7夜目「友情タイムリミット」
富士の高みよりも巨大化したロボの中から、天の邪鬼の本体を追い出すことに成功した得夢たち。
だがその体が小さくなったとは言え、得夢たちの背丈よりもまだ、優に500倍近くもある。
「居醒ちゃん、どうやって瞬間移動したの?」
「場所を見つめて念じる!」
居醒が得夢たちに向かってピースする。
「それだけっ?」
「さすが怪人装備」
夜船とねんねが呆気に取られながら感心するなか、春眠だけはうっとりだ。
「怪人スキルは居醒ちゃんの知能レベルにぴったりね!」
「春眠、それ侮辱してるよねーーっ? よねーーっ?」
居醒の活躍?で皆が瞬間移動をできるようになったのだけど。
天の邪鬼はというと、得夢たちに背中を向けまいと、高速で移動し始めた。
「ボクの背後に回れるものなら、回ってみなよっ!」
天の邪鬼を7人で取り囲んでいる得夢たちだが、おのおのには残像で、天の邪鬼が常に正面を向いているように見えている。
「これじゃ背後に瞬間移動ができたって意味ないよっ!」
得夢たちの移動よりも素早い動きの天の邪鬼に隙が無い。
百夜(ももよ)が業を煮やして炎の玉を猛烈に打ち出すも。
「このっ、わたしだけ見てろーーーっ!」
「どこを狙ってるいの? こっちだよ!」
天の邪鬼にいとも容易く躱される。
「ももちゃんっ、弾幕が薄いでっ!」
「かっこよく登場した割には……」
「役に立ってない」
「ももちゃん独り残して帰ろー、帰ろー」
夜船と春眠とねんねと居醒が、肩をすくめて両手を広げる。
「帰るなーーっ! あんたたちには、この火力のすごさがわかんないのーーーっ?」
「わっ、天狗だっ!」
「ももちゃん、また天狗になりよった!」
「天狗じゃなーーーいっ!」
居醒や夜船が百夜に失望しかけた、そのとき!
「百夜さん、あなたのレベルなら、天の邪鬼と同じ速度で瞬間移動を連続しながら、炎の玉を至近距離から撃ち出せるはず!」
帳の言葉に百夜がはっとする。
「そうか! 奴の動きに合わて、常に目の前にいればいいわけねっ!」
帳の助言を聞き入れて、百夜はふっと姿をかき消した。
次の瞬間、天の邪鬼の目と鼻の先に現れて、炎の玉を撃ち放つ。
ほぼゼロ距離からの炎の玉が、天の邪鬼に的中した!
「くっ!」
天の邪鬼の動きに怯みが生じた。
「やった! 当たったでっ!」
「効いてる! 効いてる!」
「ももちゃん、いっけーーっ!」
夜船や居醒や得夢がにわかに盛り上がるなか。
「うぉりゃああああっ! 逃げたって無駄だあああっ!」
百夜は連続で瞬間移動を繰り返し、炎の魔法を集中砲火し始めた。
天の邪鬼が炎の玉を嫌がって苦痛を浮かべる。
「奴が一瞬でも立ち止まったら、それがチャンスよっ!」
天の邪鬼の高速移動にぴったりとくっついて、百夜が爆煙の渦をぐるぐる描く。
ついには天の邪鬼の動きが止まって後ずさった。
「今だっ!」
得夢たちが一斉に天の邪鬼の背後に瞬間移動した、のだが!
「ええ~~~~~っ!」
天の邪鬼の背中に、コクピットが!
「あちちちちーーーっ!」
そこから熱さに耐えかねた天の邪鬼が飛び出してきた。
「またロボだったのーーっ?」
「どうやって操縦しているのかしら! 器用な夢魔ね、ねんねちゃん!」
「はううっ!」
居醒が前のめりになり、春眠とねんねは胸を躍らせる。
更にロボットだった体から、本体を追い出した得夢たちだが、それでも天の邪鬼の背丈は100倍近い。
「ももちゃん、もう一度おねがいっ!」
「まかせとけーーっ!」
得夢たちの声援を受けて、百夜が天の邪鬼に炎の魔法を浴びせかける。
動きが止まったところを、得夢たちが背後に瞬間移動した、のだが!?
