第三十五話「どちらか」
フィルターがほぼ透明の壁を真横に滑らせる。
まともにぶつかれば何十メートルも吹っ飛ばされるだろう。
強化の式で上がった身体能力を使って真後ろに跳んで回避する。
「インビジブルポケット!」
空間に穴を開け、電気のバリアを纏った拳をフィルターのすぐ近くに転移させる。
しかし、小さな壁で防がれた。
壁にはダメージを与えられている感覚が一切無い。
壁の破壊は考えない方が良いね。
「その壁ってさぁ!」
「一枚しか出せないよねぇ!」
薄々分かっていたが、何枚も壁を生み出す事は出来ないらしい。
新たに生み出すにはそれまで動かしていた壁を消す必要がある。
宣言して反応を窺ってみる。
「一枚しか使ってないだけだ。ちょっとしたハンデだよ」
これはハッタリだろう。
本当に何枚も出せて余裕綽々ならさっきまでの苛立ちは何だったのか。
人の弱みに付け込むのが得意な外道に雑なハッタリなんて逆効果の極みだ。
「ま、良いよ。そういう事にしておいてあげる」
強化された脚で距離を詰める。
双子ならではの二方向同時突撃。
壁が一枚しか出せないのならば同時に対処出来ないはずだ。
「武器は壁だけじゃないぞ!」
右手の掌から細長い電気の弾丸を連射し、左手側は壁を押し出す。
この弾丸は貫通する事に特化させているらしく、着弾した部分以外に衝撃が逃げにくい。
直進しながら的確に肉を貫くのだ。
確かに、常人なら一発でも撃たれれば痛みで動けなくなるので一撃の殺傷力を高くする必要は無いか。
「その弾丸じゃ貫けないよ!」
ナックルエレキの強度は弾丸の貫通力を上回っている。
電力の消費は激しいが、背に腹は代えられない。
拳で弾丸を弾き。
真横へ跳んで壁を避ける。
「「おりゃぁぁぁっ!」」
二つの電撃の拳がフィルターの顔を打ち抜かんとする。
「いっ!?」
フィルターは自分の後頭部を壁で勢い良く押し出し、頭の位置を無理矢理ずらした。
そのまま転がり、距離を取った。
私達の方は拳と拳が衝突する。
「「ぎゃっ!?」」
ガキンッ!
非常に硬いバリア同士がぶつかり合った。
拳とバリアは直接触れていないが、一定の距離を保とうとするため強く弾かれた。
「いたた」
「危うく肩壊しかけたよ」
強すぎる攻撃は逆手に取られた時のデメリットも大きい。
「ふぅ、危ない危ない」
フィルターは軽い調子で言う。
振り返りながら掌をこちらに向ける。
電気のマシンガンだ。
「「バブルウォール!」」
同時に二つのシャボン玉を掌から発射し、壁を展開する。
一秒の猶予を使い、体勢を完全に立て直す。
弾丸が壁を殴る激しい音が無くなったと同時、左右から飛び出して建物の裏に隠れた。
「なるほどな。完全に二手に分かれれば同時攻撃されにくいって考えたか」
乱射と壁、どちらか片方だけなら対処も簡単だ。
もしどちらかに集中攻撃してもどちらかがフリーになってしまう。
だが本当の狙いはさらに奥にある。
「バブルオブザーバー」
偵察用のシャボン玉を放ち、フィルターの様子を窺う。
気付かれないように建物の屋上まで上昇させてあら観察する。
「隠れても無駄だと思うけどな。こんな建物すぐにぶっ潰せるし」
フィルターはどちらの建物を先に攻撃しようか、子供のように選んでいるように見える。
「ただ隠れているだけじゃないよ」
こちらの声は向こうには聞こえないので独り言、いや二人言だ。
「インビジブルポケット」
偵察はもう良い。
転移の式で二人が一箇所に集まる。
フィルターの背後にある建物の中だ。
二手に分かれ、注意を分散させる。
だが本当は二人ともどちらにもいない。
二手に分かれた後、すぐにまた合流なんてしないだろうという心理を利用した。
「「エレクトロバブル、吸収範囲十倍、転移の式」」




