第三十八話「ヘッドロック」
あっという間に八階に到着。
断片はこの階にいる可能性が高いのでとにかく探してみるしかない。
「だ、誰ですかあなた!?」
その声は海乃さんに向けられていない。
「おいおい、ここまで追ってきたのか。不法侵入もたいして驚けなかったし、お前がもっと驚かせてくれるって事で良いか?」
社員と思われる人々を無視するように向かって来る。
「この短い間にすっごく攻撃的になったねそしてわたしには勝てないと思うよ」
「勝ちの条件は同じとは限らないけどなぁ!」
直接海乃さんを攻撃しようとは思わなかったのか、近くにいた女性社員を人質とする。
デスクの上に転がっていたペンを首に向ける。
「人質作戦はもう経験済みだよ!アブソリュートタクト!」
白衣から指揮棒を取り出し、一瞬で距離を詰める。
「えいっ!」
持っていたペンを弾く。
そのまま通り過ぎ、振り返って背中を思い切り叩く。
ベチンッ!
「いでっ!?驚いたぜこれは!」
「驚く暇も無いくらいすぐ捕まえちゃうよ」
常人の三倍の速度で人質を抜き取る。
「大丈夫?」
「は、はい。あの、あなたはだ」
「説明は後にさせてね先にあいつを捕まえないとだから」
「ったく、殺人でもすりゃ驚けると思ったんだけどな。もうそんくらいじゃねぇと驚きは感じねぇかもしれねぇのに」
断片は窓の方に勢い良く走り出す。
「そうだ、、、自分で痛みを感じりゃ良いんだよ!」
まさか飛び降りる気じゃ!?
常軌を逸している。
死んだら驚く暇もなく死ぬ。
当然の事だ。
もはや驚く事とは死ぬ事と見つけたり、状態になってしまっている。
「だめだよ」
指揮棒を振って風の刃を生み出す。
手加減はしていると思うが、それなりには痛いはずだ。
「がっ!はぁ、はぁ、驚異!驚愕!驚嘆!もっと驚きたい!驚いていたい!」
痛みを感じながらも窓を開けようとする。
適当にボタンを押してたどり着いたと思われるこの八階は、飛び降りたらまず助からない高さだろう。
ピンポーン。
エレベーターが到着した合図。
「不法侵入も殺人も、驚きなんか無いよ。ただの犯罪」
「驚きたいのなら幻想科学を学べ。フローズンスフィア」
投げられたボールは窓から身体を出そうとしていた断片の脚と床を凍らせて固定する。
睦規さんがやっと合流した。
「い、嫌だっ!またつまらない人生に戻るなんて考えられない!驚きが無いとつまらない!」
海乃さんは別のポケットから枠円を取り出す。
「人生につまらない時も面白い時もあるのは当然だよ」
枠円を背中に向かって突き出す。
もやが発生し、枠円に吸い込まれていく。
歪みが修正され、断片は意識を失ったようだ。
「回収完了だな」
「むつきはよくわたしが八階にいるって分かったね」
「このシャボン玉のおかげだ。泡里と沫奈が俺やお前の動きをずっと見ていたから俺に電話で場所を伝えられた」
ま、二人いればこのくらい朝飯前ですよ。
「この人はわたしたちが回収しておくねえーっとこの人は精神病で」
社員達は散々迷惑をかけられたが、とりあえず不審人物を排除してくれた二人を攻撃はしないようだ。
「この氷とか風の刃は気にしないで。ただの科学技術の結晶だからじゃーねーっ」
指揮棒で氷を叩き割り、肩に担ぐ。
エレベーターでのんびりと帰る二人を社員達は不思議そうに見ていた。
「何だったんだ今の」
「さぁ仕事再開だ!さっさと持ち場に戻れ!」
「大丈夫?首怪我してない?」
「う、うん。何ともない」
「こいつどうします?」
ビルの前で、元断片を担ぐ海乃さんに双子をヘッドロックしている時晴が尋ねる。
「警察の特別部署に引き渡すよ幻想科学に関する犯罪に対処する専門の部署が全世界にあるんだよ」
「そんなのがあるんですね」
「じゃあ早速行きましょうよ」
「ところで、どうして二人はヘッドロックされてるの?」
海乃さんは首を傾げる。
「あーこれは俺の体力とこいつらの身長が不足していた事によるヘッドロックです」
ふん!
「やめろやめろ暴れるな!ヘッドロックで支えてやってるのを忘れるなよ!」
「、、、ひとまず、一件落着だな」




