第三十四話「信頼」
モーターは最後の力を振り絞って戦う。
電気のロープ三本を横から叩きつけられながらも、その内の一本を掴み取って引っ張る。
「ふうんっ!」
ミーセは逆らわず、むしろ自分からモーターの方に跳ぶ。
頭部から生えた、触角のような二本のロープがモーターに向かって伸びる。
空いている左手で触角を払う。
ミーセはモーターの胸を蹴ってから着地する。
ロープは掴まれたままだが、いくらでも伸ばせるので行動は制限されない。
「がっ!?」
行動する度に呻き声を漏らすモーターとは対照的に、ミーセは全くと言っても良いくらい声を出さない。
声を出すための空気すら使いたくないのだ。
ゴウン!
時晴が油を染み込ませた布を使って業火を生み出す。
「そう何度も同じ手にかかるか!」
モーターは炎を警戒していた。
即座にロープを離して後ろに跳ぶ。
パワードスーツの補助機能はまだまだ健在で、一跳びで三メートルほど下がって炎を避けた。
炎の壁が無くなると同時、ミーセは大きく前に踏み込む。
モーターは左腕を前から来るミーセに向ける。
空気を押し出して弾丸のように打ち出す、イリュージョンエアガンという武器が搭載されているのだ。
ドゴォンッ!
「なっ」
爆発が起こる。
イリュージョンエアガンにこのような機能は無い。
「がっ、ああああああああああっ!?」
激しい痛みがスーツを貫通していた。
「あっ、がっ、、、あの時かっ!」
これまでの戦闘でパワードスーツに何かを仕掛けられるような機会があったとすれば、それは接触があった時。
睦規がボールでパワードスーツを凍らせる直前、伊寄が腕にしがみついていた。
その時に火薬や油のような物が含まれた紙を内部に詰められていたのだ。
「まず」
現実逃避するかのように思い出していたため、ミーセへの迎撃が出来なかった。
手に持ったエレクトリックナイフで首を刺される。
明らかに装甲が薄い部分を狙っている。
「が、あ、あっ!」
痛みが麻痺で上書きされる。
全身の感覚が無くなり、意識が遠のいていく。
「いいいいいいいいいいいっ!」
歯を食いしばり、意識を繋ぐ。
モーターは何が何でもここで意識を途絶えさせてはならない。
敵対勢力がフィルターに集中してしまうからだ。
少しでも動く相手は警戒する必要があるのだ。
「まだ意識があるのか!?」
時晴は元の勢いに戻った炎を拳に纏い、モーターに向かって走る。
モーターは喉に刺さった電気のナイフを引き抜いて時晴の方に投げつける。
「うおっ!?」
時晴は燃える右手でナイフを払い除け、進み続ける。
ミーセは触手を盾にしてモーターのタックルから身を守る。
力を振り絞る抵抗には執念が込められている。
「私はあっ!持たざる者が持つ者に虐げられるのが許せない!お前は持たざる者だろう!才能の差を感じなかった訳が無い!比べられ!踏み台にされてきたはずだ!」
走る時晴の手首を掴み、捻って地面に転がす。
がら空きになった背中を思い切り踏みつける。
「ごはっ!?」
「それなのに何故持つ者の味方をする!さっきの奴らもそうだ!対等?そんな訳が無い!才能は力に、力は立場になる!そして立場が上の者は下の者を見下す!」
より強く時晴を踏み潰す。
「が、ぐ、、、そんな事は、ねぇ!」
ミーセはナイフを連続で投擲する。
「口では何とでも言える!だが私はこれまで嫌という程体験してきた!人は必ず他者を見下す!」
時晴から脚を離してナイフを避ける。
ミーセは全ての触手を大きく広げた。
そしてナイフが付いた先端を勢い良く前に突き出す。
「違う、、、」
時晴は身体をうつ伏せにしながら呻く。
「私を理解してくれるのはフィルターだけだ!フィルターだけは私と対等でいてくれる!理想の世界を作ってくれる!」
モーターは素早く身体を捻り触手を手際良く回避していく。
ダンスのステップを踏んでいるようにも見える。
「そうやって縋ってるだけじゃ対等にはなれねぇよ」
時晴の右手が、着地した瞬間のモーターの左脚をがっと掴む。
そして、時晴の右手は燃やしたい物だけを燃やす。
「がああああああああああああああああああああああああああっ!?」
パワードスーツの排熱機構は脚に搭載されている。
排熱出来ないレベルの熱を受ければ、スーツはオーバーヒートして動かせなくなる。
もちろん炎の熱自体も武器になった。
「跡が残らないくらいの炎にしておいたから、、、もう聞いてないか」
フルフェイスのヘルメットに覆われていて見えないが、気絶しているのは間違いないだろう。
受け身も取らずに後ろにばたりと倒れたからだ。
「ミーセ!」
ミーセもフラフラとし始めた。
電気のロープとナイフで作られた触手はもう生えていない。
時晴は急いで起き上がりながらミーセの元に駆け寄る。
倒れかけたミーセの身体を受け止め、支えた。
「おい、ミーセ!大丈夫か!おい!」
「はは、大丈夫だよ。ちょっと、疲れちゃっただけ」
精神と肉体、両方を酷使して戦い続けたのだ、こうなるのは仕方が無い。
クレバーテンタクルは短期決戦向きの幻術だ。
フィルターの作り出す壁ほどの防御力が無ければ、大抵の相手は瞬殺出来ただろう。
「しばらく休もう。少し離れた場所に隠れるぞ」
肩を貸そうとする時晴。
ミーセは腕を肩に回そうとしない。
「でも、ボクも加勢しない、と」
フィルターと田島姉妹の戦いは今も続いている。
ミーセと時晴の方に攻撃が飛んでこない事を考えると、双子が光の弾丸を全て弾いているのだろう。
「ミーセ、あの二人なら大丈夫だ。任せておけばきっと勝つ。ミーセは今まで頑張ってきたんだから休んでおけば良いんだ」
時晴はミーセに肩を貸すのはやめて、背負う事にする。
戦場に背を向けるのは危険極まりない行為だが、時晴はアワリとアワナを信じている。
逆に二人は振り返らずに戦いに集中している。
一方的に縋るのではなく、互いに信頼し合っているのだ。




