表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/7

2夜目「怪しいからって、拙悪とは限りません!」

「武器商人のAOSオートオーダーシステムが機能してるか試してみよう。なにがあるかわからないしね」


 得夢(エルム)が頬に手を当てて、どんな装備にしようかと思案し始めたところに。


「また超人っ?」


 居醒(いさめ)は両手でお尻を隠した。


 超人装備とはその名の通り、すべてが超人レベルの力を発揮する高性能な装備なのだが。


 その装束は乙女の恥じらいを崩壊させる、下着丸出しなデザインなのである。


「やっぱりアレは恥ずかしい?」


「得夢ちゃん。恥ずかしいっていうか、()()はダメっていうか……」


()()は?」


 夜船(よふね)とねんねが居醒を察して項垂れた。


「居醒ちゃん、いくらケチだからって、下着くらい穿かんとあかんで」


「露出狂、良くない」


「ちゃんと穿いてるわーーーっ!」


 春眠(しゅんみん)が居醒のスカートをペロンとめくって、うれしそうに悶絶する。


「キャラパンねっ!」


「それしかなかったのーーっ!」


 居醒は涙をほとばしらせては、お尻をスカートの中へと仕舞い込む。


 そんな居醒を見かねて。


「超人装備が苦手なら、怪人装備はどうかしら。違いは衣装くらいなものよ」


 と、(とばり)が提案してみるが。


「かっ、怪人装備~~っ?」

「かっ、怪人装備ーーっ!」


 居醒が顔面蒼白になる一方。


 ねんねが胸を躍らせる。


「いかにも蠱惑的な装束ねっ!」

「はううっ」


 春眠はねんねと頷き合って、鼻息を荒くした。


「ねんねは怪人がいいっ!」


「ええやん! いっぺんやってみよ!」


「夜船ちゃんも賛成みたいだね。よし、せーので行っくよーっ!」


 得夢たちは大きく息を吸って、ナイトメア・ゴールドをばら撒いた。


「せーのっ、怪人装備! 怪人スキル! 怪人のエンチャント!」


 得夢たちの制服が毒々しい光を放って変形し始めた。


 タンクトップとホットパンツを組み合わせたようなセパレーツタイプのスイムスーツ(タンキニ)に、ブーツとグローブ、そして首飾りのチョーカーが現れた。


 それらはツヤのあるラバー素材(ゴム)でできていて、そこへ全身タイツが各パーツをつなぎ合わせるように、露出した素肌をぴっちぴちに覆っている。


「ひーーっ、これじゃ怪人というより、変人だわーーっ!」


 ラバーのトップスを掴んで引き伸ばしては、居醒はバチンと弾いてみせた。


「ボディーラインがセクシーね!」


 春眠が胸を寄せて魅惑のポーズを決めてみせると。


「怪盗コスみたいでかっこいいじゃない!」


 得夢も小粋なポーズをしてみせた。


「怪盗ラバーッ」


「見参っ!」


 ねんねと夜船はヒーローごっこのようなポーズをみせて、居醒に物欲しそうな顔を覗かせた。


「ほらほら、居醒もポーズ、ポーズ!」


「居醒ちゃんがリーダーやでっ!」


「変人のリーダーなんかするかっ!」


「でも居醒ちゃんが1番似合ってるで?」


「どこからどう見ても変態」


「変態に昇格してるぅーーーっ!」


 帳がクスクスと笑いながら。


「だけど、ボディーペイントじゃなくて良かったわね」


「人ごとだと思って! どうせ帳お姉様は違う装備なんでしょ! ……って、ええーーっ!」


 居醒の瞳に映るのは、紛れもなく怪人装備に包まれた、帳が威風堂々と立っていた!


 心に曇りなど一点もなく。


 羞恥心のひと欠片も見当たらない才女の勇姿。


 それはまさしく、立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。


 ただし、ラバーとタイツの怪人装備だが。


 居醒の瞳がぐるぐる回り出してきた。


「な、なんだか怪人装備がかっこよく見えてきたぁ~~~」


「姿勢良ければ無様なし、よ!」


 帳も瀟洒(しょうしゃ)なポーズをしてみせた。


「帳お姉様、ちょっと笑ってない?」


「笑ってる! 笑ってる!」


 帳の今にも噴き出しそうな真面目な顔に、得夢たちは思わず噴き出した。




 武器がちゃんと具現化されるかどうか、得夢たちが両手両足を振ってみる。


 超人装備は空手チョップのような振りをすると、手足の先から武器が具現化したからだ。


 得夢は四肢から烈風の大剣が。


 夜船は火炎のハルバードが。


 ねんねには氷結のソード・ブレイカーが。


 春眠はシールドにもなる大地の大鎌で。


 居醒には迅雷の対物ライフルが具現化されて出た。


「超人装備と同じですね!」


「特に問題なさそうね」


 帳は得夢に頷いて、四肢から光暁のツイン長刀を具現化しては、回転しながら宙を舞う。




「それにしても、本当にわたしにそっくりね!」


 自分と同じ姿をした夢の住人に近づいて、居醒がほっぺたをぷにぷにと押してみる。


 何をしても反応はなく、抵抗もない。


 ところがほっぺを押し続けていると……。


 突然。


「うがあっ!」


 牙を剥き出し噛みついてきた!


