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演技派なあの子

コンビニ前のチンピラです。


主人公の性根は悪目ということを頭に入れてお読みください。

無駄話が長いので、ゆっくりゆっくり投稿していこうと思います。

何か気付いたことがあったらバンバンご指摘お願いします。

俺は理系か文系かでいったら文系。


100%文系だ。

俺の通う高校は頭が良い方で、留年しやすいと有名だった。

理由はどれか一つでも単位が取れていない教科があると留年扱いになるからだ。



こだわりの強い先生たちに見られる授業態度。

年五回の定期テスト。

随時出される提出課題。


全てが五段階評価され、項目関係なく五点取れると一点換算。

最大三点、学期毎に各教科で計算される。

三学期まであるから、1年間で取れる点数は各教科最大九点。



年を通して得た点数が五点以下。

それをどの教科でも取ってはいけない。

どんなに土下座をしても、頼み込んでも、先生たちに慈悲の心は無い。



俺は理科が壊滅的に駄目だ。

手応えがあったテストですら十五点。

先生も呆れ顔。

真剣に教えてくれていた先生も、二学期の中間くらいで力尽きてしまった。



俺は理科のせいで、高校で留年しかけた。






とまぁ、なんとか乗り越えた過去の話は良いのだ。


担任は変わるものの、クラス替えは行われない。

昨年からの見知った顔ぶれで(何人か見当たらないやつもいるが)二年に上がり早二カ月ほど。


山のように提出課題を出される中間テストを乗り越え、一息吐けるようになった6月上旬。





俺の席は窓際の列から二列目の最後列。

クラスの人数が少し減った関係で窓際の最後列の席は設けられていなかった。


が。なぜか俺の席が窓際の列に移動されていた。



「おはよー。瑠東(るとう)…。なんでお前の席俺の真後ろになってるの?」


「そんなの俺が聞きたいけど」


俺の親友、柳田東陽(やなぎたとうよう)の反応は正しい。最もな疑問だ。


何故勝手に席が移動しているのだろう。


元々俺の席があった場所には、新品の教科書がギッチリ詰め込まれた誰かの机が置いてある。

いつも通り座ろうとしたらちょっと低くなっててびっくりした。

よく見たら自分の机は横に移動している。

新手の嫌がらせか。


どこの誰の机だろう。

俺の使っている机の号より、一つ下の号だ。

ちょっと低い。


「……まぁいいか。お前を壁にして内職できるし」


「うわ、俺、絶対にお前の事チクってやるわ」


柳田は無駄にガタイが良い。

ラグビー部でもなんでも良いから運動をやればいいのに、趣味はお花とお料理だ。


この体格からは予想もつかない趣味に、初めて聞いた時は酸欠になるほど笑った。


今でも笑える自信がある。


















時刻は遅刻の門限に差し迫っている。

大半の生徒が教室に入りクラス内での会話を楽しんでいるこの時間帯にまだ登校していないのはいつもの奴一人だけ。


スポーツ推薦でこの学校に入学したがために授業のレベルに何とか食らいついている状況の男。

クラスのムードメーカー的存在である、橘和樹(たちばなかずき)だ。


なんの推薦だったのかはあんまり覚えていない。


「よし。今日も賭けるか」


柳田が立ち上がる。


「お、いいね東陽。俺はギリ間に合わないにぶどうパンを賭けるよ」


そう先陣を切って柳田に乗るのは学級委員である青葉重音(あおばかさね)だ。

席は教室の端と端という素晴らしい離れ具合なのに、真っ先に食いついてくる。

学級委員がこんなんで、よくクラスが回っているものだ。が、この賭けはいつもの恒例行事。


