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インディペンデンス・レッド ~5000マイルの絆~  作者: 幸運な黒猫
第三章:汚れる覚悟(中東)

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第19話・聞いていいですか?

「そうか、そういう事……」


 兄妹だと思っているからこそ同じ牢に入れたのか。そしてタブレットの男は()()()()()()()()()()()()()()()兄妹じゃないと判断したのだろう。この()は奴隷でも道具でもなく人質、藤堂堅治に言う事をきかせるための手札だったんだ。

 テロ組織の現状と今までの話から、多分ハリファは、ベテランHVオペレーターが駆る最新式のHuVer(フーバー)を内戦に投入するのが目的だったのだろう。だから藤堂堅治の情報しか必要なかったという事だ。


「くそっ、ふざけんな。オレのHuVer-WK(ホーバーク)はそんな事の為にあるんじゃない」


 ……怒鳴ってしまった。藤堂堅治の妹、藤堂穂乃花(ほのか)はビクッと体を震わせると、オレの方を心配そうに見てきた。


「あっと、ごめん。色々考えていたら頭に来ちゃって」

「いえ、仕方がないですよ。こんな状況ですから」


 タブレットの男が言っていた『(むすめ)の為に生き残らなければならない』と言うのは、オレがこの()を見捨てたら、生きて日本に帰れたとしても、その先は真っ当に生きていけないという脅しに他ならない。

 この娘をオレへの(かせ)にしやがったのか。マジでムカつく奴だ。もっとも、(はな)から見捨てて逃げる選択肢はないけどな。


「なあ、あの男の言った事どう思う?」

「ここから逃げるって話ですよね」

「うん」

「判断はお任せします」


 ……は?


「任せるって、自分の生き死にに関わる事だろ……なんでそんな投げやりなんだよ」

「別に投げやりな訳でも人生捨てている訳でもありません。私は英語もアラビア語も解らないし、ふーばーと言う物も兄が動かしているって事位しか知らないし」

「だからって……」

「世の中何がきっかけになってどう転がるかなんてわからないのですから、見えない物やわからない事に怯えるのは損です」


 確かにその通りだけど……そこまでスッキリと達観出来るものなのか? それもこの若さで。


「私はわからない事に悩む人間になりたくないんです。もちろん、何か気が付いたらちゃんと話しますよ。それに……」

「それに?」

「任せた以上は結果に文句は言いません」


 正直驚いた。まさしく大和撫子だ。凛として折れない、めちゃくちゃ筋の通った(オトコ)じゃないかこの()は。


「それに、失敗したら二人共死ぬのですから、文句言いたくても言えませんね」

「そりゃそうだ」


 不思議と笑みがこぼれた。藤堂穂乃花と言う女性の気丈さは、どことなく織田女史と重なって見えた。日本を離れて数日しか経ってないけど、あの子ども扱いしてくる面倒臭さが凄く懐かしく感じられる。


「あの、一つ聞いてもいいですか?」


 と、少々言い辛そうに聞いてきた藤堂穂乃花。


「あ、はい。何でしょう?」

「名前を……」


 何やってんだオレは。彼女の名前を聞いておきながら、自分の紹介を完全に忘れてた。なんだかんだでオレもいっぱいいっぱいだったんだな。


「零士・ベルンハルトです」

「ベルンハルトって、ドイツの方です? あれ、でも日本人っていってましたっけ?」

「親父がドイツなんだ。まあ、オレが成人する頃には死んじまってたから、国籍を日本にした感じ。だから戸籍上はちゃんと母方の姓ですよ。会社に、…………」

「……どうかしました?」

「ああ、いや、会社に無理言って、親父の姓で登録してもらっているんで」


 “会社”と口にした瞬間、オレの中で警告音を鳴らす何かがあった。そもそも、会社が藤堂賢治とHuVer-WK(ホーバーク)、更にはこの()をテロ組織に売ったのは間違いがない。あれだけの大企業が、いったい何のために人事売買の真似事をするのか。そしてそれは、()()()社内に内通者が居ることを示唆している。

 オレは、牢番をしている兵士に断片的なアラビア語と英単語で話しかけた。『タブレットを持った男を呼んでくれ』と。



 10分程経っただろうか。鉄格子の前に現れると同時に、呆れ口調で話しかけてくるタブレットの男。


「なんでしょう? あなたとの関係を変に勘繰られる事はして欲しくないのですが」

「なあ、角橋重工の中にいるアンタらの仲間は誰なんだ?」

「なんともストレートな質問ですね」


 タブレットの男は“そんな事で呼び出したのか?”といった感じで腕を組み、苦笑しながら口を開いた。


「それを教えてどうするのです? 会社に戻って捕まえますか? 牢屋の中で? どうやって?」


 事ある毎にイライラさせてくるヤツだ。だけど今は、そこに引っかかっている場合じゃない。


「アンタの提案を飲む条件だ、そのくらいは教えてくれてもいいだろう?」

「……そうですね。ではヒントを教えましょうか」


 そう言うと左手人差し指でこめかみをトントンと小突き、暗に『自分で考えろ』と伝えて来た。


「本来ならば、本物の藤堂堅治がここにいるはずだった。しかしそれが叶わなくなったと判断した我々の仲間は、アナタに白羽の矢を立てた」


 そんな事は解っている。それが誰なのかを問題にしているのに、わざわざ焦らしてくる。こいつは平素であっても友人にしたくないタイプだ。


「では、何故アナタだったのでしょうね? 他にベテランHVオペレーターがいたはずですが?」


 このひと言に“はっ”となった。確かにそうだ、予定が空いているのがオレだけだったとしても、スケジュールの調整なんていくらでも出来るはず。

 まったく考えていなかったけど『何故オレなのか?』というのは思いの外重要な要素だったんだ。


「反政府組織:ドゥラとつながりのある人物、それはトードゥの代役としてアナタをこの地に送り込む事が出来た者ですよ」

「——っ」



 その時オレは、空港での会話を思い出していた。


『ちょっとなによ、その覇気のない返事は』


 嘘だろ……?


『ああ、それはね』


 まさか……だよな。


『私が推薦したのよ』


 織田女史がスパイって事なのか?

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