第三十五話「倍」
断片が走っていった方向には小さな子供と手を繋ぐ母親。
腰の曲がった老婆。
三人で並んで歩く若者。
あのスピードでぶつかると怪我をするかもしれない。
普通に走っても追いつけない。
「時晴!」
「私達が追いかける!」
リストバンドに意識を集中させる。
強化の式、二百パーセント!
身体中に幻想科学の力がみなぎる。
「お!?速!」
電力によって身体能力を倍にした。
景色が倍の速さで流れていく。
疲労も倍になるのはこの際仕方無い。
「こりゃ驚いたぁ!走んの速いなぁ!」
あっという間に追いつく。
「まだまだ捕まりたくないぜ!」
未だに持っていたポテトをこちらに向かってぶちまけてくる。
「「もったいない!」」
腕を高速で動かし、ポテトを落ちる前に拾う。
顔の辺りに来た数本は直接食らいついた。
一本も落としてない!
パーフェクト!
そして、距離も縮めていくぅ。
「「おりゃっ!」」
「おっと危ねぇー!」
急に姿勢を低くして右に曲がる。
スピードは勝っているのに、なかなか捕まえられない。
うぅ、そろそろ脚が、、、。
早く捕まえないと。
挟み撃ちにする!
「あ?一人しかいねぇのか?つまり」
「挟み撃ちって事よ!」
一つ前の交差点から丸々一ブロック分迂回して来た。
「捕まえた!」
「追いかけっこは終わりよ!」
あまり手荒な真似はしたくなかったが、仕方無い。
「ナックルエレキ!」
「ごうっ!?、、、はぁ、はぁ、足りない足りない足りないっ!驚きが!足りない!もっと驚きを!もっと過激で新しい驚きが必要なんだぁ!」
胸板をぶん殴られたにも関わらずのたうち回って暴れる断片。
強化の式を解除したので押さえるのに苦労する。
もう暴走が始まってるのかも。
時晴が言ってたより早いね。
そこでスマホの着信音。
とき。
「今だぁぁぁぁ!」
「「ぎゃう!」」
着信音に気を取られた一瞬の隙を突かれて突き飛ばされる。
「あーばようっ!」




