X 戦意ある英雄たちへ
「ホルスト・ガレン上等兵、装備品を受け取ってくれ」
どっしりと重い戦闘服の塊とマガジンがついていない小銃、水筒やらその他教練で見覚えのある物品が渡される。周囲はガヤガヤと騒がしく、皆戦地に行くことを誇りに思っているようだ。
正直俺は気が滅入って仕方がない。手の中の鉄の塊といい、重たい戦闘服といい、なぜかトラウマを掘り返されるような感覚がある。教練にロクでもない思い出でもあったかな…だめだ、思い出せない。
そんなことを考えながら周りを観察していると、コベル中尉の姿が見える。列の最後尾だ。
「…ルーツィエ・コベル中尉…でしょうか?」
「……襟を見ろ、正真正銘第七小隊及び第四中隊指揮官、陸軍中尉ルーツィエ・クラウディア・コベルだ」
不機嫌な声が聞こえる。中尉の身長的に必然的にそうなるのだが、下から相手を見上げる形になるので、どうも睨みをきかせているようにしか見えない。
「た、大変失礼いたしました…その上でお言葉ですが…その、荷物、持てますでしょうか?」
「ふむ…こういう時に頼らせてもらうか、ホルスト!」
急に俺の名前が呼ばれたせいで持った物品のバランスを崩しかけた。
そうか、なんとなくわかった。これが世話係ってやつか。自分のものを落とさないように、中尉の元へ全力で駆け付ける。
「コベル中尉、どうされましたか」
「僕の荷物を持ってくれ、服と装備品を頼む。銃は僕が持つ」
そう言いつけられ、二人分の荷物を持つことになった。ここだけの秘密だが、おそらく重さだけで言えば1.5人分くらいだ。まあ、少しでも楽ならなんでもいい。
「MP40…片手で持つには少々重いな…またモーゼル中将に軽量化を頼むか」
中尉が早口で銃を見回しながら言った。少なくとも片手で扱えるような大きさはしていない。どうするつもりなんだろうか。
その時、部屋に拡声器の音声が響く。
「えー、召集を受けた兵士の皆様、まずはおめでとうございます。明々後日には皆様は国家の盾となり矛となり戦うのであります。もちろん、これは名誉あることであります」
コベル中尉がフン、と息を吐く。
「そこで、英雄となる皆様に、ヒュテル最高権威であるフーデヘス元帥から激励の言葉があります」
いつの間にか全員の視線は中央の壇上に釘付けになっていた。ご高齢のフーデヘス元帥がゆっくりと上がり、こちらに敬礼した。全員が背筋を正し、素早く敬礼する。
一呼吸おいて元帥は話し出した。
「英雄諸君、我が国土には美しき山々がある。豊かな川がある。賑やかな街がある。伝統ある歴史がある。賢い人々がある。しかしだ、諸君。この素晴らしき国は今下劣な下衆どもに侵食されている。奴らは街を壊し、自然を汚し、この世のものとは思えない虐殺を行なっている。いいか、諸君。これは聖戦だ。矛となり、盾となり、この楽園を死守するのだ」
耳が壊れそうなほどの歓声が上がる。中には意志を見せたいのか雄叫びのような声を張り上げる者もいる。その声を浴びながら元帥は降壇した。声は止まない。この部屋の中だけサウナになってしまったようなくらい熱い。戦意をみなぎらせた兵士たち。狂気だ。狂気でしかない。
ふとコベル中尉の方を見てみる。驚いたことに全く表情が変わっていない。強いて言えばさっきよりも暇そうに見える。
「ホルスト、戦場で一番目と二番目に死ぬのはなんだと思う?」
不意にコベル中尉が低く呟く。俺の回答を待つことなく中尉は言った。
「最初に調子に乗った奴が死んで、次に戦意が死ぬのさ」
コベル中尉は続ける。
「死にたくないなら戦意より気を確かに持つんだな」
周りの喧騒でこの会話は誰にも聞かれていない。既に戦場を経験した者からするとここは地獄の改札口なのかもしれない。




