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インディペンデンス・レッド ~5000マイルの絆~  作者: 幸運な黒猫
第四章:虚言・怨恨・逆恨み(日本)

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第40話・筋の通し方

 ここは千葉県柏市にある、古めかしい店が立ち並ぶ商店街。その一角にある蕎麦屋の前で、俺と織田さんは一人の男と会っていた。


「んで、藤堂。お前……いったい何をやらかしたんだ?」


 と、挨拶もそこそこに質問してきたその男は、俺の大学ラグビー部時代の仲間、八神(やがみ)慶太(けいた)。この先、大企業を相手に戦わなければならない俺達にとって、心強い味方になってくれるハズだ。



 あの後俺は、とりあえず足休めができる場所をと思案し、大学時代の仲間達に声をかける事にした。今置かれている状況下で最も信頼でき最も頼りになる友人達だ。

 公衆電話を探し歩くがスマホの普及が原因で撤去されるケースが多く、見つけるまでに結構時間がかかってしまった。これは『スマホは盗聴されているんじゃない?』という織田さんの助言があったからだ。俺はまず、チームの要だった八神に連絡を取った。


 柏にある彼の家に着いたのは、陽が傾きかけた頃だった。いきなり押し掛けたにもかかわらず、八神の奴は嫌な顔ひとつしないばかりか開口一番に『何をやらかした?』と笑いながら聞いて来た。あの頃と変わらない憎まれ口だ。……相変わらずだけど、今はそれが嬉しい。


「いや、俺は何もしてないのだが」

「じゃ、なにか? 何もしてないのにお前は拉致されたんか」

「俺じゃないけどな」

「何もしていないのにテロリストになって」

「いや、なってないって」


 解っててネタにするからな、八神は。でも、なんか俺は俺で“それ”に付き合ってしまっている。多分、学生の頃の空気感が心地よいのだと思う。


「何もしていないのに拳銃強盗に押し込まれ」

「おう、あれはマジで死ぬかと思った」

「何もしていないのにこんな美人と羨ましい逃亡生活をしている。と?」

「ん~、まあ……そんな感じ?」


 ……『羨ましい』は余計だけどな。


「んなわけあるか。あり得ないだろ、朴念仁を絵にかいたようなお前が? こんな美人とランデブー?」


 織田さんは俺の後ろで小さくなっていた。八神の妙なテンションに押されて、どう対処して良いのか判らなかったのだろう。そんな戸惑いを見た八神は、標的を俺から彼女に切り替えた。


「あ、申し遅れました。コイツの腐れ縁の八神慶太です。気軽にケイちゃんとお呼びください。あ、名前の最後には♡つけてね」

「あ、はぁ……初めまして、織田です。普通に織田さんとでも呼んでください」


 織田さんは呆気にとられながらも、ニコリと笑顔で対応していた。それに気を良くしたのか、八神の奴はズケズケと入り込んでくる。


「で、藤堂とはどういったご関係で? そこんとこ詳しく……」

「そういうのやめろよ。会社の同僚だって」

「あれ、そうかぁ? 美人さんはそんな顔してないぞぉ」

 

 八神は笑いながら、グリグリと肘で俺を押してきた。昔と変わらないのは嬉しいけど……このノリに織田さんがキレなければ良いのだが。

 しかし当の織田さんは(うつむ)き、顔を赤らめていた。面向かって何度も『美人』と言われて、流石に恥ずかしかったのだろうか。というか、なんだか少し嬉しそうな表情をしている。

 俺はなんか妙なモヤモヤを感じ、初手から八神の弱点を突く伝家の宝刀を抜いた。


「あ、ケイちゃんは妻子持ちですよ」

「言うなよ!」

「言うだろ!」


 ……何がケイちゃん♡だよ。まったく、奥さんが泣くぞ。


「藤堂さんのこういう姿、はじめてみました」


 口に手を当ててケラケラと笑う織田さん。俺は学生時代に戻った感じがして、気が緩んでいたのかもしれない。自分が話のネタになっているのってあまり好きじゃないけど、彼女が笑顔になるのなら良しとしておくべきか。今日は一日気を張りつめっぱなしだったからな、来て正解だったと思う。


 ここ、八神の家は老舗の蕎麦屋で、親父さんが打つ蕎麦が最高に美味い。三番粉を使った香りの強い(やぶ)蕎麦は一度食べるとクセになってしまう。八神自身は今まさに二代目の修行中で、毎日親父さんに(しご)かれているそうだ。

 その店の前で話をしていると、親父さんがヒョコっと顔を出した。手に暖簾(のれん)を持っているのはそろそろ夜の営業時間だからか。


「おう、藤堂か」

「お久しぶりです。また美味いそばを食べにきました」


 入口に暖簾をかけながら、織田さんを鋭い目つきで……いや、眉尻が下がってんな。親父さんは何か微妙に柔らかい目つきで織田さんを見ると、照れる様にボソッと口を開いた。


「……入りな」

「はい、突然すみません。おじゃまします」

「突然じゃない客なんていねぇよ」


 ……ごもっともで。

 ぶっきらぼうだけど情に厚い、昔気質(むかしかたぎ)の親父さんだ。俺達がテーブル席に向かい合って座ると、親父さんは()()()()()()()にお茶を運ばせながら、自身は隣のテーブルのイスを引っ張ってきて座った。


「それで……いったい何をやらかしたんだ?」


 流石親子、全く同じ聞き方をして来る。俺は順を追って、報道された内容がいかに嘘かを話し始めた。もちろん口に出来ない事が多く、あらかじめ織田さんと決めておいた一部フェイク込みの内容だ。

 話しながら、八神の打った蕎麦をごちそうになった。明確な味の違いは判らないが、それでもやはり親父さんの方が美味い気がする。

『素人の打った蕎麦で金はもらえねぇ』

 と親父さんは言ってくれたが、流石にそれは気が引けた。素人と言われた八神にもなんだか申し訳ない。かと言って無理にお金を渡すのも、親父さんの厚意を無にしてしまう事になってしまうだろう。


「でしたら、お店を手伝わせてください」


 どうしようかと思っていた所へ、織田さんが提案を投げかけた。なるほど、これなら親父さんの顔も立つし、俺達も気持ちよく恩返しが出来る。これは織田さん流の筋の通し方と言ったところか。


「藤堂さん、あなたはトリスをお願いします」


 手伝う気満々だった俺に、織田さんは髪を後ろで縛りながら小声で話してきた。


「昼間にほんの数分繋がっただけで、まだ何もアドバイス出来ていないですわよね?」

「ええ。でも、それなら織田さんも一緒の方がよくないですか? 零士君の声も聴きたいでしょうから」

「私は……私は、いない事にしてください」


 それは一体……何故なのだろう。せっかくスパイ容疑が晴れたのだから、報告するべきじゃないのか? 彼女は目を瞑り、ひとつひとつ自分に言い聞かせるように言葉をつなげていた。


「零士クンは私の事をスパイだと思っているのですよね?」

「ええ。テロ組織の人がそう言っていたと……」

「戦地にいる彼に余計な悩みを与える訳にはいきませんから。下手な事を言って惑わす位なら、今はまだ、私はスパイのままでいいので……お願いします」 

「織田さん……」


 なんだか俺にはこの気丈さがとても悲しく感じられた。遠くにいて気持ちが届かなくても、相手の事を想い自制している。いや、『自分を制す』と言ったところで、結局のところ我慢を強いられているって事に他ならない。


 ……こんな残酷な運命は早く終わらせなければ。


「わかりました、俺も全力でやりますので。織田さん、彼が日本に戻ってきたら一緒に誤解を解きましょう」

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