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インディペンデンス・レッド ~5000マイルの絆~  作者: 幸運な黒猫
第四章:虚言・怨恨・逆恨み(日本)

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第39話・覚えていますか?

「こいつ、会長って言ってたけど……織田さん、なにか思い当たる事は?」

「思い当たる事、ですか」


 織田さんは口に手を当てて目を瞑り、考え始めた。その時間およそ十数秒。彼女は目を開けると、俺の目を真っすぐに見て言い切った。


「あのエロじじい、何かと理由を付けては私にちょっかいを出してくるのよ」

「え、と、会長の事……ですよね?」

「この黒服が会長の指示で動いていたのは間違いがないけど、零士クンの件と関係があるのかわからなくなってきたわね」


 織田さん曰く、入社時からずっと言い寄られていたそうだ。望月部長もそれを知っていて富士吉田支社に引き抜こうとしたけど、絶対権力には効果がなかったらしい。


「でも、彼氏がいるとか結婚予定とか、そういう設定にするとかなかったのですか? 零士君だって理由(わけ)を話せば協力してくれたかもしれないのに」

「あのエロじじいはね、女の属性なんかどうでもいいんだよ。結婚していようが子供がいようが、自分の性欲が満たせればなんでもいいんだよ」

「なんか、身も蓋もないですね」


 ……なんだろう、会社辞めたのが正解な気がして来た。





 俺達はとにかく安全圏に逃れようと走る。行くあてはないけど、とりあえず駅を目指す事にした。

 ちなみに、本日全力疾走三回目。プラス格闘。そして妹が拉致されていた事の精神的ストレス。更に不眠と自室サウナ化、栄養のない“しなしなレタス”。ありとあらゆる要素が混ざって(たた)り、ヘロヘロになってしまっていた。


「藤堂さん大丈夫?」

「平気ぃ。……で!!」


 ごめんなさい、いまのは嘘です。足元がふらついてしまい、すぐ脇にある金網に身体ごと体当たりを喰らわせてしまった。カシャンッという軽い音を立てて(しな)((注1))金網。その先には、砂場や遊具が点在しているのが見え、ぼやけた頭でもそこが公園なのだと認識出来た。


「丁度良いですわね。少し休みましょう」

「すみません」

「いえ、倒れられたら私も困りますから」

「こんな醜態を晒してしまうなんて……情けない」

「あら、今更ですよ。お気になさらず」


 ……これって、励まされているのか? 俺は織田さんに促されて、肩を借りながら公園内のベンチに腰を降ろした。ジャングルジムには使用禁止と書かれた黄色いテープが巻かれ、街灯や金網には『公園内野球禁止』『さわぐな』といった注意事項が書かれた板が掛けてある。そのせいか遊んでいる子供が少なく、静かすぎて妙な感じもするけど……むしろ今はその方がありがたかった。


「それにしても、何故言問(アレ)が藤堂さんの住所を知っていたのです?」

「俺を訪ねて本社に行ったらしいんですよ。そしたら退社していたから、社員台帳で調べたそうです」

「——っ」

「織田さん?」

「……はぁ」


 絶句した後に盛大なため息を吐く織田真理。そこまであからさまだと、流石にちょっと凹むのですが。


「藤堂さん、あのですね……」


 何か織田さんの視線が痛い。ジト目で睨まれている様な、よく解らない表情で俺を見て来た。


「居酒屋で私が質問した内容覚えていますか?」

「……なんでしたっけ?」

「スパイの人物像です」

「人事部を通さないで、え~と……社員のデータを勝手に閲覧できるレベルにいる人。でしたよね?」


 社員台帳(データ)を管理している“人事部”を通さずに閲覧できる事が出来る者。厄介なのは、その権利は重役以上の社員に限定されているという事だ。その為、“俺のデータをテロ組織に横流しした犯人”はある程度限定されるのだが、その肩書きが邪魔をしてなかなか調査する事が難しい。更には単独犯という事も考えにくく、組織的な……


「あっ……」

「気が付きました?」

「……はい」 

「富士吉田支社の肩書無し営業マンの言問(アレ)が、何故、本社で社員台帳の閲覧が出来るのかという事に」


 ――それか。何か大事な事を忘れていると思っていたけど、そこに引っかかっていたんだ。ってもう、何やってんだよ俺は。電話の時点で答えが出ていたじゃないか。


「すみません。オレが最初に気が付いていれば……」

「いえ、責めているのではありませんわ」


 不意にニコっと笑顔を見せる織田真理。俺が、自分自身の無思慮に凹んでいるこのタイミングでそれはズルいのでは?


「ただ、逃げたのは失敗だったかもしれませんね。言問(アレ)に“データを閲覧させたのが誰なのか”を吐かせるべきでした。間違いなく重役クラスとつながりがあるという事ですから」

「そうですね、なんかもう色々とすみません。あなたを助ける事ばかり考えてしまっていて……」

「いえ、それに関してはお礼を言わなければなりませんわ。それに……」

「それに?」

「これに何か手掛かりが入っているかもしれませんから」


 と言いながら、彼女は胸のポケットから小型のUSBメモリを取り出し、ストラップ部分を持ってプラプラと見せて来た。


「それは?」

「コッソリと業務データをコピーしてきました」


 ……なんだって!? それって横領((注2))か何かになった気がする様なしない様な。あれ、もしかして黒服が追って来たのって、これが原因じゃないのか?


「確か2~3年前、ドバイエキスポ会場視察の為に、社長以下数名の社員が現地に行ったと記憶しています。もしかしたら、なにか手掛かりが残されているかと思って」

「織田さん、それって相当ヤバイ事やっていません? 下手すると懲戒免職ですよ」

「望むところですわ! 貴方にだけ退職させたとあっては申し訳ありませんから」


 流石にこの状況を見越していたとは思えないけど、でも、結果的には正解だった様にも思える。言問さんがスパイ確定だとしたら、今度こそ出社するのは危険だ。ならば必要なデータを持ち出し独自に調べるのが最も安全な方法だろう。

 でもこれって、見つかって訴えられたら完全に負けだよな。たとえ会社がテロ組織と関りを持っていたとしても、法律上はこちらに非があるのだから。


 ……ただ、織田さんがそこまで危ない橋を渡るというのなら、少なくとも俺は、彼女が橋から落ちない様に支えるまでだ。


「生活はどうする気ですか?」

「そうですね……」


 彼女はめちゃくちゃ楽しそうな笑顔で、冗談とも本気とも取れない事を言う。


「二人して、清里のペンションで雇ってもらいましょうか」

(注1)撓る/撓う-しなる/しなう。弾力があって折れずに曲がる事。

今現在一般的には『しなる』で通っていますが、厳密には『しなう』が昔からある正しい言葉。自分のパソコンでは、『しなう』のみ漢字変換が出てくる。

ちなみに、剣道で使う「竹刀-しない」は「撓竹-しないだけ」の意味。


(注2)社内情報をコピー等で複製し媒体を持ち出した場合、状況により「窃盗罪」もしくは「業務上横領罪」に問われます。



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