かけおち悪女、ほっぺに玉子が付く
だから、ケンゴさんを見つけた人や見たことのある人から、情報をもらおう。」
「ええ!そうしましょう!」
「うん。じゃあこれを食べ終わったら、ケンゴさんの見た目とか特徴を教えてね」
言い終わると、シズクは、わたくしを見つめて微笑みました。
「あと、ほっぺに玉子が付いてるよ。」
「え?」
言葉を理解する前に、シズクの腕が伸びてきます。
シズクの指がわたくしの頬を撫でて、そして離れていきました。
ほっぺに‥玉子‥‥??
‥‥公爵令嬢として生まれて、隣国の王妃になるための教育も受けてきたわたくしが、ほっぺに玉子‥‥!?
そもそも頬になんてどうやって付けますの!?
「お、お見苦しいところをお見せして申し訳ないですわ‥!!」
慌ててそう言うと、シズクはもう一度ふふっと微笑みました。
「サンドイッチ、もしかして食べるの初めてだったんじゃない?」
言われて頷きます。
わたくしの世界に、こういった玉子やサラダをパンで挟んだ料理は、ありませんでした。
「じゃあ仕方ないよ。それに可愛いからお見苦しくないよ。大丈夫。」
そこまで言うと、シズクはサンドイッチを食べ終わったようで、『ごちそうさまでした』と手を合わせました。
「カトレア、お茶もしかして苦手だった?」
「あ‥え、えっと、初めて飲む味ですが、苦手ではないですわ‥。」
「そっか。いつも何飲んでたの??」
「紅茶‥とかですわね。」
「紅茶ね。ちょっと淹れてくるから待ってて。高い紅茶はないけど。」
そう言うと、シズクはお皿を持って立ち上がりました。
それをわたくしはぼーと見つめたまま、先程の言葉を思い出します。
『可愛い』
公爵令嬢として、そして未来の王妃として、いつも気高く、しっかりしていろと言われて育ったわたくしに、可愛いだなんて言う人はいませんでした。
もし、可愛いと言われていたとしても、嫌味だとか、馬鹿にされていると感じていたでしょう。
しかし、先程のシズクの言葉からは、決して嫌味を感じませんでした。
玉子が頬に付いていたからという恥ずかしい理由ではありましたけれど‥可愛いって、ちょっとだけ嬉しい言葉ですのね。