第13話・希望
「助けるって、そんな事可能なのですか?」
「直接何か出来る訳じゃないけどな」
「ですがそもそもの話として、その……」
「零士が生きているのかって事だろ?」
言いにくかった事を、部長が先回りして口にしてくれた。その言葉が出た瞬間、目を瞑りうつむく織田女史。彼女には悪いが、現状で零士・ベルンハルトが生きている証拠が何もない。テロ組織に拉致されたという噂話が伝って来ているだけで、実際はどうなっているのかわかっていないのだから。
「藤堂、織田。二人とも、日本政府が“藤堂堅治をテロリストと認定した理由”を知っているか?」
「いえ、報道で流れた映像以外の事は何も」
タイミングを見計らったように、横からスッとノートパソコンを差し出す美郷さん。モニターを開くとすでに起動してあった。話の流れを斬らない様にと、あらかじめ準備していたのだろう。
そこには中東のバジャル・サイーア共和国政府軍と、反政府組織:ドゥラを名乗るテロリストとの戦闘の模様が映し出されていた。
「これは、盗まれたHuVerが内戦で使われた映像だ」
夕刻なのだろうか、画面が暗くてハッキリとは見えないが、旧式のHuVerに混じって、一機だけ真っ白の機体が見えた。
「この動画が、日本政府に直接送られて来てな」
「何でこんなものが……」
「角橋重工は自衛隊と情報共有しているだろ? そして自衛隊の最高責任者は総理大臣だ。つまりHuVer絡みの安全保障の関係上と理由付ければ、政府から自衛隊に降りて来た情報を共有させてもらう事が可能という訳だ」
そんな裏技があるのかとこの時初めて知った。それでも、かなり強引な手なのは確かなのだろう。
「普段なら民間企業として自衛隊に降りて来た情報に関わる事はないが……今回だけは別だ」
「だから日本政府は、俺がHuVerを手土産にして、テロ組織に組みしたって判断したのか」
「でも、ちょっとおかしくない?」
と、疑問を投げかけたのは美郷さんだった。
「この映像だけで、どうして藤堂君がテロリストだって判断出来るの?」
確かに、俺と判別できる要素なんてまったくない。そしてこの美郷さんの疑問を受けて、織田女史も何かに気が付いた様だ。
「そうか……そういう事ね。部長、この映像って日本政府に直接送られて来たって言いましたよね?」
「ああ」
「マスコミ報道の内容も、その時一緒に送られて来た可能性ってないかしら?」
俺の個人情報がテロ組織から送られて来た? 流石にそんな事はあり得ないと思ったけど、それならばつじつまが合う……合ってしまう。
拉致されてから報道までのスピードが異常に早く、そして会社に問い合わせすることもなく社員情報が流れる。マスコミが最初から情報を得ていた可能性も考えたが、政府に映像が送られて来ているのに、俺の個人情報だけマスコミにあるのは不自然だ。
「最初から俺が拉致される予定で、個人情報がテロリストに送られていた。そして零士・ベルンハルトを拉致すると同時にその情報を日本政府に送ったという事か」
本人かどうかも確認しないで決められた行動をとるとか、責任感の欠片もない所業。俺の大嫌いなタイプだ。しかしそのおかげで綻びが出来て、突破口が見つかったのは皮肉以外のなにものでもない。
「でも、考えたくはないけど、零士クン以外の人が動かしている可能性も……」
またもや下を向く織田女史。冷静に物事を捉えて判断するのも、時として考えものだ。状況から推測するに、零士・ベルンハルトがすでに死んでいる可能性を考えてしまったのだろう。
特に彼女を元気づけるというつもりではなかったけど、俺は、彼が生存していると確信できる理由を話し始めた。
「織田さんは知らなくても仕方ないけど、あのHuVerには専属オペレーターしか動かせないという生体認証システムがあるんだ」
「生体認証?」
事務職の人には生体認証なんて馴染みがないだろう。織田女史は眉間にシワを寄せながら、大人しく言葉の続きを待っていた。
「ライセンスカードに登録されたDNAデータと、操縦者のDNAが一致しないと動かせないセキュリティシステムなんです。あの機体にだけ実験的に搭載されているんですよ」
「ですがテロリストが登録したら動かせるのですよね?」
「それが無理なんです」
そう、無理なんだ。テロリストどころか世界中見渡しても、あのHuVerを動かせるのはほんの数名しかいない。俺は出来るだけの笑顔を作って説明を続けた。
「DNAデータの入ったライセンスカードは、生体認証システムを開発した時、角橋重工でHV免許を持っている社員のみに発行しているんです」
これが唯一にして揺るぎない理由。そしてこの先、彼の生死を握るかもしれない希望だ。
「だから映像の場所であの白いHuVerを動かせるのは、零士・ベルンハルトしかありえないんですよ」
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