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夢魔の物語  作者: B&R
5/5

episode 5

 モゾッと寝がえりを打ち、頬に柔らかいものが触れ、それに驚き俺は目を覚ました。


(あれ……俺……確か森を抜けて……)


 意識が朦朧とする頭のまま体を起こし、俺は頬に触れたものを見た。それは、俺が毎日使っている布団。周りを見れば、俺の私物が置いてある部屋、窓の外は晴れて青い空と、見覚えのある風景が広がっていた。


「部屋……ってことは!」


 意識がはっきりしてくると、記憶が鮮明になってきた。

 

夢魔に召喚され、俺の意思で入ったあの『物語』

 『物語』の中で出会った『ナツキ』という少女

 少女を助けるために行った行動

 そして……森を抜けた後見た少女の笑顔


「これが、『夢魔の物語』……か」


 まるで現実に起こった出来事のような感覚が少し気持ち悪い。それでも、その気持ち悪さが『生きて戻ってきた』という事実を実感させる。


「夏輝……お前のおかげだ」


 夏輝が最後にあの言葉を残してくれたおかげで、俺は『夢魔の物語』を攻略することができた。心の底から、今は亡き幼馴染に感謝の言葉を何度も告げるのだった。



都市伝説でいうなら二日目になるその夜、解放感からか、俺は久々に深い眠りにつくことができた。

もし、あの時『傍観者』を選んでいたら、この夜も召喚され、自分の命を守るために、あの『物語』を攻略しなければならなかったが、俺は一日目に『接触者』を選び、『夢魔の物語』を攻略して、戻ってきた。もう夢魔に召喚される事は二度とない。

その証拠に、俺はその夜、夢魔に召喚されることなく朝を迎えることができた。


 次の日、孤児院の院長に言われ、俺は夏輝の遺品を整理する手伝いをしていた。整理と言っても、段ボールに詰めるだけの作業。

 できることなら、俺が孤児院を出て行くまでずっとこのままにしておいてほしかったが、それは出来ないと言われ、しぶしぶ片づけて行く。


「幼馴染とはいえ、男の俺が片づけるってどうなんだろう……」


 苦笑しながら私物を段ボールに詰めていく。



「これで最後…っと」


元々私物が少ないからか、それとも俺の知らない間に進められていたからか、片づけはあっという間に終わってしまった。

 最後の私物を詰め終わり、段ボールを部屋の隅に積んでいく。家具以外何もなくなってしまった部屋を眺めると、少し寂しくなってきた。


「……本当に死んだってことを実感するよな」


 小さくため息をつき、部屋を出て行こうと扉の方へ歩いた時、ふと本棚の後ろに何か挟まっていることに気がついた。取り出してみると、それは埃を被ったアルバムだ。


(なんでアルバムが本棚の裏に…?)


 それほど見られたくなかったものなのか、それとも落ちてしまったが気付いていなかったからか……とにかく、これは立派な私物だ。私物は段ボールへ、と立ちあがりしまおうとしたら、アルバムの中から一枚の写真が落ちてきた。

 裏返しに落ちた写真は、裏面に「夏輝・八歳」と書かれている。


「見ても、大丈夫だよな」


 もし恥ずかしい写真なら後で謝ろう、そう思いながら写真を広い、写っている夏輝を見た。


「………嘘…だろ」


 写っている夏輝は施設に来る前の頃の姿で、俺が知っている夏輝の姿ではない。

 だが……俺はその姿を知っている。いや、つい最近写真の姿の夏輝を見た。


「ナツ……キ?」


 その姿は、俺が『夢魔の物語』で出会った少女、ナツキとよく似ている……いや、見た目、服装、髪の色、瞳の色、全てが同じだ。


「どういうことなんだ……なんで……なんでナツキと同じ姿なんだよ……」


 『偶然』という言葉では片づけられない。

もし、夢魔が俺の記憶から、夏輝の姿を基に『ナツキ』という少女を作りだすとしても、その時の俺はこの写真を目にしていなく、作り出すための媒体にはならない。


「まさか、あの『ナツキ』って……」


 登場人物を『人間の記憶』から作られているとしたら、少女『ナツキ』の姿を作るための記憶を持っているものは一人しかいない。

『夢魔の物語』によって一度でも『傍観者』を選択してしまい、三度目の召喚によって夢魔に殺されてしまった……


―― 夏輝……本人のみ

 

もし、このことが事実なら、あの時『傍観者』を選択していたら、俺は夏輝を見殺しにしていたことになる。


「この都市伝説……そうとうヤバイじゃねえかよ……」


 召喚された人間の選択によって、登場人物は、記憶によって作られたとはいえ『死』を二度味わうことになってしまう。

 そして、夢魔に召喚され、いまだ三日後まで生き残った人間がいないということは、俺以外の人間は、『傍観者』を選んでしまい、三度目の召喚後に突然死したか、『接触者』を選んだが攻略できず『物語』の中で死んでいったか、のどちらかということになる。

 俺は……本当に運が良かった、そういうことだろう。 


(このこと、何かに記録しておこう)


 もし、俺の知り合いの誰かが召喚された時のために。そう思い俺はアルバムと写真を段ボールに詰め、急いで部屋に戻り、ノートに殴り書きをした。


 『夢魔の物語』

 それは夢魔が語る『物語』の結末を、召喚した人間に『傍観者』か『接触者』のどちらかを選ばせる『死』と隣り合わせな『物語』

 『接触者』は攻略に成功すれば空間から脱出することができ、三日後も生きることができる。

 『傍観者』は何もしなくても空間から脱出できる。ただし、三回目の召喚後に死ぬ。そして、二回目で『接触者』を選択しても、結末を帰ることはできない。

 死を回避する方法は、一回目の召喚で『接触者』を選び、攻略するしかない。


夢魔の正体は不明。だが、俺の目の前に現れたのは子供の姿をした夢魔だった。

 

『物語』に登場する主要人物の正体は、召喚された人間の記憶、もしくは犠牲となった親しい友人や知人の記憶が使われている可能性が高い。



 夢魔がどうやって召喚する人間を選別しているのかが分かれば、一番の対処法になる。しかし、それを知るすべはない。それでも、助かる方法があるのとないのでは違う。

 だからこそ、唯一の生き残りである俺が、知っている限りの情報を書き残さなければいけない。

 それが、都市伝説『夢魔の物語』から逃れるための唯一の方法となるのだから……。


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