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Ⅸ ケベルの死神

 息を切らして政府に入る。時刻は七時五十九分。本当にギリギリだ。

 こんな入り方でも入り口にいた兵士は敬礼する。そしてすぐに案内役と思われる兵士が近づいてくる。

「コベル中尉、お待ちしておりました。こちらへ」

 …明らかに俺の方を見ている。訂正すべきだろうか。

「こっちじゃない、僕だ。襟を見ろ」

 コベル中尉の方が早かった。朝の一件が相まって非常に機嫌が悪そうだ。

「は…い。申し訳ありません!」

 一瞬理解が追いつかない様子を挟み、案内役が謝罪する。

「で、案内するなら早くしてくれ。時間がないんだ」

 コベル中尉が促した通り、足早に部屋に案内してくれた。

 周りの兵士はざわついていた。先に来ていた自分たちより早く部屋に通されるなんて、という驚きとか不満だろうか。その中にはホテルで見た集団もいた。

「なんだアレ」

「ここはガキが入っていい場所じゃねえぞ」

「待った、さっき中尉とか呼ばれてなかったか?しかも右腕ねえし」

「あれか?噂のケベルの死神ってやつか?」

「死んだんじゃなかったのかよ」

「それも噂だろ」

 聞こえてくる限りはこの類の話。階級が上の人間に対しての敬意がなってないな。が、当たり前の反応でもあるか。

 軍服に身を包んだ右腕のない少女。確かに異様な光景だ。

「ガレン上等兵も中へお入りください」

 と声をかけられたのでコベル中尉の後ろに続く。緊張してきた。姿勢を正し、できる限り表情を無にし、入室した。

 恐ろしく豪華な内装の中央に鎮座するのはフーデヘス元帥。確か教本にも書かれていた。ヒュテル中央区における最高権威だ。こんな形で会うことになるとはな。

 なぜか懐かしい感情を覚えた。

「ルーツィエ・クラウディア・コベル陸軍中尉。召集令状の通り、君を次作戦であるアークエリツ死守戦における第七小隊所属で直属の指令、そして第五、第六、第七、第八小隊から編成される第四中隊を、現在指揮しているエンデンス少佐と共に指揮してもらう」

 素人が横で聞くと頭が痛くなる単語の羅列だが、コベル中尉は真剣な表情で聞き入っていた。

「つまり、僕も第七小隊として戦闘に参加しつつ、中隊の指揮も執るということでよろしいでしょうか?」

 いつになく口調が綺麗な中尉。

「そうだ。かなり無茶なことを頼んでいるが__」

「僕は軍人だ。与えられた命令は遂行する」

 意外にも、元帥は言葉を遮られたことをなんとも思っていないようだった。むしろ、決意が見れて嬉しそうだ。心なしか表情が和らいでいる。

「そしてホルスト・ガレン上等兵」

「はい」

 尋問を受けているわけではないのだが、体が身構えてしまう。

「君は第七小隊に所属し、コベル中尉の生活面のサポートに当たってもらう。銃の整備等、両腕が無いと困難なものを主にだ」

「はい」

「それにしても…噂は本当だったんだな」

 噂?さっき兵士たちの間で囁かれていたケベルの死神とやらだろうか。

「ガレン上等兵はロビーで待っていてくれ。もうそろそろ装備の受け渡しがある。コベル中尉とはもう少し話をしなければならない」

 敬礼し、部屋を後にする。緊張が解け、どっと疲労感が押し寄せてくる。おそらく話というのは作戦の詳細などだろう。ロビーで待てと言われたのだし、素直に従うべきだろう。


 ロビーにて時間が経つのを待ちつつ、考えに耽る。

 自分の所属を聞き、ようやく現実味を帯びてきた。俺は戦場に行くということ。軍人として戦うということ。

 俺なんかが人を殺せるのだろうか。訓練では的に当たったはずだが、それは相手が的だったからであって、人に撃つのとは話が違う。

 そういえば、装備の受け渡しの時点で銃も渡されるのだろうか。そしてそのまま戦地行きか。

「召集を受けた兵士はこちらへ来てください」

 奥の部屋から呼ばれた。コベル中尉はまだ来ないが、受け渡しが始まるようだ。行こう。

「…………なんて…正気ですか」

「ああもちろん。彼も………。その………ない。その………同じ………だ。君も………………が、……に行く」

「………違うだろ…」

「それを…………ない。まあ、………………応じた」

「なぜ………たがる?」

「あれほ……………。…………無い」

「…………………は崩壊……し、軍は………なる」

「話は……………。……………たまえ」

「………」

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