 それを既の所で居醒が飛び退く。


「わっ、怒ったっ!」


 瞳と口から赤黒い石油の涙と涎を垂れ落とし、まるで狂犬病にかかったように凶暴だ。


 これをきっかけにして、病が一瞬にして伝染したかのように。


 夢の住人たちが一斉に襲いかかってきた!


「うらめしやーーーっ! がるるうっ」


「ぎゃーーっ、帳お姉様ーーっ!」


 死に物狂いで逃げてくる居醒に。


「居醒さん? どうしたのぉっ……」


 帳は息を飲み込んだ。


 居醒のすぐ後ろから、赤黒い涙や涎を垂らした狂気の沙汰の集団が、今にも噛みつく勢いで押し寄せてくる。


 得夢たちも異変に気がつき、たちまち大パニックだ。


「居醒ちゃんのバカッ、こんなに親戚連れてきてーーっ!」


「やっぱり夢魔やったんやっ!」


「切り口が見える!」


 得夢と夜船とねんねの目に、はっきりと映し出されたV字型の切り口は、夢魔にしか現れないものだった。


 そこから斬りつけることで、夢魔を一撃で倒すことができるのだ。


「まあ素敵っ、さっそく怪人装備を試してみましょっ!」


 春眠が言下に武器を具現化するが。


 帳がそれを即座に制止した。


「倒してはダメ! これは予知夢なのよ! リアルでも人が消えかねないわ!」


「じゃあ、どうすればっ!」


 帳が得夢の背中に手を押し当てて。


「走るのよーーっ!」


 得夢たちは脱兎のごとく逃げ出した。


「あれを見てっ! 足跡があるっ!」


 居醒が見つけた足跡は、海の中へと続いているようだ。


「やっぱり誰か入ってきてるんやーーっ!」と、夜船。


「でもなんで海の方にーーっ?」と、得夢。


「とりあえず、後を追ってみましょう!」


 帳の言葉に従って、得夢たちが海の中へと駆け込んでゆく。


 ところが居醒だけはなぜだか立ち止まってしまった。


「みんな待って~~っ! 怪人スキルを潜行スキルに変更するから~~っ!」


「居醒さん、その必要はなくてよ!」


 帳が急いで居醒の手を掴む。


「海にひそむ怪人だっているじゃないっ!」


 得夢も居醒の手を引いた。


「でもその理屈だと、空も飛べるし、地中に潜れちゃう怪人だって……」


「だから超人スキルと変わらない」


「全部入りやで、居醒ちゃんっ!」


「怪しくても万能よっ!」


 ねんねと夜船と春眠が片目を閉じて、居醒に親指を突き立てた。


 得夢たちはゴミをかき分けながら、波立つ海へと潜行していく。


 海の中へ入っても、水の抵抗を感じなければ、潮の流れに飲まれることもない。


 陸と何ら変わらぬ自由が海の中でもあることに、居醒は改めて驚いた。


「帳お姉様っ、怪人スキルってしゅごいですねっ!」


「ふふ、そうね!」


 海中へとすっかり潜った得夢たちだが、その背後に迫るのは。


「まだ追ってくるわーーっ!」


(みん)ちゃんっ、全速力で走るんやーーっ!」


「夜船はお尻、噛みつかれそう。ふふ」


「ねんねちゃんっ、この夢魔、足が速すぎないーーっ?」


 砂浜から続く足跡を、得夢たちが猛スピードで辿って行くと、下へと続く階段が見えてきた。


 なだらかだった海底は、その階段から急激に深くなっているようで。


 得夢たちが勢い余って、階段を飛び出すようにジャンプする。


 水の抵抗を受けないせいか、崖から飛び降りたかのように、得夢たちは猛スピードで深海へと落下していった。


「うぉおおおおおおっ!」


 階段の遙か下方に人工物が見えてきた。


 それは民家のような形をしている。


 視界が広がっていくうちに、民家の数が末広がりに増え――。


 なんと、上から見下ろす町並みの全貌が、海の底に現れた。


「町がっ、町が丸ごと沈んでるーーっ!」と、得夢。


「あれはわたしたちの学校じゃないーーっ?」と、居醒。


「置いてきたお弁当あるかしらーーっ!」と、春眠。


「ねんねもお腹すいてきたーーっ!」


「ちょっと待ってっ、人がおるーーっ!」と、夜船。


 黒ずんだ人影が町のあちこちから集まってきた。


「こんなところに人が住んでるのーーっ?」と、居醒。


「こっちに向かってくるわ。お迎えねーーっ!」と、春眠。


「違うっ、あれは人じゃないっ!」


「どうやら歓迎されてはなさそうよ!」


 得夢と帳がいち早く異変に気がついた。


 両足にはヒレがあり、手には水かきがついている。


 肌は鱗に覆われていて、上半身は人間の腕が生えたシーラカンスの様相だ。


「国産肉が侵入したぞーーっ!」


「人肉シチューに人肉ステーキッ!」