「マジで~~~~~っ!」
天の邪鬼の背中に、またもやコクピットが!
「あちちちちーーーっ!」
天の邪鬼がまた飛び出してきた!
居醒は目の玉が飛び出しそうになり。
「ちょっ、どうなんてんのーーっ?」
夜船は半ばやけくそになってきて。
「くそーーっ、次や、次っ!」
得夢が粘り強く応援する。
「ももちゃん、もう一回っ!」
「おりゃああああっ!」
百夜が再び天の邪鬼を炎で攻撃し、得夢たちが背後に瞬間移動。
しかしまたまた背中にはコクピットがあって。
天の邪鬼が大慌てで飛び出してくる、を繰り返す。
「マトリョーシカかーーーっ!」
得夢たち全員がつっこむさなか。
「こうなったら、とことんやってやるわーーーっ!」
百夜が天の邪鬼を渾身の火あぶりに。
コクピットから飛び出してきた天の邪鬼の背後に瞬間移動で回り込む、を何度か反復した果てに!
「やった! コクピットがないでっ!」と、狂喜の夜船。
「これが本当の本体だわっ!」と、居醒は夜船と手を取り合った。
「よしっ、それじゃ散開してって……、あれ?」
「なんか小さい」
「わたしたちのほうが……、大きいわね!」
今まで見上げていた得夢とねんねと春眠が、見下ろしていることに気がついた。
天の邪鬼の身長が100センチくらいになっている。
得夢たちは天の邪鬼を取り囲み。
厳めしい武器を頭上にかざして。
悪い笑顔で上から見下した。
「や、やだなあ。お姉ちゃんたち、恐い顔しちゃって! ボクは天の邪鬼。やっと面と向かってお話できたね! にはっ」
天の邪鬼が幼子のように微笑むが。
「みんな、やっちまえーーーっ!」
得夢の号令で皆が飛びかかる。
「わーーっ、助けて! 何でもお願いを聞いてあげるからーーーっ!」
「この夢を逆夢にするーーっ?」と、夜船。
「するする!」
「ねんねの子分になるーーっ?」と、ねんね。
「なるなる!」
「ちゃんと言うこと聞くんだぞーーっ! ぐがおーーーっ!」と、猛獣のように吠える居醒に。
「ぎゃはああっ、聞くっ、聞くーーっ! だから見逃してーーーっ!」
天の邪鬼は青くなって泣きべそ顔だ。
もはや敵意は感じられない。
ただの怯えるお子様で、演技には見えないが。
「どうしよっか」
得夢たちが集まって、何やら話し合ったのだけれど。
「やっぱダメー。見逃せない」
「そんなぁ。見逃してくれたらボクを召喚できちゃうよー?」
「召喚?」
得夢たちが小首をかしげる。
「そう! 呼べばすぐに駆けつけて助けてあげるんだ!」
「どんな夢でも?」
「どんな夢でも!」
得夢たちの顔がニンマリになる。
「夢魔を召喚できるなんて、凄くない?」と、興奮気味の得夢。
「あんまり聞いたことない!」と、ねんねは鼻息を荒くした。
「まあ! 天の邪鬼ちゃんといつでも遊べるのね!」と、春眠が大喜びをして。
「ええかも知れへんなあ!」と、夜船は悪い顔でデレデレした。
「帳お姉様、どうしましょう?」
居醒が期待に満ちた瞳で帳に尋ねると。
「私たちの目的は、この予知夢を逆夢に変えることよ。まずはそれを叶えてもらわないことにはなんとも言えないわ」
「いま叶えてあげるから! 見てて!」
天の邪鬼が目を閉じて、思念を凝らし始めた途端。
雪雲が泡のようにかき消えて、太陽の日差しと共に一面の青空が広がった。
極寒の気温が上昇し始め、穏やかに暖かくなってきた。
それと同時に海の氷が溶けていく。
「海面が引いていくわ!」
「町が見えてきた!」
「わたしたちの学校も!」
日の光に輝く街並みに、居醒や夜船、春眠たちの気分が一気に高まってゆく。
海底だった大地が現れて。
濡れた緑の木々が煌めきだす。
町から生活音や喧騒が聞こえてきたかと思えば。
多くの人たちが、普通の日常を営み出したのだ!
