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インディペンデンス・レッド ~5000マイルの絆~  作者: 幸運な黒猫
第五章:命の代償(中東)

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第53話・0.7秒

 キングの発破に押されたオレは、リーダー、ジョーカーと共に敵本隊後方の軍用トラックを目指した。荷台に仰々しく鎮座するミサイルランチャーの破壊をする為だ。

 本当ならばもう一手欲しい所だが、いないものは仕方がない。ジャックは腕の怪我で満足にHuVer(フーバー)を操れず、後方で指示役に徹しているのだから。


「キング一人で大丈夫なのか?」

〔おっちゃんを甘く見ない方がいいよ〕

〔ああ、ジョーカーの言う通りだぜ。アイツはあんな“なり”をしているが、状況判断を間違う奴じゃねぇ〕

「そうは言ってもさ……」

〔大丈夫だって。殺しても死なないから。脳筋は痛覚がないみたいだし〕


 この会話ってキングにも聞こえているはずだけど……帰ったらまた喧嘩になるな、これは。


〔それにクイーンがバックアップしているんだ。アイツが後ろにいる限り背中を気にする必要なんてないぜ〕


 クイーンと呼ばれる少女アスマ。自身が凌辱され、姉と両親を惨殺されたという過去を持つ。

 姉の婚約者だったリーダーが報復の為に傭兵になろうとした時、何を言っても聞かずにどこまでも付いて来たそうだ。普通に考えれば、天涯孤独になってしまった少女が頼れるのは“義理の兄貴”だけなのだから、それはそれで仕方がなかったのだろう。

 あまりの強情さに折れたリーダーは『絶対に俺の前に出るな』という条件で帯同を許したらしい。しかし“戦いの場は自分だけが引き受ける”という意味で言った『前に出るな』の一言が、アスマのフィルターを通した時には『後方支援に徹して前に出なければ戦って良い』と解釈されていた。

 政府兵士への恨みの強さなのか、そもそも素質があったのか。リーダーの危惧をよそにアスマの射撃の腕はメキメキと上達し、一年後には“その頃所属していた傭兵団”では誰も相手にならなくなっていた。

 リーダーがこの話の最後に呟いた『俺も射撃は得意な方だったんだけどな……』というひと言。少しだけ悔しさを(にじ)ませながら、それでも嬉しそうに語っていたのが印象に残った。


〔クイーン。2時方向、17メートル〕

〔……了解〕


 ジャックの指示が飛ぶ。クイーンはキングの背中を守りながら、射撃位置を少しづつ移動していた。本来スナイパーは自身を晒す様な事はしない。狙撃中は全くの無防備になるからだ。しかし、建物ひとつないこの場所で身を(ひそ)める事は到底不可能。その為クイーンは、敵スナイパーの射線に機体を晒さない様にと、破壊されたHuVer(フーバー)の陰に潜んで身を守っていた。


 そして彼女は、常にオレ達とキングに対して等距離を保って動く。三角形を維持する様に位置取る事で、双方へのバックアップ射撃を可能にする為だった。


「これもジャックの戦術なのか?」

〔もちろん。もっともそれだけの技量が無いと作戦に組み込めないけどね〕


 超長距離(アウトレンジ)から敵を射抜くには、重力による弾道の下降や失速、気温、気圧、湿度、風向や風速など計算する要素が非常に多い。ある程度は軍用アプリケーションの弾道計算システムが担ってくれるが、急変する環境など不確定要素への対応は経験や勘以上に()()()()()()()()()が必要とされる。そしてクイーンはその面で特に秀でているという事らしい。


〔No.10……そこ、邪魔〕

「は?」


 いきなり『邪魔』とだけ伝えてくるクイーン。言われた意味が良くわからず、『いったい何を意図しているのか?』とHuVer-WK(ホーバーク)のサイドカメラをクイーンの機体に向けてみた。するとそこに見えたのは、オレの背中を狙う彼女の銃口だった。


「……って、何でオレを狙ってんだよ!」


 ――その時、銃口に一瞬だけ光が見えた((注1))気がした。


 オレは咄嗟に左へステップを踏んだ。機体がグラグラと大きく揺れ、とてもモニターの確認をしている余裕なんかない。状況が見えないまま『とにかくクイーンの射線を外さなければ』と必至だった。


 一瞬目眩(めまい)を感じた直後、右脇スレスレを突き抜けるクイーンの弾丸。


「怖っ、マジで当たるとこだったぞ」

〔大丈夫。そこまで0.7秒()余裕があるから〕

「……『も』じゃないって」


 HVライフルの場合、2000メートル先の標的に弾が当たるまで約5秒((注2))かかるらしい。それでもスナイパーの感覚だと()()()()()()()()()()()()()()という事だから、0.7秒もあれば余裕で(かわ)せると思ったのだろう。……極々一般的な常人のオレに、そんな異常な感覚を当てはめるのは勘弁してほしい。

 クイーンの弾丸は、オレの右正面から向かって来ていた敵HuVer(フーバー)を撃ち抜いていた。目標であるロケットランチャーに1秒でも早く到達する為には、途中の敵は出来るだけ避けて走るしかない。クイーンは“それでも躱し切れない”と思われる敵を、前もって狙い撃ってくれたという事だ。


「クイーン、もうちょと早く言ってくれ。流石にフレンドリーファ((注3))イアはごめんだ」

〔へっ、甘い事言ってんじゃねぇNo.10。んなもん、死ぬ気でやれば死なねぇんだよ〕

「ったく……滅茶苦茶言ってるの解ってんのか? リーダー。」


 銃弾が飛び交う中『軽口を叩く余裕が出来たのか』と、哀しくも自嘲気味に笑いが出た時、ジョーカーが会話に入って来た。


〔でも、慣れた方がいいよ〕


 13歳の少年に言われてしまうとは情けない話だが、オレよりも数年先輩のベテランなのだから仕方がない。


〔でないと……死ぬから〕

(注1)ミリタリー用語で【マズルフラッシュ】という。しかし、零士にとっては興味のない分野の事象なのであえて『銃口から光が見えた』と言わせています。


(注2)人間が使うライフルの場合、2000メートル程の距離だと、銃弾が標的に達するまで6〜8秒かかる。(余談:その為、重力や気温、気圧、湿度、風向、風速などの影響を受けやすく、狙撃手には高度な数学力が必要と言われる。HuVerに搭載されている弾道計算システムが担うのは、この“高度な計算”部分)


(注3)【フレンドリーファイア】 戦場において後方に位置する味方の銃撃を食らうこと。原則的に不本意な誤射である。



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