「腹がはち切れるまで喰い尽くせーーっ!」


 目や口から赤黒い石油を噴き出しながら、銛をかざして押し寄せてくるその集団は。


「半魚人の大群だーーーっ!」


「みんな、応戦に備えてっ!」


 帳の合図と同時に、得夢たちが武器を具現化する。


「うおおっ、3枚におろして食ったるねんーっ!」


 と、夜船が先陣を切って突っ込んでゆく。


「ちょっと待って! あんなゲテモノ、食べちゃうのーーっ?」


「居醒、食われる前に食うのが怪人っ!」


 と、ねんねも血気盛んに反撃に出た。


「眠ちゃんっ、怪人ならゲテモノでも消化できるよねっ!」


「得夢ちゃんっ、お腹を壊さないってゾクゾクするわねっ!」


 得夢も春眠も目がギラギラだ。


「みんな空腹でおかしくなってるぅーーーっ!」


 四方に散らばった得夢たちが、怪人スキルで半魚人の切り口を見つけては、そこへ刃を突きつけ切り裂いていく。


 帳は半魚人の群れへ彗星のごとく突っ込んで、一筋の剣筋で多くの夢魔を退治した。


 帳には及ばずとも、得夢や夜船や春眠も、群を一刀両断できるようになってきた。


 ねんねは両手両足で同時に切りつけ、居醒も4体同時に撃ち倒す。


 そんな交戦のさなかに。


 うつむいたまま春眠が立ち止まっている。


「どうしたの?」


 居醒が声をかけてみると。


 春眠は直径2センチほどもあるダイヤモンドを見せつけた。


「なにその特大ダイヤッ!」


 居醒が驚喜しながら駆け寄るも、春眠はそれを投げ捨てた。


「ちょっ、なにするのっ!」


「半魚人ちゃんのお腹にあるのはね、全部プラスチックのゴミなのよーーっ!」


 半魚人を倒して得た数々のナイトメア・トレジャー。


 居醒はそれらを確認してみた。


 ルビーも、サファイアも、エメラルドも、ダイヤモンドも、どれをとってもプラスチックになっている。


「偽物だーーーっ!」


 居醒が全部投げ捨て泣き叫ぶ。


「それ、逆夢に変えれば本物よ」


 帳が通りがけに言ってあげると。


「誰よっ、大切な資源を無駄にしてーーっ!」


 居醒と春眠が大慌てで拾い直したのは言うまでもない。




 海底の町から大きな黒い塊が浮上してきた。


 それは次第に人の姿に見えてくる。


 上半身は人間の女性そのものだが。


 下半身は魚の姿をした、俗に言う人魚の風貌だ。


 ただしその図体は、25メートルプールをも凌ぐ巨大さである。


「おまえらは、わらわたちの腹の中の財宝が目当てだなーーーっ!」


「ぎゃあっ、出たーーーっ!」


 居醒は巨大な人魚に向かって乱射した。


「居醒さん、落ち着いて! 切り口を見極めなさい!」


「はっ、帳お姉様、そうだった!」


 居醒がぐっと目を凝らして見定める。


「あったわっ! 右の脇の下っ!」


「えっ? 足の付け根やないっ?」と、夜船。


「わたしには左の腰が切り口に見えてるわっ!」と、春眠。


「ねんねは脳天に見える」


「ホントだっ! 切り口がたくさんあるっ! どうなってるのっ?」


 得夢たちが帳に困惑の目を向けた。


「それぞれの切り口から伸びている切り取り線が、心臓に向かって伸びているわね。どういうことかしら……」


「こんだけ切り口あったら誰か攻撃できるやろっ! こいつちょろいで、得夢ちゃんっ!」


「夜船ちゃんの言うとおりかも! ようしっ、みんなで総攻撃だっ!」


 守りに隙がある切り口に、得夢たちがそれぞれ斬りかかって攻撃する。


 人魚の鱗はいともあっさりと斬り裂かれ、切り取り線に沿って胸まで切断する。


「得夢ちゃんっ、切り口さえ見破れば、どんな夢魔も恐ないなっ!」


 そのはずだった、のだが。


「夜船ちゃんっ、ちょっと待ってっ!」


「なんかおかしい」


「斬ったところが元に戻っていくわっ!」


 ねんねと春眠が距離を取って、全体像を見渡した。


 四方八方から切り裂かれていた人魚の体が、磁石のようにピタリと引っつき合わさっていく。


「帳お姉様っ、これは一体っ……」


「もう一度、試してみましょう」


 得夢たちが再び切り取り線を斬り抜くが、巨大人魚は再生を繰り返し、倒すことは叶わなかった。


「烏合の衆が集ったところで、わらわを屠ることなどできぬのじゃーーーーーっ!」


 巨大人魚は長くて鋭い爪を剥き出した。


 そして鱗を逆立て、鋭利な礫のように撃ち出しながら、得夢たちに襲いかかってきたのだった!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