「これで予知夢は逆夢に変わったよ。でも良く聞いて。これは数ある未来のうちのひとつが、こうなっただけなんだ」
天の邪鬼が悲しげに話し出す。
「どういうこと?」
得夢の素直な問いかけに。
「つまり、本当の未来は、私たち次第ってことね」
帳が思うところを補足する。
天の邪鬼は帳たちへ笑顔を投げかけた。
「その通り。この夢みたいな顛末にしたくなかったら、地球のことを忘れないでね。ボクができるのはここまでだ。この世界の未来を託したよ? それじゃあ、まったねーー……」
天の邪鬼の周りが暗くなって。
次元の向こう側へと、手を振りながら消え去っゆく――。
「わたしたちも、帰ろっか!」
得夢たちが夢の出口に向かって飛翔する。
「ねんね、お腹空いたーーっ!」
「うちもペコペコやわあ!」
ねんねと夜船のお腹がぐうぐう鳴った。
「教室に置いてきたお弁当、まだ痛んでないかしら!」
「ねえ、みんなでお弁当を寄せ合ってシェアしない?」
「居醒さん、いいわね! みんなで食べましょう!」
春眠も居醒も帳もご飯の話に目が細くなる。
「…………」
百夜が参加したそうにもじもじしていると。
それに居醒が気がついて。
「ほら、ももよちゃんも一緒に食べようよ! 今日だけは友達なんだから!」
「本当に今日だけのつもりーーっ?」
「お弁当、美味しかったら、明日も考えてあげる!」
「あたしのお昼ご飯、マーガリン入りの黒糖ロールパンなんだけどっ?」
「それ、何個入り?」
「確か6個……」
夜船が涎を垂らしてニンマリ微笑む。
「じゃあ、帳お姉様に得夢ちゃんにねんねちゃん、居醒ちゃんに眠ちゃんに、そしてうちで、ちょうど6個やな!」
「ちょっ、あたしの分はーーーっ?」
「ももちゃんの分は、わたしたちのおかずから分けてあげるわ!」
「それ、信じていいんでしょうねーーっ?」
春眠とねんねが百夜に大きく頷いて。
「今日は友達。期限切れまで楽しもう」
「消費期限のある友達なんてやだーーっ!」
「友情を深めるのも、食欲を深めるのも、お早めにってことで!」
「得夢ちゃん、うまいこと言う~~っ!」
居醒がツッコミ、みんなが笑い合う。
得夢たちが予知夢から退出してみると、あの巨大な悪夢への入り口はなくなっていた。
生徒たちの人だかりもなく。
放課後を知らせるチャイムが鳴り響いた。
授業の終わった生徒たちが慌ただしく帰宅するなか。
得夢たちは中庭の東屋に集合し。
「みんな、お弁当オープン!」
テーブルにお弁当を披露した。
「得夢ちゃんの、なに?」
居醒たちが興味深く覗き込むそれは。
お弁当箱いっぱいに入ったクリーム色の固形物とパイの様な物だった。
「マカロニ・アンド・チーズと、ミートパイだよ。出来立てがおいしいけど、冷えたのも好きなんだ」
得夢はそう言って、溶けたチーズが冷え固まった表面にフォークを刺して、中に詰まった美味しそうなマカロニをみんなに見せた。
ミートパイは4分の1サイズがラップに包んで置いてある。
「へえ、なんかアメリカって感じ! おいしそう! それで、夜船ちゃんのは?」
「居醒ちゃん、ごめんなあ、今日は時間なくて、たこ焼き詰めてきてん」
夜船のお弁当箱には、ジャンボたこ焼きがぎっしりと詰め込まれている。
生地も鰹節もしなしなになってはいるが、染みたソースの匂いが絶妙で、これはこれで食欲をそそられる。
