三章 傘の正体
ルンの声を聞いた少年が、ガギガーの後ろに立っていた。
まだ…傘の中にいるのかい?」
「…どういうこと!何であいつ私を知ってるの?」
ルンがわけがわからないという声を出した。
「あるところの科学者は不思議な武器を作り出した。それは見た目はただの傘なのにまるで魔法のような攻撃がくりだせる。そう、僕の傘もそうだし、ルンもそうだ。」
少年が語り始める。
「ところがその武器を作るためには、一人の人間が傘にならなければならなかった。いや、正確には、一つの傘を作るのに、その傘の中に一人の人間を入れるのだ。」
「でもお前の傘は喋らないし目も口もないぜ?とても人間が入ってるとは思えないぜ?」
ガギガーが割って言う。
「あぁ。人間が入った傘から人間を出す方法がある。エターナルストーンと呼ばれる石を傘に食べさせるのだ。ただ、それぞれの傘によって、必要な石の数が違う。さらに石を一つ食べると一つの能力を覚えられる。」
少年はここで一息おいた。
「例えば僕のこの傘は三つの力を使える。石を一つも食べていない状態だと、能力は一つもなく、今のルンのように人間が入っている傘となる。ところが、石を三つ食べさせると、中の人間は外に出れて、三つの力を使えるようになるんだ。」
「でも私は石なんて一つも食べてないわよっ!」
ルンが叫ぶ。
「ルンが今持っている五つの力は研究室で五つの石を食べさせられたからだ。ルンは十個の能力を持つから、あと五つの石を食べればいい。」
また、一息おいた。
「私は…覚えていない…何も…ただ、自分が人間で、人間の手によって傘になったのだろうと。それだけはなんとなく覚えてた…だから人間への恨みで血を好むようになったの…ガギガー、信じて。」
「そこらへんの話しをしましょう。どうしてルンはまだ傘の姿なのか。傘の中に人間がまだ入っているのはルンだけだよ。ちなみに僕の名前は棒 我左羅。君は?」
「ガギガーだ。」
ガギガーが答えると、棒は再び話し始めた。
暗く冷たい部屋。
つんと鼻をつくような薬品のにおい。
部屋はかなり蒸し暑かった。
「助けて!私は嫌!」
泣き叫びながらも無理やり運び込まれ、何やら薬を飲まされる少女が棒の目に止まった。
棒はすでに傘になっている。
今、三つ目の石を食べた。
気づかないうちに自分は傘から出ていた。
さっき泣いていた少女はと、目をやるとすでに傘になり、五つ目の石を食べていた。泣きながら何か言っている。
「う…う…私は…私は知ってるの…この傘を使って…最強の武装集団をあなたたちはつくろうとしているんでしょ?私は…いや…なりたくない!」
そう叫ぶと傘は刀に変わり、科学者の手を切り落とし、残りのエターナルストーンを手に持ち透明になって逃げた。
すぐに風の力を操る傘を持つ者がそこら中に暴風を出したが泣いていた少女、ルンは見つからなかった。
「おそらくルンはその風で飛び、石は途中で落とし、君もどこかに頭をぶつけて記憶をなくしたのだろう。僕は、君を探して連れ戻すように命令を受けたが、もちろんその気はない。ただ、石を探して、ルンを元の人間にしてあげたいんだ。そして、できればルンをこんな姿にしたやつらをたおす。もちろん僕たちのようなのがたくさん敵として現れるわけだが。」
こう話し、棒がガギガーとルンの二人を見る。
つまり二人の仲間になりたいわけだ。二人の答えを待っているようだ。
「…オレはルンに任せるよ。」
「ガギガー…私は」
ルンが言い終わらないうちに誰かが現れた。
「棒よ、きさま裏切るか…」
現れた男が棒に言う。
「僕はもともとあなた方につく気はなかった。」
「なら…死あるのみだ!」
男が走ってくる。
「一人で十分。」
ガギガーが助けようとしたので棒が言う。