皆こぞって昼飯や放課後の贅沢を賭ける。


「まーたやってる。あたしはね、先生に走っている所を見つかって、一限目までに間に合わないに今日持ってきたジャガリコを賭ける。奈々はどうする?」


「私は先生が来た後に入ってくるに放課後のスタバ」


女子で先陣を切るのは金森由莉(かなもりゆり)と、秋雨奈々(あきさめなな)の二人。

どちらも間に合わない予想のようだ。


「俺はどうしようかなー。モンスターを間に合う方に」


俺もそう声を上げる。


「俺は。俺は、間に合う方に……何にしようかな。あ、そうだ。この前買ったエロ本を持ってきて回し読みに出す」


「なにそれ。私たちになんのメリットもないじゃない」


柳田渾身の賭けに対してメリットがないと冷たく言い放つ金森さん。


「……自分の趣味(性癖)がバレるだけでも結構なダメージなのに…。金森さん容赦ないね…」


重音の、柳田を憐れむ様な声が弱々しく聞こえる。

学級委員のおかげで得たあの無駄に大きい声は何処にいってしまったのだろうか。


「スタバの新作でどう?」


「「手を打とう」」


女子二人は納得したようだ。

この前、今月ピンチだと言っていなかったか?

まだ六月が始まって何日だよ、という時に。





《キーンコーンカーンコーン



HRを始めるべき時間のチャイムだ。

橘は間に合わなかった。


「やったー。スタバの新作ゲット!」


「ラッキー!」


女子二人が嬉しそうにハイタッチをしている。


「…………」


「お前大丈夫なのか?」


黙り込んでしまった柳田に、小声で話しかける。

暫く柳田は無言を決め込んでいて、哀愁漂う何とも言えない空気を出していたが、急に俯いていた顔をぱっと上げてこちらを向いた。


「だいじょばないから安心しろよ」


「安心要素一つもないけど」


そんなかっこいい顔でキメ顔されましてもね。




というか、いつもチャイムと同時に入ってくる先生がまだ来ない。


生理か?

男だけど。


「てか啓二(けいじ)まだ来ないじゃん」


秋雨さんのその言葉で、クラスの他の連中もザワザワし始めた。


「秋雨さん、まだ半馬(はんま)先生の事下の名前で呼んでるの?」


重音は日頃から秋雨×金森のペアに手を焼いている。

それ故か、何か気に障るとすぐに口を出すでしゃばりマンになってしまう。


だが俺もそうしたくなるのは分かる。

大いに分かる。


「青葉うるさー」


「黙っとけっての」


「でも、センセー来ないのはちょっと気になるくね?」


重音に対する罵倒の嵐が始まりそうだったところを、いい具合に柳田が話を逸らし回避した。


「あー。多分転校生の相手してるんじゃない?」


「え、転校生来るの?」


重音の唐突なカミングアウト、そしてネタバレに俺も反応してしまう。


先生からの言葉で驚きたかったけど、ここで言われたのが衝撃的過ぎて驚く演技すらできなさそう。


あ、ていうか俺の机が移動させられてたのって…。


「どんなどんな?」


柳田が食いつく。

彼女欲しいってずっと言ってるもんな。


「黒髪の美人さん。学校案内を生徒会の人たちがしてて、その時見たんだよ。半馬先生に教えてもらったし。転校生来るって」


「へー。アタシらより顔良いの?」




















あれ、重音君?

……もしかしてさっき黙ってろって言われたの、根に持ってる感じ?


「……チッ」


そりゃ無視されたらそうなりますよね。


「これだから融通の利かない堅物は。根に持ってどうするのよ」


「ホント、この学校にはいい男がいないんだから」


そう溜息を吐いて秋雨さんは鋭い目つきでこちらを、睨んできた。


(なんだよ…)


