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インディペンデンス・レッド ~5000マイルの絆~  作者: 幸運な黒猫
第六章:襲撃・暗躍・唐変木(日本)

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第65話・誰だっけ?

「会社が傾くよりも……真理ちゃんを確保する方が重要だとしたらどうだ?」

「ちょっと待て八神、流石にそれは飛躍しすぎだろ。いくらなんでも会社の存続を天秤にかける様な事はしないと思う」 

「銃を使ってまで一人の社員を捕まえようとするなんて、かなり異常だと思わないか? その行動に見合うだけの、何か重要な秘密を知っているとか()()()()()とかだと思うのだが……」


 重要な秘密を持っている。八神のこのひと言に思い当たる物があった。銃を持った黒服から逃げ、公園で一休みしている時に織田さんが話してくれたアレだ。


「織田さん、もしかして……」

「ええ、これ……かな……?」


 と言って、ポケットからUSBメモリを取り出して皆に見せた。今朝俺の辞表を受理するために会社へ行き、そのついでに社外秘データをこっそりとコピーしてきたものだ。それを見た夏季先輩は『何が入っているの?』と、ストレートに聞いてくる。世間を騒がせている誤認拉致被害者宅襲撃事件の原因が、目の前の小さなUSBメモリに入っているかもしれないのだから、興味が湧いて当然だろう。


「中身は、二~三年前のドバイ視察のデータです」


 八神は口に手を当ててUSBメモリを見つめ、その中身をどう扱うべきなのかと考えを巡らせていた様だ。


「その中に、藤堂を殺そうとしてまで回収しなきゃならないデータがあるかもって事か」


 だから仕方がないとは思う。しかし、八神が無意識に発したその何気ない言葉は、織田さんを動揺させていた。


「そんな……だとしたら、藤堂さんの部屋が襲撃されたのは私のせいだよね」

「いえ、気にしないでください。悪いのは黒服なんで。それにまあ、ほら、え〜と……」


 と、フォローのつもりで声を掛けたけど、その後が全然続かない。いつもながら語彙力のなさが恨めしい。


「と、とりあえず中身を見てみないと、それが原因かどうかまだ解らないですから」


 八神は本棚に立てかけてあったノートパソコンを開いた。かなり年季の入った機種で、起動するまで少し時間がかかりそうだ。この無言の時間が妙に辛く感じ、俺は気まずい雰囲気を何とかしようと、先ほどの会話で気になっていた事を聞いてみた。


「織田さん、さっき美郷さんが言っていた『未練』ってなんです?」

「私の噂の件で話した事は覚えていますか?」

「織田さんに振られた男が、嘘をバラ撒いたってやつですよね」

「ええ。それが……言問です」


 そういうと織田さんは俺の手から烏龍茶のグラスを奪い取り、『あんな奴の名前を口にしたら(けが)れる』と言って一気に飲み下した。考えてみれば、織田さんの口から『言問』と言う名が出たのは今が初めてな気がする。


「織田さんは、言……アレのどこが駄目なんです?」


 特に気になった訳ではないけど何となく聞いていた。多分、言問葉一の事よりも、織田さんがどういう物事が嫌いなのか知りたかったのだと思う。夏希先輩も『振られた男が嘘をバラ撒いた』のひと言が気になったのか、目を輝かせながら身を乗り出してきた。


「あのニヤケ気味の顔やたたずまい、日和見な態度と腰の据わっていない性格」

「け、結構な言われ様で……」

「軽い口調と軽薄な声、陰険な目つきにヒョロい身体にセンスのない指輪と先の尖った革靴」

「あ、もうそのくらいで十分……」

「似合いもしないワカメみたいな髪型をカッコイイと思っている貧弱な感性、発酵を重ねた臭い足。まったく、赤いちゃんちゃんこを着せたパクチーと付き合う方が三千倍マシですわ。誰が何と言っても言問(アレ)は最悪、クジラは哺乳類でトマトは果物((注))なんです!」


 笑い転げる夏季先輩。『ワカメをかぶった発酵パクチー』とか言いながらバッチリ想像しているのだろう。電話の向こうから部長や美郷さんまでもが爆笑している声が聞こえて来る。


「……ボロクソですね」


 昼間、言問葉一がファミレスでみせた動揺。あれを見て『もしかしたら?』とは思っていたけど、ここまで嫌悪されていたとは……ちょっとだけ同情してしまった。



 丁度話がひと段落したところで、パソコンから聞きなれた起動音が鳴り響く。全員の視線が集まり、USBメモリを差し込むと本体内部からジジジ……と言う微かな音がしてエクスプローラーが開いた。そこにはフォルダが二つ表示され、それぞれ『渡航社員記録』と『レポート』と書かれていた。


「とりあえず社員記録開けてみます」


 フォルダをダブルクリックすると会長以下重役の名前がズラッと並んでいた。当たり前だけど知っている名前ばかりで、社外の人間が入り込んでいる事はなさそうだ。……そして口には出さなかったけど、俺も織田さんもリストの末席に言問葉一の名前を確認していた。


「部長は行かなかったのですか? 名前が見当たらないけど……」

〔ああ、視察予定期間が葵の出産予定日と重なっていてな、どう考えても仕事なんてしている場合じゃないだろ。家族を大事に出来ない奴は仕事も出来ないんだよ〕


 いつもながら独特な望月部長の持論。それでも八神夫妻は感銘を受けた様で、お互いに顔を見合わせて微笑んでいた。


 次にレポートフォルダを開いてみると、中にはさらに三つのフォルダがあって、写真、動画、そして文書と分かれている。俺はとりあえず一番左にある写真フォルダを開いた。カチリ……というマウスのクリック音が無言の部屋に響く。


「単に視察時の記録みたいですね……」


 フォルダ内の画像データは二~三〇〇枚くらいありそうだ。会場の全景や案内板に紛れて、観光気分で楽しんでいる様な画像も数多くあった。流し見しながら画像を切り替えていると、突然俺の手の上に織田さんが手を重ねて来た。一瞬心臓が跳ね上がり動きが止まる。顔を動かさずに視線だけ右に流すと、かなりの至近距離に彼女の顔がぼやけて映った。


「ね、この人って誰だっけ?」

「ど、どれです?」

「この端っこに映っているこの顔って、見覚えない?」

「言われてみればどこかで見たような……?」


 年甲斐もなく、カメラに向けてピースサインをしているスーツ姿の重役(おっさん)達の背後に、見覚えのある顔が小さくぼやけて映っていた。一つだけハッキリしているのは、少なくとも『この男は社員ではない』と言う事だ。


「もうちょっとハッキリ映ってくれていればわかりそうなんだけど」

〔藤堂、その画像こっちに送れるか?〕

「はい、ちょっと待って下さい……」


 望月部長の人脈の広さなら、社員以外でもわかるかもしれない。八神のスマホを経由して画像を送り返事を待った。小さい上にピンボケな画像では判別に時間がかかるかと思ったけど、部長は間髪入れずに“答え”を返して来た。


〔皆しっかりしろよ……〕


 部長は半分笑い、半分呆れた口調でその人物の素性を明かす。


〔この画像の男は菱田武夫、日本の現首相だろ〕

(注)トマトは野菜として扱われることが多いため“野菜的果実”と言われます。原則的には果物なのですが、“日本の果物としての基準に一部適さない為”野菜として認識されています。



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