第三十七話「外道」
細長い電気の弾丸の連射から走って逃れる。
もう物陰には隠れない。
走り続け、距離を詰めていく。
「インビジブルポケット!」
拳をフィルターの腹の前に転移させる。
空間に開けた穴からなら壁や距離を無視して攻撃出来る。
また、ナックルブリンカーはシンプルな幻術であるため、式陣に固定して使用出来る。
つまり、転移の式や強化の式と同時使用可能なのだ。
「触らせない!」
拳が小さな壁にぶつかり、押し戻される。
ナックルエレキによるバリアは展開していないため、かなりの痛みが返ってくる。
「いっ!?」
しかし治癒の式で治すよりも先に攻撃する事を選ぶ。
拳を受け止めるための小さな壁を作るために大きな壁を消している。
つまり、正面のガードが甘くなっている。
強化の式三百パーセント!
軋むような身体の痛みはアドレナリンで忘れておく。
一気に前進し、目の前まで接近した。
「おあああああっ!」
フィルターは右腕を前に構えるが、こちらはもう間合いに入っている。
透明の壁はフィルターの身体の前面を全てカバーした。
このままでは壁に激突する。
「私達は二人!」
一人は正面から、もう一人は転移の式で真後ろから突っ込んでいた。
「いつの」
間に、と言おうとしたのだろう。
しかし続きは言わせない。
背中をぶん殴り、ナックルブリンカーを適用させる。
「がっ!?」
壁が消え、拳はフィルターの顔面を捉えた。
衝撃で後ろに仰け反った身体を。
後頭部から打ち、強引に姿勢を戻す。
「聞こえてないと思うけど」
「説明してあげる」
必殺技の詳細を説明する時ほど勝利を確信出来る瞬間は無い。
「このナックルブリンカーは触れた相手の電気を奪う」
「しかも、脳の電気信号くらい微弱な電流でも奪える」
二人でボコボコと殴りながら解説していく。
「つまり、殴った瞬間に考えた事は行動に移せない!」
「殴った瞬間に感じた事も脳が受け取れない!」
一発一発は大した力を込めていない。
だが相手が一切行動出来ないのならとにかく殴り続ければ良い。
「か」
この声も肺から空気が漏れているだけで、意思を持って出している訳ではない。
「ブリンクってのはまばたきって意味ね」
「殴られる度に何も感じなくなって真っ暗になる。まさにまばたきでしょ?」
フィルターは答えられないが、きっと視界がパチパチと明滅し続けているだろう。
頭がおかしくなりそうなくらい点滅し続ける視界。
しかし苦痛の声を上げるための電気信号すら喉には届かない。
「まばたきが必殺技って地味だと思う?」
返事は期待していない。
少しずつ殴る場所を変えながら連打を続ける。
四本の腕を上手く回転させて使う事でこちらにかかる負担は最小限に出来る。
「でもさ、派手さなんて必要無いんだよ」
「私達は正義のヒーローでも悪の大魔王でも何でも無いからさ」
「勝てるなら何でも良い」
「外道らしい考え方でしょ?」
正直、フィルター達の計画なんてどうでも良い。
ミーセを攫われた、それだけが理由。
フィルター達からすれば欲しかったのはミーセだけだったのに要らないおまけが付いてきた事になる。
「そう言えば、外道にはもう一つ意味があるんだよ」
「それは、招かれざる客」
魚釣りで、目的外の魚の事を外道と言ったりする。
釣りたい本命でないのに釣れてしまった魚。
「私達にぴったりの言葉だよね」
「外道ってさ」