居た堪れなくなって少し目力を強めて見返すと、あからさまに嫌な顔をしてそっぽを向かれた。


ホント、嫌になる。


「ん…どした?瑠東。その顔久しぶりに見た。……誰見てんの?」


小声で茶化すように聞いてくる柳田は、ニヤニヤしながら俺の目線を辿っていく。

素直に話したら全校生徒に拡がりかねない。


「いいだろ。別に誰でも」


適当に軽くあしらうと、「ケチンボ」と口を尖らせた。


「あ……。ケチンむぐっ」


「黙れ言いたいことは何となくわかるぞ」


「エッチー」


低レベルな下ネタを披露されるこっちの身にもなって欲しい。

どう反応すれば良いか分からないのに、「恥ずかしがってんの?」とか「あれ、分らないの?」とかマウントをとってくるからウザい。


中学に上がってからずっと同じクラスだが、高校に入ってからはこいつがなにか言う前に口を塞ぐというやり方を取り入れた。



さらに柳田がニヤニヤして口を開こうとした時、教室の前方にある扉が大きく開いた。


柳田も少し驚いたのか、喋ろうとするのをやめて扉を凝視している。



入って来るのは担任の半馬。

そして、半間に首根っこ掴まれて引きずられている橘。


「はずれか…」


誰かがそう呟いたのが聞こえた。


「ほら、座れ」


教壇の段差まで引きずると半馬は橘から勢い良く手を離した。

ゴンッと鈍い音が響き渡る。


「……あざす…」


橘は頭を掻きながら席へ歩いていく。

橘の席は元々俺の真横だ。

今は誰のか分からない机を挟んでの隣だけど。


「なんであんなになってたの…?」


「走ってたら足攣って、先生に運んでもらった」


「うわ…」


小声で訊くと予想外の回答が返ってくる。

その返答を聞いた柳田は脳内で足を攣った時の痛みを想像してなのか、同情するような目で橘を見ていた。


「えー。皆さん。今日は五分遅れました。申し訳ありません」


先生は教壇に立ち、朝のHRを始める。


「突然だが、先生は教師歴七年目。言いたかった言葉がある」


あーまぁ、確かに言ってみたい言葉ではあるよな。

転校生が来ました、と、あそこの空いてる席に座れ。

空いてなかった筈の席だけど。


「このクラスに転校生が来た」


先生のその言葉に、演技してやろうというやつは一人もいない。

全員、「あー知ってます。早くだしてください」という風に無言で先生を見つめる。


「……もうちょっと反応はないのか?お前ら」


先生可哀想に。

馬鹿な学級委員がネタバレしちゃったんですよ。


先生は重音の方を見た。

重音はニコニコしながら先生を見返す。

もうこれ殆ど答え言ってるようなもんだよな。


「はぁ…。サプライズが…」


呆れたように溜息を吐き、サプライズが成功しなかったことを嘆く担任。

なら重音にも言わなきゃよかったのに、と思わなくもないが、目撃してるんだよな、あいつ。



隙のない重音にちょっとだけムカついていると、先生はさっきしっかりと閉めた扉を開き、「入っていいぞ」と声をかけた。


それに対して、「あ、はい」と答える声。

綺麗な見た目してるって聞いてるけど、声も綺麗だな…。








教室に入って来たのは重音の目撃証言通りの黒髪の美人さん。

髪は腰くらいまであるのに結んでないけど、邪魔じゃないのか?

でも風になびいてて、髪の重さを感じない。

背も高いな。

百七十くらいか?


教壇の横に立ち、真っ直ぐと教室全体を見回す瞳は少し青みがかっている。

ハーフとかだろうか。


「はじめまして。葉染桜といいます。葉を染めると書いて葉染です。この学校は三年間クラス替えがないと聞きました。今日から二年弱、よろしくお願いします」


声量は丁度良く、滑舌も良くて聞き取りやすい。


「葉染は新潟からやってきてな。向こうとこっちじゃ勝手が違うところもあるだろう。優しく教えてやってくれ」


橘は先生の話なんて微塵も聞いていない。

葉染さんの顔をガン見している。

すごい失礼なやつだな、こいつ。

今に始まったことじゃないけど。


「葉染の席は一番後の空いてるところな」


空いてるじゃなくて空けただろ。


不服の意を込めて先生を睨むと、それに気付いた先生が悪びれもなく「だって転校してきて壁際とか友達作りづらいでしょ」と言ってきた。


そうかもしれんが許可を取れ許可を。


先生に促されるままにこちらに歩いてくる葉染さん。

なんだっけ。

なんか綺麗な人を花に例える文章あったよな。

座れば牡丹、歩く姿は百合の花みたいな。

…立ったら何なんだっけな。

家に帰ったら調べよ。











ビタンッという荒々しい音が響き渡った。

葉染さんが、勢いよく転んだのだ。

………秋雨さんの、真横で。


「うわぁ、大丈夫?」


金森さんがわざとらしくそう声を掛ける。


床に座り込んで俯いたままの葉染さんを見て、クラスの空気が重く、凍っていく。


「転校初日に転ぶとか…。精神的ダメージ大きいんじゃない…?」


小声で柳田がそう耳打ちしてくる。

それには同感だ。

俺なら一週間は休んでいるだろう。

余計イジられる原因になるかもしれないが。


「ぅ…」


黙っていた葉染さんが声を発した。

何をいう気かと皆が耳を澄ませる。


クラス中の視線が集まっている中、葉染さんは床についていた手を顔の方に持っていき、顔を覆った。


「うぅ…。ひっ…うぅぐす……」


え…。

泣いてる…?


