第十一話「偶然」
食べ終わった後、食器を二人で高速で洗っていく。
まったりとしている伊寄さんは、呑気に言う。
「なんか、お母さんみたいだねぇ」
「そうだそれだよおかあさんだ!」
まだ十六歳の高校生に頼りっきりの大人達が何か言っている。
「二人がお母さんで、トキハルがお父さんでぇ、ワタシが長女でぇ、ウミノが次女でぇ、ムツキが次男の赤ちゃんねぇ」
「何で俺が一番下なんだ」
「ムツキってオムツって意味もあるからに決まってるじゃーぁないの」
「むつきは頭使いすぎだからあかちゃんになって休んだほうがいいよー!」
私達が三人の親。
時晴がお父さん。
コドモ。
「どうした、二人とも顔とか耳赤いけど体調悪いのか?」
「「何でもない!」」
研究室に戻って時晴が話し始める。
「じゃそろそろ断片についてちゃんと話すか」
「「ああそう言えば」」
「お前ら何のバイトだと思ってたんだ?」
感情を増長させる、断片。
結局あまり詳しくは教えてもらっていない。
「まず、俺が断片の存在を発見したのが二週間くらい前。電波やら放射線やら色々計測してた時だ、この世界に欠けたピースのような、足りない物があって、計測結果を歪めているという事に気付いた」
もう難しい。
よく計測結果から歪みがあるとか分かるよね。
「その歪みには法則性があって、欠けた部分から逆算すると、大体人一人分くらいの影響が欠けてるって事が分かった。ここまでは分かるか?」
伊寄さん達はおそらく一度説明されているので、私達に対しての確認だろう。
特に何も言わず、ただ頷く。
「そして、俺が断片と呼んでる何かはその、本来あるべき一人分がバラバラになって散らばってる状態だと思う。つまり、断片とは、原因はよく分からないが誰かの感情、もしくはそれも含めた全て、をバラバラにされて散らばった物、という結論に至った」
「じゃあ、その断片が欠けた一人だとして、何でそれが人の感情を増幅させるの?」
「分からんっ!だが、断片は存在していて、確実に人は死んでる!分からなくても何とかするしかない!」
それはそうだけど。
「はいはいしつもーん!仮に断片が存在するとして、それをどうすればいいのー?」
「良くぞ聞いてくれました!これを見て下さい!」
勢い良く突き出したそれは、あの日使っていた、、、枠円だっけ。
「これは断片が取り憑いた人から断片だけを吸い出す装置!名付けて枠円!」
「断片をはめる枠と、その形状から名前を付けたのか」
「あ、は、はい」
真面目に解説されてなんだか恥ずかしそうだ。
「この枠円は結局何をどうやって吸い込むの?」
「二週間でよく出来たね」
「いやこれは二日で出来た。それと、吸い込んで見えるのは、歪みが枠円を中心に修正されていくからそう見えるだけで、実際は吸っても吐いてもいないっぽい」
まるで自分でも分からないかのように言う。
そもそも原理も分からずに枠円を開発出来るとは思えない。
「ぽい、って自分でも分かってないの?」
「あー半分くらいしか分かってない。幻想科学には未だに未解明の現象も多くあるしな。歴史の目があるか無いかとか。まぁ、原理は分からんが、とりあえず結果は出たって感じだな今は」
そういうものなのか。
つまり偶然断片を発見して、偶然それを回収する方法を見つけたという事になる。
「そして、枠円には歪みの履歴的な物が残ってる。断片がどんだけあるかはまだ分からんが、全部回収出来れば歪みのデータから消えた一人について計算結果をさらに逆算して調べられるかもしれない」
さっきから仲良しトリオが全然口を挟まない。
気になって三人がいる方を見てみると。
「、、、聞いてないよぉ」
「、、、まさか断片が」
「そんなに面白そうだったなんて!」
ま?
「前はそんな事言ってなかったじゃないか!」
「枠円の原理が分からないこととか!歪みから消えた存在を逆算できることとかさ!」
「もうワクワクしすぎて心臓の鼓動が大地を揺るがしてるぜぇっ!」
伊寄さんが時晴の肩を持って前後にぐうぃんぐうぃん揺する。
興奮冷めやらぬ三人の反応を見て思わず時晴もギアを上げる。
「でしょでしょ!やっと分かってくれて俺は嬉しいですよ!実はこの枠円は幻術の式も組み込まれていて、、、」
ついていけないよ。
置いていかれたね。




