XIII 大都市アークエリツ
イーヴォ伍長の一幕があった後、自己紹介はすんなり進んだ。誰も余計なことを言わなくなったからだ。
「…ホルスト・ガレン上等兵だ。よろしく」
俺の発言が終わり、車内にはエンジンの唸る音だけが響いていた。コベル中尉が口を開く。
「あー諸君、今向かっている場所は大規模都市アークエリツだ。市街戦の恐ろしさは重々理解しているな?」
一瞬周りを見る。表情すら一切動かさないザッカスとイーヴォ、少し頷いたように見えるダルガー、その他はわかっているのかわかっていないのかよくわからない反応だ。俺も正直わからない。
「…市街戦ではな、ビルというビル、建物という建物、下水道に病院、人間動物、全てが敵だ。建物はコンクリ製の強固な要塞になるし、下水道は敵兵の迂回路になる。子供でも銃火器をこちらに向けてくる可能性があるし、動物の腹に爆弾が貼り付けてあったりする」
この場全員から見てコベル中尉は"子供"に該当するだろうけど、そこは触れないことにする。コベル中尉の話はある程度理解できる。
「そこでだ、隊員同士の協力関係の構築は必要不可欠だと言える。諸君、心に留めておけ」
コベル中尉は別に誰かを見て言ったわけではなかったが、イーヴォに対する注意も含めたのだろう。だが、言っていることは至極真っ当なことだ。イーヴォの方も特に何か噛み付くわけでもない。
そうしているうちに戦場に着いた。大都市アークエリツ。ビルが立ち並び、大通りも整備されている。人さえいれば暖かな雰囲気の街だったろう。人さえいれば、な。見る限りどの建物にも灯りは点いていない。所々窓には板が打ち付けられている。
まるでゴーストタウンだ。そう思っていると、ザッカス上等兵が言った。
「中尉、住民の避難は済んだのか?」
「…一部残っているそうだ。この地域はまだしも、最前線にも何人か残っているらしい」
ザッカスが息を吐いた。市街戦の犠牲者のほとんどは民間人だ。避難が遅れたり、占領されて逃げることができなくなったり、その結果大量の犠牲者を出すのだ。
市街を進んでいくうちにだんだんと建物が壊れ始める。銃痕に砲撃の跡、即席の陣地として使われた痕跡のある建物、空の薬莢に血の跡。戦闘の痕跡がだんだんと増えていく。
そうして、最前線に着いた。
「ここだな、指定された建物」
無骨な廃ビルを前にコベル中尉が言った。窓には板が貼られており、所々は割れている。人がいる形跡なんてなかった…が。中尉は廃ビル内に入り、部屋内を見回した。
特にこれといったものはない。上に続く階段があり、椅子や机、本の置かれていない本棚だったであろうもの。
コベル中尉は本棚に近づき、軽く叩いた。
「第七小隊指揮官、コベル中尉だ」
次の瞬間、本棚が動いた。横に動き、本棚の下に隠れたハッチがあらわになる。そこから一人の兵士が顔を出した。
「ようこそ第七小隊の皆さん。すまないが歓迎の挨拶は中で行う。降りてきてくれ」
そう言い切った後、すぐにハッチの中に消えていった。どうやら地下が本陣のようだ。
コベル中尉が兵士に続いて地下に飛び込んでいった。先頭のザッカスが続いた。




