第三十話「届いた」
「この辺りに、、、あった!地上に出られそうだ」
時晴は地下から地上に向かう。
建物内の地図は入手出来なかったらしく、手当たり次第に走り回っていたので帰り道も分かっていなかった。
ウィーンという自動ドアの音がスマホ越しにうっすら聞こえる。
「あれ?さっきと違う場所だ」
「まぁ、別に良いよ」
「位置情報さえ送ってくれれば迎えに行くから」
とりあえず地上に出られたなら位置情報を正確に得られる。
通話を中断し、時晴の位置情報を受け取る。
「近いね」
「歩いて行ける」
今私達がいる建物の裏らしい。
転移の式は消費電力が多いので乱用は禁物だ。
拡張バッテリーは今装着している物を含めて二つ。
節約するに越した事は無い。
「時晴、そこから動かないで」
「今から歩いて向かうから」
ミーセと幻視者の戦いとは逆方向。
一つ懸念があるとすれば姿をくらましたパワードスーツの存在。
しかし、時晴を餌にパワードスーツをおびき寄せられるならそれもまた良し。
私達を攻撃してくるなら秘密兵器時晴がフリーになるので良し。
「子供がいるよ!」
「無関係な訳がねぇ!油断するな!」
「囲め!数で勝て!」
「「なっ!?」」
これは予想していなかった。
普通の構成員。
一人に見つかった途端十数人がぞろぞろ集まってきた。
「時晴!そっちは?」
「そっちはって、、、何かあったのか!?」
この様子だと時晴はまだ見つかっていないようだ。
「今すぐ隠れて!」
「時晴じゃ勝てない!私達がすぐに終わらせて行くから!」
通話を終了する。
転移の式で逃げる事も出来るが実行したくない。
この十数人を放置すると後で必ず脚をすくわれると分かるからだ。
不安要素は出来るだけ潰しておく。
パワードスーツには逃げられちゃったけどね。
「ナックルエレキ」
拳に電気のバリアを張る。
強度はあまり高くしていないので何発か殴っても問題無いだろう。
「連絡を取っていたぞ」
「他にも仲間がいるのかも」
「囲んだ状態で撃つなよ。味方に当たる」
銃は使わず、電気警棒を構えている。
当たれば痺れ、まともに動けなくなるだろう。
「行け!」
一斉に襲いかかってくる。
せっかく手加減して囲まれてあげたのに単調に走ってくるだけ。
やはり訓練された戦闘員ではなく、グレーな組織の一般社員と言った感じだ。
一体感や団結力では外道は倒せない。
強化の式百二十パーセント。
「おりゃっ」
若い男の腹にパンチを入れる。
次は蹴りで女の脚を打ち、バランスを崩す。
「あああっ!」
叫びながら電気警棒を振り回す三十代くらいの男。
近くにいた髪の長い男の襟を掴み、ぐいっと引っ張って盾にする。
「あががががががっ!?」
大柄な男が警棒を唸らせながら向かってくる。
まずは膝を蹴ってバランスを崩して。
その隙に後ろに回り込んでジャンプする。
「はああっ!」
左脚で後頭部を思い切り蹴る。
前に倒れてきた顔をタイミング良く横からぶん殴る。
強化した身体能力で殴ったのでかなり吹っ飛んだ。
「まだやる?」
「今なら殺したり拷問したりしないであげるけど」
言葉で余裕を見せつけ、恐怖で正常な判断を妨害する。
「怯むな!まだ数ではか」
バリィンッ!
ゴンッ!
構成員の言葉が遮られた。
それもそのはず、言葉を発するはずの構成員がなぎ倒されたのだ。
「ちょうど良い所にクッションがあって良かったよ。オレは悪運が強い」
ミーセと戦っていた幻視者だ。
構成員をクッション代わりにして無傷で着地したようだ。
建物の窓を突き破ってここまで飛んできたのか。
破れた窓からミーセが電気の触手を使って這い出した。
「「ミーセ!」」
「さっきの子供達か。ミーセと同時に相手は出来ないぞ、、、」
「フィルターさん!そいつら強いんで気を付けて下さい!」
「じゃあオレが来る前に片付けておけよ!何人いるんだ使えない!モーターかライターはいないのか!」
言葉の洪水が構成員を責め立てる。
金髪の幻視者はフィルターと呼ばれているらしい。
となるとモーターはパワードスーツの女か?
それよりも。
「自分で勝てないって言って良かったのかなぁ?」
「集中攻撃しちゃうけど!」
ミーセのクレバーテンタクルは非常に強力だ。
幻術は常人の一、五倍の頭脳が無ければ使えない。
では、常人の三倍の頭脳があれば?
ミーセは天才一族の島の血族の一員であり、さらに動作補助の幻覚も持つ。
動作補助で思考を補助すれば、さらなる思考能力を得られる。
極限まで集中すれば常人の三倍にまで届くのだ。
「はぁ、、、別に良いよ」
極限の集中状態であるため、ミーセは一言も発せない。
ミーセ程の人物でもここまで切り詰めなければならない。
それでも、届いた。
二つの幻術の同時使用。
式陣による固定された幻術も含めれば実際には三つ。
先端にナイフが付いた、自在に動く電気のロープを身体から生やす。
強化の式で身体能力を大きく上昇させる。
式陣によって、ナイフに刺された相手を麻痺させる。
この三つを同時に扱えるのだ。
「フィルたがっ!?」
邪魔な構成員を透明な壁で押しのける。
「オレ一人でやってやる!」
フィルターは掌を私達の方に向けた。
こちらも電撃の拳を構える。
打ち合いが始まる。




