第四十六話「倒れない」
「じゃあアタシを楽しませてみろよ。何発耐えられっかなァ!」
さっき時晴が相手の攻撃を避けられたのは半分偶然だ。
何回か回避行動を取って傾向を見極めようとしていたのかもしれないが、一回目で避けられたのは幸運だった。
「ブレイズフィスト!」
時晴はズボンのポケットの辺りに触れる。
中に幻術発動のための機器を入れているのだろう。
拳が燃え上がる。
「オマエの幻術も貰いもんか?それしか使えねェから温存してたんだろ?」
炎を纏った拳を握り、時晴は走り、進む。
若草との距離を詰めていく。
途中、何度殴られただろうか。
頭を、頭を守ろうとした腕を、脚を、脇腹を、肩を。
だが、決して止まらない。
「痩せ我慢ならやめとけよ。楽に死ねねェぞ」
「ああ。痩せ我慢だよ!だけど、我慢出来るくらいの威力しかねぇんだ。どれだけお前が振りかぶっても、ハンマーで殴られただけの威力しか出せねぇ!どこから来るか予想出来れば多少はガードも出来る!」
殴られ続ける。
しかし、倒れない。
止まらない。
「空間打撃なんかじゃねぇんだ。だからハンマーと同じ面積にしか攻撃は当たらねぇ!」
時々、姿勢を低くしたり、首を振ったりして攻撃を避ける。
風を切る音が耳を掠めている事だろう。
この先には、電撃のトラップが。
「何だよオマエ!何で倒れねェんだよ!いくらガード出来るって言っても普通なら立てねェぞ!?」
トラップの位置は覚えているようだ。
殴られながらもトラップには触れないように立ち直す。
若草はもう目の前だ。
「知るかよ。底力ってやつじゃねぇか?」
殴られて、殴られて、近づく。
若草は、少しずつ後ろへ下がらざるを得ない。
ついに、背中が壁に当たる位置まで後退してしまった。
「ああああああああああッ!」
若草の顔にさっきまでの余裕は無い。
楽しさは感じていない。
こちらから見て右から左。
左上から右下。
もう、すぐそこだ。
「楽しい時間は終わりだ」
木製のハンマーで直接顔を殴ろうとする。
時晴の右の頬を打撃する。
と言うより、そう仕向ける。
顔を殴られた勢いを利用して右腕を振るう。
回転の力を拳の威力に変える。
「イヤだ!楽しみた」
時晴の拳が若草の鳩尾に突き刺さった。




