第三十二話「油」
「何もせず隠れているだけなんて俺には出来ない」
穴だらけになった建物の二階。
時晴が炎を纏った拳を突き出して言った。
「俺は強くないけど、頑張る事なら出来る!」
時晴は瓦礫を伝って、下に降りる。
一部が熱で変色したパワードスーツに向かっていく。
「はぁ、はぁ、かはっ」
モーターはまだ動けるのか。
全身がスーツで固められているためかなりタフだ。
「今度は奇襲失敗だね」
私達は一度モーターに奇襲されている。
そして今も奇襲されかけた。
時晴が奇襲をさらに奇襲しなければ危なかった。
「何してるんだよモーター!」
フィルターは失望感を露わにする。
当のモーターは、空中で炎に焼かれたせいで上手く着地出来ず、落下時に強い衝撃を受けている。
立ち上がった今もフラフラしていた。
「ちゃんと中身にもダメージがあるみたいだな」
時晴は燃える右手の中に何かを握っていた。
布の切れ端だ。
「まさか、私と同じ事を、されてしまう、とはな」
モーターはぶつ切りになった息を吐く。
本来、時晴の幻術の炎にはさっきのような火力は無い。
遠くからモーターを包み込む特大の炎を生み出すためには仕掛けが必要だ。
「同じ事?」
そう、モーターは私達から逃げる途中、建物を丸ごと爆破している。
そのせいで一度見失っているし、そもそも死にかけた。
モーターと時晴が同じ事をしていると聞いて思いつくのは。
「可燃性の液体ね」
「灯油とか軽油とか、あと潤滑油なんかもそう」
パワードスーツ、及びその整備を行う設備があるのだ、そのような危険な液体くらいは使っているだろう。
時晴はそれを近くにあった布にでも染み込ませてブレイズフィストで燃やしたのだ。
ブレイズフィストの炎は燃やしたい物だけを燃やす事が出来る。
つまり、爆発的な火力を手に入れつつもコントロールは可能なのだ。
「何でそんな事知ってるんだ?」
「ちょっとした雑学よ」
「何か爆発させたい時に便利だから覚えておくと良いよ」
「何か爆発させたい時なんてそうそうねぇだろ!、、、って言うけど俺にはついさっき来たんだよな」
時晴は油を染み込ませた布をもう一枚取り出した。
ポケットは油でぐちょぐちょになっているに違いない。
「それより、ミーセ。俺があのパワードスーツの注意を引く。だからミーセは攻撃に専念してくれ」
ミーセは返事しない。
意見に反対したいからではなく、話す事が出来なくなるくらい思考能力を多く使用しているのだ。
「アワリとアワナは幻視者を頼む」
「何で時晴が指示出すのよ」
「別にその作戦でも良いと思うけど」
強いのも賢いのも私達やミーセの方。
時晴が勝っているのはせいぜい根性くらい。
とは言え作戦自体に不満は無い。
「次から次へと望んでもいないヤツが出てくる。オレが欲しかったのはミーセだけなんだ。他は全員消えてくれ」
フィルターは透明な壁で時晴を横から殴りつける。
その寸前でミーセの電気のロープが時晴を引っ張り上げて回避させた。
「助かった!」
「本当にイライラさせられるなぁ」
電気のマシンガンが乱射される。
強化の式百五十パーセント。
全ての弾丸を拳のバリアで防ぐ。
「求めてない物が出てくるのはイライラするだけで全然楽しくないんだよ」
フィルターは乱射をやめてため息を吐き出す。
「楽しくないなら途中でやめちゃう?」
「小さい子供みたいにさ」
「子供なのはどっちだよ。オレはミーセが協力的ならこんな手荒なマネをするつもりは無かったんだぞ?大人って言うのは話し合いで解決するんだ」
話し合いで解決?
邪魔された時点でそんな事をするつもりは少しも無かったくせに。
「はぁ、もう良いよ」
「さっさと戦おう?」
戦闘狂だと思われるかもしれないが、コードイマジンの監獄送りにする相手にどう思われようと関係無いか。
「そうだな、その方がシンプルで良い」
「負ける方が言うとかっこ悪いね」




