かけおち悪女、恋をする
そもそも、どうしてこんなことになったのでしょうか。
公爵令嬢であり、自国の隣に位置する大国の第一王子の婚約者でもある、わたくしカタリナ・フラ……いえ、もう姓はよろしいですわね。
もう公爵令嬢でもなく、王子の婚約者でもないわたくしに、姓などはございませんから。
とにかく、わたくしカタリナが異世界追放されることになった理由をお話しましょう。
キッカケは、婚約者のいる身でありながら、平民に恋をしてしまったことです。
わたくしには、産まれた時から自由などありませんでした。
厳しすぎる両親と、両親のストレスから、わたくしに嫌がらせをする姉と兄。
もちろん、この国の貴族、ましてや公爵家に産まれたのであれば、これらは当然のことでございます。
更に、わたくしは将来、隣国の王妃になる身です。
厳しくて当たり前、王妃になるはずの自分は、周りの貴族令嬢達より、更に頑張らなければいけないのだ…と、必死に努力しておりました。
しかしあの日、ある本に出会ってしまったのです。
それは、学園ハーレムモノの、少年漫画というものでした。
気弱ながらも、自由な発想でたくさんの悩める女の子達を救う、主人公。
その主人公のおかげで自由を取り戻し、キラキラと輝くヒロイン達。
そのキラキラで自由な世界に、わたくしは憧れてしまったのです。
感銘を受けたわたくしは、なんとか時間を作り、少年漫画の作者へと会いに行きました。
その作者が、ケンゴだったのです。
ケンゴは、珍しい異世界からの旅人でした。
彼が描く話は、異世界で体験したエピソードや、あちらにある漫画をアレンジしたモノばかりです。
そのため、どれも斬新で面白く、私はあっという間に、ケンゴの描くお話へとのめり込みました。
しかし、わたくしがのめり込んだのは、ケンゴが描くお話だけではありません。
いつも自由な発想で、わたくしの悩みを聞き、そして笑わせてくれるケンゴのことを、気が付くと好きになってしまっていたのです。
そしてケンゴも、わたくしを好きになってくれました。
しかし、わたくしは貴族で、彼は平民です。
珍しい異世界からの旅人ではありますが、危険性を考えて、それも公表はしておりません。
わたくし達が結ばれるには、あまりにも障害が多すぎました。
それにわたくしには、数年前まで戦争を行っていた隣国と和解するため、そちらの第一王子エルネストと結婚するという役目があります。
ケンゴの想いは諦め、もう会うことさえ辞めようと決心したのです。