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インディペンデンス・レッド ~5000マイルの絆~  作者: 幸運な黒猫
第三章:汚れる覚悟(中東)

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第16話・処刑

※♦~♦の間はセルフレイティング該当箇所です。もし途中で嫌悪感を感じたら、終わりの♦まで読み飛ばして下さい。話は繋がる様に構成してあります。

 生暖かい砂埃が舞い、オイルの臭いが漂ってくる街。ほとんどの建物に内戦の爪痕が残り、壁のない病院や天井の無い民家が立ち並ぶメインストリート。そこにいる人の目にはとても生気と呼べるものは宿っておらず、ただ、悶々と日々を生きるしかないといった感じに見える。

 ここは中東、バジャル・サイーア共和国内の反政府組織占有地。ギラギラと照り付ける太陽とは裏腹に、陰鬱で活気の欠片もない街だ。


 あの後オレはタンカーの上で拘束され、このアジトに到着するまでずっと二人以上の監視のもとに置かれていた。身動きが出来ないオレに意味もなく銃口を向けて、慌てるオレを見てニヤニヤしているゲスな奴らだった。


 ――そしてオレは今、反政府組織:ドゥラの最高指導者と思われる男の前に引き出されていた。


「お前がトードゥ((藤堂))か、歓迎するぜ」 


 粗末な椅子にふんぞり返り、いかにも『俺樣がここの大将だ』といったこの男は、ドゥラの最高指導者らしい。粗暴で残忍、そんなイメージを具現化した様な男だった。偉そうに反政府組織なんて言っているけど、単なるテロリストだってことは彼らのやり口から解る。


ハリファ((注1))、女も連れてきますか? それとも……」


 兵士の一人が彼を『ハリファ』と呼び、段取りの確認をしようとした時だ。左手を上げて言葉を制止し、咥えている葉巻で一人の男を指し示した。


「その前に、こいつの始末だ」


 そこには腕と足に包帯を巻いた体格の良い男が立っていた。オレがタンカーの上で恐怖を感じた、怒鳴り散らしながら仲間を殺したあの男らしい。HuVer-WK(ホーバーク)で蹴飛ばしたコンテナに巻き込まれて数か所骨折したそうだ。あの状況で生きているのも凄いと思うけど、何よりオレ自身が人殺しにならなくて良かったと、その時はホッとしていた。


「始末って、俺は仕事をちゃんと……」

「やってねぇよなぁ!?」


 突然雰囲気がガラッと変わるハリファ。包帯男の言葉を遮ると、壁に沿って立っている兵士達に目配せをした。彼等は無言のまま進み出て包帯男の腕と肩を掴み、外へと引きずり出す。

 この部屋も例に漏れず壁の一部が崩れ、大きな穴が開いていた。そのすぐ脇に立てかけてある木の板で普段は穴を塞いでいるのだろうか?

 包帯男は銃を持った兵士に促され、雑草の中にポツンと置かれた粗末な木の椅子に腰を下ろした。腕と足を椅子に縛りつけ、ハリファを待つ兵士達。多分このあと何か良からぬ事をされるのがわかる。だけどオレは黙って見ているしかなかった……下手に口を出して、自分まで同じ目にあう訳にはいかない。


「待ってくれ。アレを壊したのは俺じゃねぇ」


 包帯男の懇願を全く意に介さないハリファ。むしろ何も聞こえないと言った態度で頭にボロ袋を被せた。



 兵士の一人がスマホくらいの大きさのケースを開け、中から注射器を取り出した。針を上に向けて少し液体を出しながら、側面を指ではじいて空気を抜く。その手慣れた動きは日常的に行われているという事なのだろうか、兵士はそのまま包帯男の腕に針を突き刺した。


「ハリファ、頼むよ、頼むって!」

「おいおいおい、俺は傷を付けずに持ってこいと言ったはずだ。それがなんだあれは。傷だらけだよな?」

「でも、俺がやった訳じゃ」

「あ? じゃあ何か、お前が輸送するだけの簡単な指示すら守れない能無しって事か」


 包帯男は頷きながら『そうです』と繰り返し口にしていた。とにかくその場から逃れたい、そんな必死さだった。自分が能無しだと認め、許しを願おうとしたのだろう。しかし……


「つまりお前は、能無しに仕事を任せた俺のせいって言ってんだよな?」

「そんな事は決して言ってねぇ!! ……です」


 ハリファは言葉を無視して振り返り、机の上の置時計をチラリと見た。


「そろそろか」

「え?」

「お前、なんで外にいるか解っているか?」

「それは、その……」


 ベルトポーチからナイフを抜き、(するど)さを確認するかの様に刃先に親指をあてるハリファ。


「答えろや!」


 怒鳴りつけながらくるりと逆手に持ちかえ、包帯男の腕に振り下ろした。


 その瞬間オレは目を瞑り、悪夢から醒めてくれと願っていた。とにかく恐怖と狂気を感じ、本能的に見る事を拒んだのだと思う。しかし数秒後、何か違和感を覚えた。……悲鳴が聞こえて来なかったからだ。

 そっと目を開けると、目隠しをされた包帯男の腕から真っ赤な血がダラダラと流れているのが見えた。しかしまったく痛みを感じていないのだろうか、『頼むから許してくれ』と懇願を続け、腕を刺し貫かれている事に気が付いていない。さっきの注射は麻酔だったのか。それもかなり強力なものだったのだろう。


 兵士が目隠しのボロ袋を取ると、そこで初めて包帯男は体の異常を目の当たりにし……悲鳴を上げた。


「俺のせいだよな?」

「い、ひぃ、たす、助けて下さい……」


 身体をガタガタと揺らし、逃れようとする包帯男。しかしハリファは彼の目の前で、痛覚の死んでいる指を一本切り落とす。


「ま、待ってうああ……」

「俺のせいだよな??」

「いえ、いえ、お願い助け……」


 ハリファは包帯男が口を開く度に、指をナイフで一本また一本と切り落としていった。 

 身体は縛り付けられ動けず、しかし脳は完全に覚醒している。痛みも感触もなく、自分の体から指が無くなり、血が流れ続けるのを見る事しか出来ない恐怖。確実に死に近づいている現実を理解しながら『これは嘘だ』と、どこかで今を否定しようとしている。泣き叫び、わめき散らし、よだれを垂らして嘔吐していた。

 出血が増えて段々と身体が(だる)くなってきたのだろう。包帯男は力なく首をもたげ、ブツブツと呟くだけになり、やがて沈黙した。……涙と(よだれ)、そして漂う糞尿の臭いを残して。


「おい、粉撒いとけ((注2))



 目の前で行われた静かで残酷な処刑。オレは目の前の人間だった塊から、目を離すことが出来ないでいた。正直『そこまでやる必要があるのか?』と思いもしたが、それがここのルールなのだと刷り込まれる力の方が圧倒的に強かったのだと思う。


 結局、普段安全な場所に居る日本人のモラルなんて、ここでは便所の紙よりも役に立たないと思い知らされただけだった。

(注1)ハリファ/ハリーファ

イスラム政治学の用語で、継承者・代理人の意味。本作では最高指導者を意味する。


(注2)石灰か、それに準ずる物と思われる。



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