これにはクラス全員驚愕。

だって、あんな硬派そうな見た目した美人さんが転んだだけで泣くとは思っても見なかった。


いや、泣くのがイケナイ事っていう訳じゃないけど。訳じゃないけど。


「この人に…足、かけられて…。び、びっくり…しましたぁ」


涙声で震えながら弱々しく秋雨さんを指さす葉染さん。

それを見てフリーズしていた先生をハッとして秋雨に狙いを定める。


「秋雨、本当か?」


「えぇー。そんなことしないですよー」


「そんな新人イビリみたいな事、奈々がする訳ないじゃないですかー」


馬鹿だよな。

そんな聞き方して白状するわけないだろ。


秋雨さんがいつもと同じように金森さんと誤魔化そうとした時、葉染さんがすくっと立ち上がった。


俯き、手で隠されていた顔は、露わになり、自由に拝めるようになった。

その顔は赤くなっているなんてことも、腫れているなんてことも。ましてや濡れていた痕跡もない。


「なんて冗談ですよ」


自己紹介の声と同じ、抑揚のない淡白な声。

さっきの震えた涙声なんか、微塵もひきづっていない。

秋雨さんを見下ろす葉染さんの目は、恐ろしいほど冷たい。


「私は上手く受け身が取れたので良いですが、怪我に繋がりかねない行為です。以降、止めてください」


先生が止める間もなく、言いたいことを行った後スカートをパンパンと、払った。

そして何事もなかったかのように歩き出し、俺の隣の席に座った。


クラスはシンとした。

耳が痛くなるくらい。

誰が口を開いてこの静寂を消すか。

そんなのを託せる奴は、このクラスに一人しかいなかった。


だがあいつに合図を送るのはできない。

あいつが話し出すのを待つだけ。

それまで、十分でも耐えてやろうじゃないか。


チラッとその頼みの綱である橘を葉染さんを挟んで見てみると、想像以上に葉染さんをガン見していた。


普通に引くな。

そこまで目をカッぴらいて見てるのは流石に気持ち悪い。


「あの…」


よし。橘が行った。

無視せず反応してくれてるし、回答によってはクラス総出で乗っかれるかも。


「彼氏っていますか」


「………彼氏ですか?」


いやお前。


そういう話が得意そうなタイプじゃないだろどう見たって。


そういう話を初対面でやっていい相手は、呆気らかんとしている明るい元気な人だけだから。

これ男女世界共通。

間違っても硬い美人やイケメンに振っていい話ではない。


何故か。

そんなのの答えは一つしかない。


「いますよ。暫く遠距離でしたけど」


「あ…いるんですか」


「はい。います」


………ダメージ受けるから。


美男美女に恋人がいようがいまいがダメージ受けるのは確定なんだからやめてくれ。


こんな顔がいいのに恋人が居なかったら俺たちが恋人を作るなんて夢のまた夢だし、いたらこれだけの美形にならないといけない訳だ。


いや、無理じゃね?


てか整ってんな葉染さん。

前世モデル?

いや、親が女優?ってくらい魔性の顔してるんだけど。


「……そっか。……いるんだ…」


橘…何お前あからさまにガッカリしてるんだよ。

一目惚れか?


(…いるのか…)


チラッと横目で葉染さんの顔を見る。

横顔も凄い綺麗に見える。

こんなthe高嶺の花って感じの人に恋人がいるんだろ?

つまりその人は葉染さんのハートを射止めた訳だろ?

凄いよなぁ。




あの秋雨さんに対してのは、演技?

情緒が不安定とか、そういうのじゃないよなきっと。

クラス替えのない学校で唯一の楽しみである転校生。

それが演技上手の大物と来た。




…………楽しくなりそう。

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