第一話「天下一」
「じゃ、またらいねーん!」
コートを着ながら教室を飛び出していった。
ハナミちゃんは帰省。
しばらくは会えなさそうだ。
「さて、私達も帰ろっか」
「ああ」
イズにとって初めての長期休暇、冬休み。
しかし当の本人には浮かれる様子も無い。
秋野イズ。
人には無い特殊な力、幻覚を持つ少女で、幼い頃に両親を幻覚で殺してしまった。
引き取られた親代わりの解理はこの夏、色々あって死んでしまい、次に私達の家で引き取る事になったのだ。
解理も複雑な過去を持つが、イズにまともな教育を受けさせなかった責任はある。
イズは十六歳ながら感情が未発達で、肉体と知能だけが先行してしまっている状態だ。
私達は、イズが普通に生きていけるようになって欲しい。
「ミーセは明日日本に着くんだって」
「活動拠点も本格的に日本に移すんだとさ」
玄関で靴を脱ぎながら教える。
イズはミーセと戦った事があるが、しっかりとした会話はした事は無い。
イズと戦った私達が一応上手くやっているのでギスギスする心配はしなくても良さそうだが。
ミーセ・ラブゼアン。
幻覚を持つ者、つまり幻視者であり、天才一族の島の血族でもある。
ロシア人と日本人のハーフで、世間的には超絶美少女。
幻術と呼ばれる、常人の一、五倍以上の知能が無いと使えない特殊な技術を扱い、私達と共に人を自殺させる集団アポトーシスと戦った。
「「インビジブルポケット!」」
家の近くの人目につかない場所に、大きな空間の穴を作った。
そこを通るとあっという間に幻想科学研究所に到着。
幻術の一つ、転移の式を使ったのだ。
「おーう!来たね来たねぇ。早速準備始めるよぅ」
「はい!」
「過去最強の飾り付けをしますよ!」
出迎えてくれたのは滝井伊寄さん。
一般人には秘匿された技術を扱う幻想科学、それの研究をしている奇人。
その友人で同僚で仲間で家族の。
「イズちゃーん!待ってたよ今日もいっぱい検査しようねぐふふふぅ」
石見海乃さん。
かなりの奇人だが、幻術を使えるほどの知能も持っている。
そしてイズに飛びつき、大きな髪留めでまとめられたイズの赤い髪をわしゃわしゃかき混ぜた。
「今日は検査の予定は無い。ミーセの歓迎パーティーの準備で一日使うだろうからな」
武蔵野睦規さん。
あまり喋らない研究一筋の奇人。
二人のストッパーとしてはあまり機能しない。
「あーそうだったね早く始めようよ」
今まさに始めようとしてたんですがね。
「おっ、アワリ、アワナ。ミーセの歓迎パーティーの準備をこれからするんだけど」
「「だから始めようとしてたんだって!」」
能登時晴。
この研究所の研究員で伊寄さん、海乃さん、睦規さんの小間使い、雑用係、尻拭い役。
そして天下一のナメられ体質。
私達がこの研究所に関わる事になったのは時晴に出会ったのがきっかけだ。
ちなみに何故か超絶天才美少女のミーセに思いを寄せられている。
しかも時晴はそれを理解していない。
世界中のミーセファンに命を狙われていないのは奇跡なのかもしれない。
「こんな感じかな」
部屋を見渡し、時晴はそう言った。
「うん」
「良い感じじゃない?」
色とりどりの造花や紙で第三ラボは飾り付けられた。
散らかっていた物を全て奥の部屋にしまうと部屋が何倍にも広くなった。
「後は本人が来るだけだねぇ」
料理は明日用意するし、迎えに行く車は時晴が運転するし、、、もう今日やる事は無いかな。
「じゃあ私達は帰りますね」
「また明日」
「はーいまたねー」
海乃さんが大きく手を振って見送ってくれる。
「下の肆」
イズは右手の指を四本地面に向けて伸ばし、地面を泥沼のように変化させた。
イズの幻覚は五指登録。
指と言葉で宣言する事で登録してある現象を呼び出せる。
この泥沼の幻術も登録された現象の一つだ。
「「とう」」
泥沼に入るとゆっくり沈み込み、脚から別の場所に転移する。
行く時に転移の式を使った場所に降り立った。
「「ただいまー」」
「おかえりぃーっ!」
「おかえり!」
元気なお母さんと、お母さんに甘いお父さん。
先に帰ってきていたようだ。
「ただいま」
遅れてイズも言う。
「さ、ご飯ご飯!お腹ペコペコだよー」
ご飯担当は私達、田島泡里と田島沫奈。
精神共有の幻覚を持つ幻視者で、その名の通り精神が繋がっている。
そのおかげで知能が高く、幻術も使える。
数々の幻視者をパワーと外道な戦法で打ち負かした、キュートな双子だ。




