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インディペンデンス・レッド ~5000マイルの絆~  作者: 幸運な黒猫
第六章:襲撃・暗躍・唐変木(日本)

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第72話・鍵

「……なあ、八神」

「どうした?」

「今、もの凄く物騒な言葉が聞こえてきたんだけど」


 店の外から聞こえて来た『やっちまうか』のひと言に、俺は妙な胸騒ぎを覚えていた。普通に考えたら、”銃を持っているかもしれない相手“に喧嘩を売るなんて事はないと思うけど、彼らに関しては不安しかない。


「なんて顔をしてるの。ここまで来たら、しっかりと覚悟決めなさいよ」


 ぽんっと、俺の胸に拳をあてて来る夏希先輩。多分、いろいろな感情が顔に出てしまっていたのだろう。俺が殺されかけた事や織田さんが狙われる理由、妹と零士・ベルンハルトの状況など、訳のわからない事だらけなのだから。でも……


「堅ちゃん以外に誰がまりりんを守れるのさ。グダグダ言わずに中央突破しかないでしょ」


 夏希先輩のこのひと言が、ガツンと俺の背中を押してくれた。


 ラグビーの試合で、左右に展開するウイング((注))が切り込めずに得点出来ないのなら、力押しで中央突破を図るのも作戦のひとつ。そしてそれは、フォワードである俺の仕事だ。

 しかしながら、国際的大企業である角橋を相手にするには、圧倒的な力量差を覆すだけの何かが必要になる。今のままでは中央突破どころか軽く返り討ちに遭ってしまうだろう。


 三年前のドバイ視察、専務の病死と行方不明の5億円。そして突然首相になった菱田武夫。


 あとひとつ、それらを繋げるヒントが見つかれば、角橋に対抗できるだけの武器になるはず。問題は『それが何なのか?』だ。問いは単純だけど、それだけにわかりにくい。

 織田さんのUSBメモリに入っているデータがその鍵になるのかすら未だわからないが、それでも角橋の黒服が追ってくるのは、俺達が()()()()()()()()()()()()()()()に他ならない。


 ……つまり、手持ちのカードの中に、JOKER(切り札)があるはずなんだ。



「いいかい、夏希。ゴリ爺の家の裏手から入って薬局に抜けるんだよ」


 と、念を押すNats会長こと裏ボス。夏希先輩たちが安全に逃げられるかどうか、彼女にかかっていると言っても過言ではない。


「その先に二人待機しているからあとは誘導してもらって。竜、アンタもわかったかい?」

「は、はい……」


 写真屋の竜さんは、俺と背格好が似ている人だった。ただそれだけの理由でこんな危険な役回りをしなければならなくなった、不運極まりないご近所さんだ。


「あの、竜さん。すみません巻き込んでしまって……」

「あ~、うん。まあ仕方ないっすよ」

「えと、落ち着いたら、その……あ、カ、カメラ買うんで!」


 だから全然興味もないのに、申し訳ない気持ちと引け目から何となく口をついて”カメラを買う“なんて言ってしまった。『スマホのカメラで十分』なんて思っている程度の俺が、だ。


 しかしそのひと言が功を奏したのか、竜さんの表情がパッと明るくなった。


「マジっすか、どんなのがいいっすか?」

「あ、えっと……よくわからないのでお任せします。壊れにくくて使いやすくて、素人なのでそこそこの物を」

「わかりました、任せてください。使いやすいミドルクラスを吟味しておくっす!」


 嬉しそうにサムズアップしてくる竜さん。つられて俺もサムズアップを返していた。あとで聞いた話では、最近はスマホで事足りる人が多く、余程のマニアでもなければカメラを買おうなんて人はいないらしい。

 スマホで気軽に思い出を残せる今も悪くないけど、カメラの時代がちょっと遠くなったことを感じさせる話だった。


「その時は、撮り方から教えてくださいね」

「もちろんっす!」


 竜さんとの話が終わって振り向くと、なぜか裏ボスと織田さんが壁を方を向いていた。特に何か会話をしている訳でもなく、だまったまま視線が泳いでいる感じだ。

 いったい何事かと思い、二人が背を向けている方に視線を移したら……そこには、人目をはばからずに抱きしめ合ってキスをしている八神と夏希先輩がいた。夫婦だから倫理的に問題はないけれど、少しは時と場合ってものを考えて欲しいと思う。


(八神ぃ、こんな時になにをやってんだよ)


 俺は目の前で起きている出来事に、わけもわからず罪悪感を感じて目をそらしてしまった。きっと、壁に貼ってあるメニュー表を”ぼけ~“っと見ている裏ボスや織田さんも同じ心境なのだろう。


(こんな時だからに決まってるだろ)

(なんでだよ……)

(これは約束なんだよ)

(約束?)

(ああ、無事に戻って続きをしようって約束だ)

(続きって……)

(なんだ、聞きたいのか?)

(やめろ。ちゅっちゅちゅっちゅ見せつけられただけで腹いっぱいだ)


 ケラケラと笑う夏希先輩。あろうことか『じゃあ、堅ちゃん達もやったら?』とか言って来た。思わず織田さんと顔を見合わせてしまったが何も言葉がでず、お互いに苦笑してみせるだけだった。


(ねえ、まりりん)


 夏希先輩はそんな織田さんの目を見て、ゆっくりと言い含めるように口を開く。


(きっかけは何でもいいの。その時その人に何かを感じたら、あとは勘と勢いでなんとかなるわ!)


 黙って頷く織田さん。心なしか頬を赤らめているようにも見える。俺にはよくわからないけど、女性同士で理解できているならそれでいいのだろう。

 

 ――ガタガタッ


 その時、勝手口から音が聞こえて来た。誰かが外から扉を開けようとしている音だ。ドクンッと心臓が跳ねあがり、皆の視線が勝手口に注がれたその直後——。


 金属が破壊される甲高い音が店内に響き、ガチャンと音を立ててドアノブがその場に落ちた。


 ……それは、裏庭にいた黒服が、鍵穴に銃弾を撃ち込み破壊した音だった。

(注)ラグビーのザックリ説明。

 ポジションは大きく分けて前後の二つ。前はスクラムを組んで押し込むフォワード、後はサイドからとにかく走って切り込むバックス(ウイング)。その中間に位置するのがナンバーエイト(司令塔)

 スクラムでフォワードが押し込んで中央を制し、タイミングを図ってナンバーエイトがボールを出して、ウイングが走る。

 フィールド全体を見渡し、どの選手にボールを出すか等、ナンバーエイトの役割はかなり重要。

 藤堂は力押しのフォワード、八神は司令塔のナンバーエイト。他のメンバーはこれから出すかどうか思案中です(プロットでは八神と同時に3人のメンバーが出ていましたが、キャラクターが増え過ぎてゴチャつくのでカットしました)


ご覧いただきありがとうございます。


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