第十三話「腕」
海乃さんと共に研究所内を走り回る。
途中で他のラボの研究員と出会ったが、異常はまだ伝わっていなかったらしく、侵入者の可能性を聞いてギョッとして引き返した。
「もし侵入されたのなら逃走もするはずだよ正面玄関から入ってきたような人ならもはやどこからでも出られるってことにはなるけどね」
「結局、どこに行けば?」
「隠れられる場所が多い裏に行こう倉庫とかもあるし人もあまり通らないし」
研究所の裏の倉庫がたくさんある場所に到着した。
怪しい人物はいない。
と言いたいが、いた。
「ここの研究員じゃないよねどうやってはいってきたの?」
その人物はバー状の完全食を口に咥えている。
咥えた完全食を胸の辺りから生えた第三の腕で持ち、話し出す。
「くっくっく、この腕見てわからねぇか?」
あれは。
「「幻視者!」」
「正解。この腕使って内側から開けた」
もう一本腕を生やす。
コーラのような赤黒い色で半透明だ。
「何しに来たのよ」
「不法侵入だけじゃないよね?」
男は新たに生やした左手を使って頭を掻きながら言う。
「断片ほしくてさ。くれないか?」
「やだね」
海乃さんが、断片という言葉を聞いた瞬間に高速で男に近づいていく。
「戦うつもりか?このオレと!」
完全食をもう一度咥えて海乃さんを正面から迎え撃とうとする。
海乃さんは走りながら白衣の内ポケットから指揮棒のような物を取り出し、伸縮する棒をボタン一つで伸ばす。
男は腕を一旦身体の中に戻し、改めて横腹から一本ずつ生やす。
「断片を使って何するつもり!」
指揮棒を振り下ろす。
赤黒い左手でいなし、右手二本で殴りかかる。
「おひえてあんねぇよっ!」
指揮棒を振り上げて右手を受け止め、後ろへ飛び退く。
どう考えても細い棒の強度じゃない。
つまり、幻術で強化しているという事だろう。
「これはどう!」
棒を振り、ヒュンヒュンと空を切らせる。
切られた空気を飛ばすかのように無色で半透明の風の刃が複数が男を狙う。
「効はねぇ効はねぇ!」
腕を戻す。
すぐに、拳を守るように右腕の途中から腕を二本生やし、三重の拳になる。
三重の拳で風の刃を打ち消し、どんどん近づいていく。
向かうのは海乃さん。
ではなく、私達の方に急に軌道を変える。
「「なっ!?」」
反応が遅れた!
海乃さんも不意を突かれて間に合わない。
「おまへたひは、なにしにきはんだ?」
その言葉と共に二人同時に首を掴まれる。
右腕から左腕、左腕から右腕を生やしている。
「「が、は、あ」」
苦しい。
首を掴まれたまま持ち上げられている。
「攻撃出来るもんならやっへみろよ」
呼吸がしにくい。
海乃さんに向かって話しかけているらしい。
私達は都合の良い人質だ。
「オレは二人同時に首を絞めることも出来るがな」
首が痛い。
完全食を噛み切って言った。
私達。
足手まといに、、、。
「二人を放してよ」
「やだね」
心が痛い。
海乃さんの足を引っ張っている。
だけど。
これ以上は!
「、、、んた、の」
「すきに、は、、、せ、ない」
リストバンドに意識を集中させる。
「あぁ?」
海乃さんに習った護身用の幻術。
呼び名が無いと不便なので考えておいた。
「「ナックルエレキ!」」
負荷をかけられている喉を鼓舞するように叫ぶ。
同時に右手と。
左手で電気を纏った拳を突き出す。
「がっ!?」
午前練習した時のような高出力は出せないが、それでも熱く、痛い。
電撃の拳を受けた事で、男は私達から手を放し、フラフラと下がる。
「痛ってぇ、、、。お前たちも幻術使えんのかよおい」
着地した私達に不満を投げかける。
その隙に、海乃さんが風の刃を作り出し、再び男を狙う。
「はぁ、もういい。もう目的は果たしてっから帰るわ」
背中から腕を突き出し、風の刃を受け止めてから、電撃を受けた胸の辺りを押さえる。
「あぁ、痛」
地面に吸い込まれるように、溶け込むように消えてしまう。
「大丈夫二人とも!?」
「ごほっ、なんとか」
「げふっ、一応」
立ち上がって男が残していった完全食バーを見る。
「目的は果たしたって言ってましたね」
「断片についてももう知ってるみたいです」
「あいつは幻術で逃げたみたいだけど、じゃあここに来る必要は無いよねつまりここに何らかの目的があって来たってことだよ。、、、とりあえず今は向こうと合流しよう」
「はい、それに」
「単独犯とは限らないから、向こうも誰かと接触しているかもしれないですね」




