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傘男  作者: shiyushiyu
3/5

二章 ガギガーとルン

 目の前は真っ白だ。


 ――これは、夢…なのか?


 いや、ちがう。


 夢じゃない。


 シーツの白だ。


「コンッコンッ。」


 気づいた瞬間、部屋のドアを叩いて鳴らす音が。そして、


「お兄ちゃん朝だよ。」


「おう。起きてる。」


「ロウも起こしといて。」


「えー。あいつ起きてないないのかぁー。わかった。お前は朝飯食ってろ。」


「うん。わかった。」


 ガギガーの妹、明日香はそう答え、ガギガーの部屋の前からいなくなった。


「ロウ、起きろ。朝だぞ。ロウッ!」


 ガギガーの弟ロウはとても寝起きが悪い。そのくせどこでも寝る。


 ガギガーがロウを起こし始めてから十五分経ってやっとロウは起きた。


「兄ちゃんおはよう。」


 ロウが目をこすりながら言う。


「ロウ遅いぞ。明日香はもう飯食ってるぞ。」


「え?姉ちゃんはえーなぁー。」


 ロウが驚く。


「はやく飯食え。」


 最後にそう言ってガギガーは自分の部屋に戻った。


 昨日のことは夢だったのかな?


 あれからどうやって家に帰ったのかも覚えてない。


 ぼーっとしてまだ起きてない頭を使っても答えは出ない。


 そういえばあの傘は…ルンはどこに?


 考えても何も出ないのでとりあえず朝食をとることにした。


「あらガギガー。昨日の傘はどうしたの?いつでも肌身離さず持ってないと大変って言ってたじゃない。」


 ガギガーの母が言う。


「傘…」


「そーよー。ずっと持ってないとダメなんだー!って言ってたじゃない。」


 母がガギガーの真似をして言う。


「うそー!お兄ちゃんそんなこと言ったのー?子供みたーい。」


 明日香がからかう。


 しかしガギガーはそんなこと聞かず自分の部屋へ走り出した。


 途中でロウに会った。


「あれ?兄ちゃん。」


 ガチャン。


 部屋に入る。


 なんで今の今まで気がつかなかったんだ?


 ルンが自分の部屋にいるなら最初に気づくはずなのに。


「ガギガー!私を独りにしないという約束を忘れたのかい!」


 ルンが怒る。


「私を独りにしたらガギガーのまわりの人間を不幸にしてやるって言っただろ!」


 そこまで言われてやっと思い出した。


「そういやそうだった!」


「思い出したなら私を持って朝食の場へ行きな。私を持ってないと私もあんたも能力が使えないんだから。」


「あぁ。そうだったな…持ち主もルンと同じ能力が使えるって力は、人間ただ一人で、ルンが認めたたった一人の人間がルンとほとんど同じ力を使えるんだったな。」


 ガギガーが思い出したという感じで言う。


「そうよ。じゃあこれは覚えてる?私がその力を発動しても、その人間つまりガギガーはエアショットとかをうつためには私を持っていないと発動できないの。私を持ってないと私の力を使えないのよ。」


 うん。とガギガーは頷く。


「私も同じなのよ!ガギガーが私の力の一部を使えるようになった時から、私もガギガーも、ガギガーが私を持っている時しか能力が使えないのよ。」


 ルンが怒鳴る。この傘は相変わらずよく怒鳴る。そしてうるさい。よく喋るし。


 しかし、ガギガーは何も言わなかった。


 短い沈黙が流れた。


「そうだったのか…」


 ガギガーが呟くと、ルンはふんっと鼻を鳴らした。


「まっ、私は全然気にしてないわ。大好きな血をあんたがくれるんだし。」


 ガギガーはルンを持って朝食を食べに行く。


「兄ちゃん。」


 朝食を食べながらロウが言う。


「何だ?」


 食べ続けながらガギガーは聞き返した。


「何でその傘持ってんの?」


 するとガギガーが答えるより先に母親が、くっくっと笑いながら答えた。


「ガギガーお兄ちゃんはねー、この傘を持ってないと大変なんだってー。さぁ、二人とも学校に遅れるわよ。」


 母親がガギガーとロウに朝食をはやく食べるよう促した。


 ロウは、変な兄ちゃん。と言い、明日香は大笑いした。


 母親が明日香を注意すると、だってお兄ちゃん子供みたいなんだもーん。と明日香は再び笑った。


 たしかに、何も知らない人からすれば変人だろう。


 しかもガギガーは、この家では父親的存在だ。はやくに父親を亡くした明日香とロウにとって、とてもケンカが強く大人っぽいガギガーは、頼れるお兄ちゃんというより、頼もしいお父さんなのだ。