「自分で作っただけでも尊敬するよ、夜船ちゃん! みんなに分けやすくてグッドだし!」
そこへ春眠がお弁当を差し出してきた。
「居醒ちゃん、見て! わたしだって手作りのルーローハンよ!」
「春眠、それってどんなの?」
「簡単に言うと、豚肉のそぼろをかけたご飯ね! 汁は出ないように工夫しているわ!」
飴色の豚肉そぼろに、ゆで卵の白と黄色が鮮やかにトッピンされていて、甘辛い匂いが居醒たちの鼻腔を刺激した。
「おいしそう! 国際色豊かになってきたわね! じゃあ、ねんねちゃんのは……、って、お寿司ーーっ?」
居醒の目を引きつけた漆塗りの高そうな器には、マグロやサーモンなどのにぎり寿司が豪勢に30貫ほども入っている。
その隣には、イチゴを始め、桃やメロンを使ったケーキがずらりと並ぶ。
「ここはビュッフェかーーっ」
居醒の歓喜の叫びに、ねんねは。
「みんなで分けるっていうから、急遽取り寄せさせた。ケーキも食べて」
と、お皿を分配する。
「そだった、ねんねちゃんってお金持ちだったーーっ!」
「ねんね、何か空気読まないことをした?」
「ううん、最高にグッジョブよ!」
居醒たちがねんねにサムズアップする。
「それで帳お姉様のはっ?」
居醒たちの視線が急に集まって、帳は少しはにかんだ。
「私のは至って普通よ。ねんねさんの後だと、なんだか恥ずかしいわね」
帳のお弁当箱は小学生の女子が持つような小さなサイズで。
その中身は半分が白米で、その隣に卵焼きやミートボール、蒸したブロッコリーなどが小綺麗に並べられている。
「かわゆすぎかっ、帳ちゃんっ」
「欲しいものがあったら言ってね」
言いたいけど、取ったらすぐに無くなっちゃうな……と、居醒は苦笑した。
「よーし、本日のメインお弁当、ももよちゃんのを見せなさーいっ!」
「だからあたしはマーガリン入りの黒糖ロールパンだってば!」
百夜は黒糖色のロールパンが6個入った袋を居醒に見せつけた。
「本当にそれだけなのっ?」
「安くて量もあっておいしいから言うことないの! 好きなんだから、構わないでしょ! そういう居醒のお弁当はどんなのよっ!」
「わたしのはね……、じゃーん!」
居醒は爆弾おにぎりをひと玉取り出した。
かぼちゃくらいの大きさがある。
「おい、言い出しっぺ!」と、得夢。
「どうやって分けるんやっ?」と、夜船。
「居醒ちゃん、策士ねぇ!」と、春眠がにやついて。
「居醒だけ独り占め」と、ねんねがジト目になる。
「違う、違う! 得夢ちゃんが剣でズバッと切り分けてくれるかと思って!」
「7等分なんて無理だよっ!」
「なら、ねんねのお世話係に任せて」
ねんねが手を2度叩くと。
「かしこまりました」
お世話係が陰からババッと現れて、ナイフをススッと振り回す。
「おお~~~~っ!」
爆弾おにぎりがスイカのように7等分に切り分けられて、使い捨てのお皿に取り分けられた。
「それじゃあ、みんなで食べ合いっこしよーーーっ!」
「わーーーいっ!」
得夢たちはおかずを譲り合い、お弁当パーティーで友情を強く深め合ったんだってさ。
ところで、午後の授業をサボったことは、大丈夫だったのかな??
おしまい!
最後までお付き合いくださいまして
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