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渋谷ダンジョン  作者: nae
2/5

自分ノ始マリ

 近くのラーメン屋で夕食をとり、駅前のネットカフェに入るとそこは、思ったよりも広く綺麗だった。


「一人で5時間お願いします。」


 始発までとなると時間がない、5時間が限界だろう。部屋に入りさっさと休もうと考えた時、ふと冷静になった。


「いや普通に考えて無理だろ。戦うかもしれないのに、武器も防具も何もないぞ。」


 そう準備が何もできていないのだ。ゴブリンであろうあの生物が出てきた壁に入るのだから、その奥にはより多くのゴブリンがいることは確実だ。


「あー、こりゃ行けるのは明後日だな。まぁ今できることやるかー。」


 そういうと凛は、ネットを開き武器となるものを探し始めた。


「やっぱり簡単に手に入れられる武器といえば包丁か?距離をとって戦うために鉄パイプや斧もいいかもな。」


 色々と武器となるものを検索する凛だがあることに気づく。


「鉄パイプとか斧とか、重そうで多分扱えないし、そもそも渋谷駅にもちこめねーな。」


 防具も同じで重さを考え、なおかつ持ち歩いていても不自然ではないものを選ばなければならない。そこでふとある事を思い出す。


「ぴったりのものがあるじゃねーか。持ち歩いていても不自然ではない装備。なんで忘れてたんだ。前まで使っていた剣道の道着が家にあったはずだ、竹刀袋には木刀を入れれば、武器防具を持ち歩いて駅に行っても不自然ではないだろう。」


 普段から少しでも体を動かしていて良かった。勘が鈍っているだろうが、来週の探索まで毎日素振りでも行えば少しはましになるだろう。


「他にはなにがいる?スマホは明日修理に出すとして、とりあえず必要そうなものは、ライト、水、食料か?それくらいなら、防具入れに一緒に入れれそうだな。」


 日帰りなのだから、食料や水は当日必要な分だけ買えば良いだろうと思い、明日の予定もなくなったことから、滞在時間を延長し、携帯ショップが開く10時まで眠る事にした。



 翌日、携帯ショプに行き代替機をもらいデータを引き継ぐと何件か電話とメールが入っていた。1つ下の後輩、赤羽あかばね あきからだ。


『先輩!渋谷駅人身事故起きたらしいですけど、帰れましたか!まさか轢かれたの先輩じゃないですよね!』

『メール気づいてないだけですか?それともまじで轢かれちゃいました?』

『生きてたら連絡下さいねー!生きてたら笑』


 心配してくれるのは嬉しいが、轢かれたことにされてるのは少し腹が立つ。俺は一言『轢かれてねーよ』とだけ、返すと下北沢にある自分のアパートに帰る事にした。


「道着と竹刀はあったけど、木刀どこにしまったっけなー。」


 道着と竹刀は、すぐに見つかったが、素振りでしか使わなかった木刀はなかなか見つからなかった。


「あったあった。」


 今はまだちょうどお昼過ぎ、近くで昼食をとり公園で素振りをする事にした。


 住宅に囲まれた少し狭い公園で、ヒュンッヒュンッとかぜを切るような心地の良い音が響く。

 ずっとこの感覚に包まれていたくなるような、精神も集中してきた頃合いにちょうど電話の音がなる。


「たくっ、また秋からか。」

「なんで返信してくれなかったんですか!心配させたお詫びに、お寿司を求めます!あれですよ!回らないやつですからね!」

「悪い、携帯が壊れてたんだ、今はデータ引き継いで代替機使ってるよ。」


「そうだったんですか!それは災難でしたね!でもそれとお寿司とは別なんで、心配させた分しっかり奢ってくださいね!」

「わぁったよ。しゃーねーから連れて行ってやるよ。」


 本当は、「そんな金はない!」と言いたくなるところだが心配をかけたのも事実であり、少し安めのところに連れて行こうと凛は考えていた。


「まじすか先輩!ありがとうございます。じゃあ店私が決めときますね!!」

「えっちょっ…」


 まってと言う前に切られてしまった。まじか、あいつに店を決められたらどうなるか分かったもんじゃない。まぁ自分から了承した手前断ることはできない。


「あーまた金がなくなるなー、まっとにかく明日のために少しでも勘を取り戻さないと。」

 

 それから1時間ほど素振りや柔軟運動をしたところで、いい感じに汗もかいたので、明日に備えて、しっかりと休憩をとることにした。


「ふー、やる事やったし明日に備えて今日は早く寝るか!」


 明日は、午前4時半におきて軽くランニングをしながら渋谷に向かおうと考えたため、凛は早く眠ることにした。


 次の日、凛が目覚めたのは予定通り午前4時半だった。事前に準備をしていたため、防具袋を背負い、すぐにアパートを出発できた。準備運動もかね、ランニングで渋谷駅を目指し、途中水や食べ物を買いながら行ったので、着いたのは5時を少し過ぎたあたりだった。


「始発は過ぎたけど、まだ人通りは少ないな。」


 昨日のゴブリンが出てきた窪みのある近くまで、行くと凛は周りを見渡した。幸い周りに人影はない。しかし凛は今になって線路に降り、壁に飛び込むのが怖くなった。足がすくむ。当たり前だ、普通に考えたら、線路に降りれば捕まるし、壁の中には入れない。


 だが、昨日の光景とそれまでの凛の経験がこれを押さえつけた。


 幼い頃から、大学まで続けた大好きな剣道。社会人になってからは下らない仕事に時間を使わされ、剣を振るうことすらなくなっていた。その剣をまた活かす機会がきたのだ。ここで行かなければ自分ではない!


「ああああああああああああああっ!!!!」


 周りに気づかれたかもしれない。でもそれでも構わない。弱った心を押し返すには、それを押し返す強い意志と、気迫のこもった声を出すことが重要なのだから。


 凛は叫びながら壁の中に吸い込まれた。


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