「さっさと飯を食え。」


 ぶすっとガギガーが言う。頬が赤く染まるのを感じた。


「ギャハハー!ガギガー、あんた愉快な家庭で育ったものね!あんたを変人として見てるわ!」


 しかしガギガーはルンを無視した。


 どうせルンの声はみんなには聞こえない。ここでルンと喋ったらさらなる変人としか思われない。


 ガギガーは急いで朝食を食べ、学校へ行った。


「ちょっとガギガー!もっと私をやさしく扱いなさい!」


 ルンが叫ぶのを無視して、ルンを自転車に引っ掛けて学校へ向かった。


 今日は晴れている。そんな中傘を持っていれば、いやでも人目をひく。


「ガギガー。お前何で傘なんか持ってるんだ?」


 友人のルドルが言う。


「あぁ、オレの中では今日雨が降るんだ。」


「なんだそれ?ってかお前、その傘、不幸の傘じゃねーのか?」


 ルドルが驚いたようにガギガーに聞く。


「そう呼ばれてるらしい。オレの傘だけどな。」


 そう言って教室に入る。


 ガギガーはルンを机の横に引っ掛けた。


「学校にいる時はオレが持ってなくても我慢しろよ。」


 ルンに囁く。


「いいけど、私を忘れたらまわりの人を不幸にするわよ!」


「そういや思ったんだけどよー、どうやって不幸にするの?一人で動けないのに。」


 ふと思いつきガギガーが聞く。


「私は動けないなんて言ってないわよ!あんたが私と初めて会った時に勝手に決めつけたんじゃない。」


「なるほどね。まっ!忘れねぇからよ。」


「なにお?」


 突然ガギガーの後ろから声がした。


 ガギガーが驚いて振り返るとクラスメイトのミキがいた。


「ミッミキ!」


 ミキを見てガギガーがかなり慌てる。


「何を忘れないの?」


 小首を傾げ、もう一度ミキが同じ質問をする。


「なっ…なな…何だっけなぁー。」


「とぼけないでよ!私との約束…覚えてる?」


「約束?」


「ひどい…そのことを忘れないって言ってたのかと思ってたのに!」


 急にミキが泣き出した。


 その時、はっとガギガーの頭にミキとの約束が浮かんだ。


「ちょっと待てよミキ。本気で言ってたの?あの約束。」


「そうよ。ガギガーは何を忘れないつもりでいたの?」


 ずいっとミキがガギガーに詰め寄る。


「もっもちろんミキとの約束だよ!大きくなったら結婚しようっていう小さな頃の約束のことだよ!」


 あわててガギガーが言うと、ミキはにこりと微笑み、よかった。と言った。




「いいねぇー。若かったんだねぇー。あんな約束してるなんてねぇ。」


 放課後、帰りながらルンが言う。


 生徒は家へ向かって帰っていた。


「待ちな。」


 帰る途中で呼び止められる。いつもケンカばかりしているガギガーにとっては毎日のことだ。


 どうやらガギガーのことを知っているらしい。


 ガギガーは自転車から降り、ルンをつかんだ。


「ヒャハハハハー!血がもらえるねぇ!」


 ルンが叫ぶ。


 しかし、敵にはルンの声が聞こえない。


 ところが、遠くの少年には聞こえたらしい。


 少年が走り出した。


 ――ルン。君は今どこにいるんだ?




 ガギガーと敵はにらみあった。


「傘を使うのか?」


「はやく終わらせたい。全員一気にかかってこい。」


 敵は少なくとも十人はいる。


「なぁにぃ?」


 ガギガーの言葉に敵は怒る。


「武器でも何でも使え。いくぞ!」


 敵はキレた。


「「殺せぇー!」」


「エアショット。」


 傘の先と自分の指先からエアショットを打つだけでガギガーは勝利した。


 このことがより、傘男を有名にした。


 たった一人の少年が、傘を持った少年が十人以上の不良グループに勝利した。と。




「やっと見つけたぞ!ルン!」


 背後から声がした。

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