第六十一話「当たらない」
仲間を呼んだ!?
八十人!?
全員幻視者とか、全員幻術を使えるとかじゃないよね?
とにかく、こいつを先に何とかしておかないと!
「途作を退けたのは分かっている。そうだ、利得、若草利得はお前達が倒したのか?この前捕まったんだが」
四つの拳を避けながら尋ねてくる。
「だから何?」
「同じように捕まってくれる?」
当たらない。
ただの見よう見まねではなく、武術の動きという感じだ。
だが、今のところ攻撃は無い。
「いいや。ただ一方的な虐殺から一つの勝負になっただけだ。俺は比田井分吾、幻覚は視界泥棒。お前達も名乗れ」
「知ってるでしょ?」
「いや、名乗れ。この程度のマナーも分からないのか?」
はいはい、勝負の美学ってやつでしょ。
「右にヘアピンの私が田島泡里よ」
「左にヘアピンの私が田島沫奈ね」
「幻覚は精神共有」
「幻術も使える天才だぁぁぁっ!」
いつもの自己紹介の後は攻撃。
右から、左から、身をかがめてアッパー、回り込んで回し蹴り。
タイミングも位置もずらした攻撃のはずなのに、当たらない。
「せあっ!」
武術を取り入れたきっちりした動きの中で掌を突き出す比田井。
腹に受けても大した痛みは無い。
ただ、景色が変わっていた。
「やぁぁぁぁぁぁっ!?」
掌から風が起こり、吹き飛ばされたのだ。
何メートルも地面と平行に飛ぶ。
ナックルエレキのバリアを地面に擦り付け、摩擦で勢いを殺す。
一人では戦闘能力は半分以下になる。
つまり。
「逃げるっ!」
全力で後退する。
全力で前進する。
そして合流。
バラバラにされたら不利だ。
掌は必ず避けないといけない。
「幻術はそれだけか?もっと攻撃的な幻術もあるものだと思ったのだが」
インビジブルポケットで今のうちに拡張バッテリーを取り寄せる。
相手の挑発には乗らない。
八十人来る前に倒すには、やはり増援があった方が良い。
シャナノフさんよ、早くしておくれ!
バブルオブザーバーでの脅しは風の幻術を使う比田井には無意味。
インビジブルポケットで物を落としたりするのも、周りにちょうど良い物が無いから無理だ。
とりあえず、強化の式百二十パーセント。
この拳で戦うしかない。




