第十八話「カード」
「これ以上抵抗するなら殺すぞ」
パワードスーツに身を包んだ、モーターと呼ばれる女性は右腕を伊寄に向ける。
タックルで吹き飛ばされた伊寄。
倒れたままだがまだ意識は飛んでいない。
眼も死んでいない。
「もちろん」
フラフラと立ち上がりながら伊寄は言う。
「道連れにする幻術も用意してる。それも、ワタシら全員が持ってる」
警戒しているのか、照準を合わせながらもモーターはまだ攻撃しない。
伊寄は白衣のポケットから平たいカードのような物を一枚取り出した。
式陣が描かれている。
「これだよ。持ち主の心臓が止まると発動するんだ。何が起こるかはお楽しみ」
伊寄はカードをポケットの中にしまうと、モーターをそのすぐ近くに倒れている睦規から引き剥がすため走る。
海乃は指揮棒を地面に突き立て、杖代わりにして立ち上がる。
「では心臓は止めない。手足を砕き、喉を潰す」
「へへ、やってみなよ」
パワードスーツの力を借り、常人離れした速度で走るモーター。
伊寄はただ走るだけ。
当然すぐに追いつかれる。
距離を詰めたモーターは再び右腕を伊寄に向ける。
「壁!」
伊寄が叫ぶとモーターと伊寄の間に透明な板が出現した。
それは盾にも使われる特別な素材で出来た板だ。
モーターの右腕から射出された空気の弾丸は透明な壁に阻まれ、伊寄を撃ち抜く事は叶わなかった。
「イリュージョンエアガン。空気を押し出して発射する銃」
「やはりお前だけは違う。お前だけは幻術を使える」
モーターは振り返って海乃に左腕を向ける。
転移の式で自由自在に空間を繋げられるのは幻術の式を立てられる稀有な才能を持つ者のみだ。
そして強化の式で身体能力を強化出来るのも幻術を使える者の特権。
「あなたは使えないの?それが普通だけどね」
海乃は強化された脚で横に走り、狙いを定めさせないようにする。
海乃は深く考えずに言っているようだが、受け取り方によっては挑発にもなりうる。
「、、、持たざる者がこうやって、使える物を全て使って並び立とうとしている。だが持つ者はそれを何とも思わない。才能に甘え、人を見下す!私はそれが許せない!」
モーターの逆鱗に触れてしまったのか、海乃はイリュージョンエアガンを乱射される。
指揮棒で作り出した風の刃を飛ばし、空気の弾丸とぶつけて相殺する。
指揮棒本体も幻術によって非常に硬くなっているので、ガードに使う。
強化の式が無ければ全て弾く事は不可能だっただろう。
「才能の差ってのは正直あるけどさぁ」
今度は伊寄がモーターに向かって走る。
「それが全てだと思いこんじゃう心の狭さは自分のせいじゃーあないの?」
伊寄は果敢にモーターの腕にしがみつく。
力の差は歴然、だが必死にモーターの右腕を押さえ込もうとする。
「お前は無い方!持たざる者の方だろう!何故分からない!」
左腕を振り上げ、伊寄を殴って引き剥がそうとする。
しかし。
「才能があろうと無かろうと、どちらでも同じだ」
背後から投げられたゴムボールが炸裂し、モーターの左肩が氷に包まれる。
動きを阻害され、左腕は不自然な位置で止まる。
「人を見下すべきでは無い。当たり前の事だ」
「お前、、、意識を飛ばしたはず」
モーターは自分の攻撃が確実だった事を思い出す。
憤りながらも冷静さは欠いていない。
「強制的に意識を戻す幻術。保険をかけていた訳だ」
睦規はカードのような物をモーターに見せた。
式陣が描かれている。
「自爆用と言うのはハッタリか!、、、だが、これで心置き無く殺す事が出来る」
左肩を力任せに動かし、氷を壊す。
だが睦規は次のボールを投げていた。
「何度やっても同じだ!」
脚に向かって何度もゴムボールを投げつけ、動きを鈍らせる。
伊寄を右腕で強引に振り払う。
左腕は既に凍り始めている。
「砕く隙は与えないよう!」
とにかくボールを投げつけ、動きを制限していく。
「インパクトオルガン!」
海乃は転移の式で作り出した穴に上から腕を突っ込む。
パイプがいくつも付いた機械を腕に装着し、穴から引っ張るように腕を出す。
それは音波を使った巨大な拳となる。
「く!このっ!」
流石に受けてはいけない攻撃だと思ったのか、モーターは必死にもがく。
しかしパワードスーツの力を借りても何重にも重ねられた氷を即座に抜け出す事は出来ない。
「一番の敗因はわたしたちを同等に見なかったこと。幻術を使えるかどうかで警戒レベルを高くするかを判断したのが間違いだったんだよ」
いつの間にか海乃はモーターの前に立っていた。
転移の式で目の前に出現したのが分からない程、モーターは焦っていた。
「うっ!くっ!こんな所で!」
「ファ」
音程を指定し、音の拳を振り抜く。
「があああああっ!?」
暴力的な連打がパワードスーツを襲う。
ファの音が場違いに繰り返され、凄まじい衝撃がモーターを通っていく。
「シ!」
最後の一撃は最大威力のストレートで放つ。
動けなくするための氷ごと豪快に吹き飛ばし、モーターのパワードスーツは何十メートルも飛んでいった。
「わたしたちの勝因は、才能のある無しに関係無くそれぞれが出来ることを出来るだけやったこと、だよ」




