間にかコベル中尉も部屋から顔を覗かせており、ことの結末を見ていた。

「二人とも早く偵察に行け、処罰については後でだ」

 ヤクシー兵長が怒鳴り、二人を梯子に追い立てた。二人はそそくさと梯子に向かった。

 二人がハッチから外に出たことを確認した後、ヤクシー兵長はため息を吐いた。

「…申し訳ない、あいつら、私じゃ手に負えなくて…。ユルベル大尉が小隊長の時はまだマシだったんですが…」

「そうか」

 コベル中尉が笑った。腹の底から沸いてくるようなおかしくてたまらないという様子だ。

「じゃあまたマシになるな、僕がいるもの」

 兵士たちの間に疑問が広がった気がする。第五小隊は皆、この十代の少女にそれほどの恐ろしさを抱いていないようだった。

 ただ一人、シャリコフはヒュッと息を呑んでいたが。

 その時、ハッチの外からガラガラと何かが転げ落ちるような音がする。全員に緊張が走り、何人かは足元の銃を手に取った。

 ハッチが開き、崩れるようにアントンとリベロが入ってきた。両方とも顔に痣ができている。

 リベロが話し出した。

「…伍長が」

「寝坊するような大間抜けに偵察なんぞ任せられんって」

「二度と面見せんなって殴られました」

 アントンが自分の目の上にできたたんこぶを指差して言った。

 すかさずコベル中尉が言う。

「分かった。イーヴォ伍長にそのまま偵察を行う許可をやる。シャリコフ二等兵、偵察の臨時のペアを頼む。確か君は明後日の昼だろう?」

 大袈裟なほどシャリコフは頷いた。

「イーヴォ伍長には後で厳重注意を伝える。そこの馬鹿二人は殴られ足りないと思うが、今回はもういい。兵長、異論無いな?」

 兵長ははいと言わざるを得なかった。

 二人は目を丸くし、今回の上官はカモだとでも思っているようだ。

 だが、なんとなくわかる。二人の身に恐ろしいことが起こる。

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