第七十話「震え」
今、何と申した、、、。
「何かこう、胸を貫かれたって言うか、射抜かれたって言うか、、、。とにかくボクの運命の人だよ時晴は!ボクも日本に行くー!」
「待った待った!」
「一旦落ち着こう!」
ハイボルテージになって立ち上がろうとしたミーセをなだめるように座らせる。
「本人に会ってからもう一度考えようぜ」
「性格とか、内面を見ようぜ」
「だから今は断片に集中しようよ。ね?」
恋する乙女は何をするか分からない。
気が抜けていたがここは戦場なのだ。
時晴がどうとかそういう事を話している場合ではない。
「うん。時晴が運命の人なのは間違いないけど、目の前の事に集中しないとね。大丈夫、ボク学業と恋愛の両立が出来るタイプだから」
お、おう。
分かってるなら良いんだけど。
ミーセは立ち上がり、未だに断片を攻撃しようとしている男達にナイフを投げていく。
「あーっ!ずるいよわたしの獲物だったのにー」
「今ので最後でしたね。約八十人、戦闘不能にした事になります」
「死んでない事を祈ろぉーじゃないの。ま、死んでても正当防衛で通すけどねぇ」
伊寄さんは本当に研究者なの?
過去に殺人事件を起こしていない事を切に願う。
「ほら立って立って。もう襲ってこないからさぁ」
翻訳機はオンにしてある。
「で、でも、まだいるかもしれないですし、、、」
「いや、もういない。ミーセと海乃が見回った」
「何がそんなに怖いの?」
「恐れているだけじゃ良い事なんて無いよ」
「自分でも、よく分からないんです。ただ、何かが恐ろしくて、本当に、本当に」
この人は震えている。
怖いのだろう。
恐れているのだろう。
恐れる事は大切だ。
だが、恐れる事と動かない事は別だ。
「大丈夫」
「怖くて良いよ」
「怖くても、一歩だけ、一歩だけ踏み出してみたら、きっと何かを変えられる」
「これを触ってみて。きっと勇気を貰える」
枠円を差し出す。
指先は震え、汗が落ちる。
今、自分と戦っている。
ロシア人とか、断片とか、関係無い。
ただ、恐怖に立ち向かっているのだ。
「、、、ありがとうございます」
その手が、枠円を掴み取る。
震えていても、決して落とさない。
もやのような物が出て、断片による歪みを修正していく。
意識を失ったやや大柄の男性を引きずるように加工施設の壁に寄りかからせる。
今は朝六時か七時くらいだと思うが、気温は結構低い。
掛けてやるような毛布も無いので自然に任せるとしよう。
私達は正義の味方ではない。
ただの双子だ。
「そう言えば、どぉーうしてアワリちゃんは濡れているんだい?」
「海に飛び込みました」
スマホは無事だったが、そのせいでエプロ、、、。
「「あーっ!」」
「ど、どしたの?」
「伊寄さん隠し撮りしてたでしょあのエプロンの時!」
「しかもいつの間にか送られてたし!」
そのせいで黒歴史をミーセに見られた!
いつか伊寄さんにもあのエプロンを着てもらうからな!
「そりゃごめんよ。悪気はあーんまり無かったんだ」
「ゼロじゃないのかよ!」
「ノリノリだったんだからいーじゃない」
「そうそう。かわいいしね」
はっ!
後ろを勢い良く振り向くと、ミーセの美しく、殴りがいのありそうな顔が。
「かわいくて強いなんてさいきょーじゃないの。アポトーシスも倒しちゃったんでしょ?」
「まぁ、はい」
「比田井分吾。多分この前研究所に侵入した一人です」
「あ、この腕輪見覚えあります?」
拘束バンドを付ける時に邪魔だったので没収しておいた、比田井の腕輪二つ。
ミーセはこの腕輪が演算装置だと言っていた。
「多分この前のヤツだねぇ。腕輪付けて手から風を出してたよ」
じゃあ合ってるね。
「時晴にも教えてあげないとねぇ」
時晴、という言葉でビクッと肩を震わせるミーセ。
「ちょっとシャナノフとお話してくるね」