「君達二人の仲間だということを証明するよ。」
そう言うと棒も走り出した。
とても速い。
あっという間に敵の後ろに回り込んだ棒は、傘を刀に変え、切る。
「ガギン。」
刃物が硬い物に当たる音がした。
「棒よ…お前は確か三つの力を使うな…」
刀に変わった傘を腕で止めながら男が言う。
「なるほど…すでに二つの力を使ったなぁ…ちなみにオレは二つの力を使うぜ?ふふ…はやくなる力で後ろに回り、刀に変え切るとはなぁ…だが、刀に変えた瞬間、スピードは普通に戻ったぜ?別の力を一緒に使える力があれば、速いスピードのままで刀に変えて切れたのに残念だったなぁ。」
にやりと男が笑い、傘で殴ろうとする。
さっとよけて棒が呟く。
「硬くなる力か…」
「んんー?違うぜ。好きな物を硬くする力だぜ。」
ずんっ。と傘で突く。
さっ。とよけたが少しだけかすった。
しかし、敵の二つ目の力はそれだけで十分だった。
「がはっ!」
棒の口から大量の血が出てきた。
「二つ目の力は内臓への攻撃だ。傘に少しでも触れると内臓へダメージが行くぜ。」
「…なるほど…」
片ひざをつきながら呟く。
「おらぁ!」
敵はまた傘で攻撃してくる。
「!」
しかし足が動かない。
「三つ目の力…砂だ。」
棒が男の足元に砂を出し、足をつかませたのだ。
「ほう?しかし切れないぜ?」
「やっと…体が動くようになった…」
そう言う棒は、速くなり再び敵の後ろに回り、刀に変え、突き刺そうとした。
しかし、男の体は硬く、刺さらなかった。
今や男の足元に砂はない。
「死ねっ!」
傘で男が殴るのを棒はかわし、刀に変えた傘で切ろうとするが今度はよけられる。
「痛くないわけじゃないねぇんだ。よけられるならよけさせてもらうぜ。」
今度はパンチだ。
棒がよける。
敵のパンチは岩を砕いた。
「ガギガー!助けなくていいのかい?」
「一人でやると言ったんだ。必要ないだろう。」
「でもガギガー!」
「ルン…死なせはしないさ…信じるんだろ?あの男を。」
ガギガーがそう言うとルンは黙って何も喋らなくなった。
「オレも…お前が人間に戻れるように手伝うよ。エターナルストーンを一緒に探そう。」
「ガギガー」
「しかし、あいつは助けない。あいつは死なないから助けなんて必要ねぇ。」
ルンが何か言おうとしたのを遮ってガギガーが言う。
「じゃあ棒と一緒に?」
ルンの言葉にガギガーはこくんと頷く。
「あぁ。一緒に石を探そう。そしてその武装集団をつぶす。」
「私もやるよ!」
「もちろんだ。これからもよろしくな、ルン。」
「こちらこそ。ガギガー。」
『くそっ!どうする?…』
敵の攻撃をよけながら棒は考える。
「はははははぁー。いつまでも逃げてちゃオレはたおせんぞ!」
またパンチ。
今度は傘。
さらに傘。…そうか!
棒は敵をたおす方法がやっとわかった。
「もう、お前は負けるぜ?」
「ほう?ではオレも本気になろう。」
そう言い傘でついてくる。
はやい!
「なっ!…がはっ!」
大量の血を再び吐く。
「死ねっ!」
もう一度傘で突く。
「くっ!」
地面を転がりそれをよけるが、内臓へのダメージが大きく、まだうまく動けない。
「本気になれば好きな内臓へも攻撃できる。次からは心臓へ攻撃する。どんな者も三回の攻撃で死ぬ。さらにお前は他の内臓へのダメージもあるから二回で死ぬ。一回でもくらえば、虫の息だろう。」
そう言って男が傘をふりあげる。
ガギガーがルンを握って走るが遠すぎる。
『くそっ!これが最後のチャンス…』
そう思い棒が傘を強く握り締める。
「死ねっ!」
男が傘を振り下ろす。
瞬間、ものすごい砂嵐が男をおそう。
「目くらましのつもりか!効かぬわっ!」
バシィィーーーーン!
大きな音が鳴る。
砂嵐に棒の赤い血が飛び散った。