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誰も悲しませないバッドエンド  作者: 二重名々
or truth

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若草利得・後

名鑑・四十一


稲畑栄樹が用いた強化の式


通常の強化の式は運動能力を上昇させるが、稲畑栄樹は肉体の耐久力を上昇させた。

式の改変自体は容易であり、幻術さえ使えれば誰でも使用出来る。

稲畑栄樹が耐久力を上げる事を目指した背景には、彼の異常なほどの少女愛がある。

思考は常に欲望に忠実で何よりも美しい少女を望んでいるが、一方で常識的な思考は残っており、自身の嗜好が社会的に許されざる物であるとも本心では理解していた。

欲望と常識を併せ持つ稲畑栄樹はいずれ理想の少女を確保しても抵抗されたり邪魔が入ったりする可能性があると考え、あらゆる抵抗や攻撃に耐えられる強固な肉体を欲した。

田島姉妹のナックルエレキでさえもこの防御を直接破る事は出来ず、エレクトロバブルで演算装置の電力を吸収する事で対処した。

開発者は稲畑栄樹だが、類似の式は多数存在する。

使用者は稲畑栄樹。

「若い割にしぶといじゃないか」


サドリアは内心非常に驚いていた。

確実に決まったと思った火炎放射。

避けられないはずだった。

霊体は勝利を確信した時に一度消してしまった。


「そっちこそ、老いぼれの割に良い動きするじゃん!」


ジェミー・マムサカは天井に張り付いていた。

身体の周りにはベトベトした黒い液体が付着しており、天井と身体を接着させているようだ。


「まだまだ若くありたいがね」


黒い液体は時間と共に接着力を失っていき、遂にはジェミーは床に落ちた。

しかし、着地して立っている訳ではない。

靴の裏で膨らんでいる直径十センチメートルほどの白いボールを使って跳ねているからだ。


「ほう、それで天井まで跳んだのか」


サドリアは小さく跳ね続けているジェミーを警戒し、霊体を自身の前に二体生み出した。

天井の高さは約八メートルで、そこまで一瞬の内に跳び上がった。

つまり、それだけの距離を素早く移動する力があるという事だ。


「じゃ、オレから行くぜ!」


大きく腰を落とし、力を溜める。

次の瞬間には霊体に体当たりし、サドリアの目の前まで迫っていた。


「ふあっ!」


霊体を新たに生み出して盾にすると同時に、左に跳んで体当たりを回避した。


「まだまだっ!」


空中で身体を回転させながら、紫のボールを投げた。

紫のボールは人の身長を超えるくらい大きく膨らみ、壁となってジェミーの靴の裏のボールに蹴られた。

再び肉体の弾丸となってサドリアを狙う。


「今度は完全に受け止めてやろう!」


二十体の霊体で、真っ向勝負を挑んだ。




途作はマッスルガールとしばらく殴り合っていた。

とは言っても、九割は殴られる方で、残りの一割も大したダメージを与えられていなかった。


「はぁ、、、はぁ。ヒットアンドアウェイされちゃこっちに勝機はねぇな」


「マッスルタンク!」


戦車のような突進で、マッスルガールが侵入してきた穴から外に飛ばされた。

一階とは言え、何かに激突する危険はある。

外の庭園には人もいない。

流石に避難は終わっているようだ。


「うおっ!?」


「マッスルロケット!」


横に吹っ飛んでいる途中の途作に追いついて、頭と腕で思い切り上にかち上げられた。


「かっ!?まずい、空中じゃ動きが」


「さぁ、フィニッシュだよ!」


またしても飛び上がった途作にジャンプで追いつき、今度は両手を交差させていた。


「マッスルギロチンッ!」


首に交差した両手が体重ごとのしかかり、そのまま二人は落下していく。




「おねーさん、ほらほら頑張って」


少年はオレンジ色の液体を乱射し、利得はそれを避けながらハンマーを振るう。


「調子乗ってんじゃ、ねェぞ!」


「口だけじゃ説得力無いなぁ。まずは僕に攻撃当てないと」


少年が扱うにしては大きい銃には円形のダイヤルが付いていて、回すと液体の飛び方が変化する。

ガチャリ。

連射から、噴霧に。


「これは避けられないでしょ?」


廊下の幅全てをカバーする噴霧。

少しずつだが、確実に蓄積していく。


「ベタついてやがる。何だこの液」


「僕特製のシロップだよ。あらゆる電波を妨害し、触れた者の動きを妨げる。もうおねーさんは当たっちゃったね」


利得の服にはどろりとしたオレンジ色の液体がまとわりついている。

噴霧が蓄積した結果だ。


「これだけじゃ決定打に欠けるなァ。まだなんかあんだろ」


ハンマーでの攻撃は未だ当たらない。

シロップで動きは悪くなっているし、そもそも完全に読まれている。


「おねーさんこそ、それしか攻撃手段が無い訳じゃ無いよね?僕にもっと見せてよ」


ダイヤルを再び回し、射撃パターンを変化させる。


「うぐっ!?」


特大のシロップ弾が利得の胸の辺りに直撃した。

衝撃で後ろに吹き飛ばされ、壁に激突する。

さらに、どろどろと胸を流れるシロップの重さでさらに動きづらくなってしまった。


「これで決めるよ」


もう一度ダイヤルを回すと、シロップの高圧噴射になった。

線状に放たれる液体は床からだんだん利得のいる方へ行き先を変えていく。


「うああぁぁぁぁぁぁっ!」


シロップで動きにくくなっているが、動かない訳では無い。

幻術も電波を遮断してしまうなら使えない。

そもそもトラップ系の幻術しか使えない利得に今の状況は向いていないとしか言いようが無い。

だが、利得は最後に足掻いた。

右腕はまだ動く。

ハンマーを投げたのだ。

ぐるぐると回りながら、少年の頭の上を通過する。


「残念」


「まだ終わってねェ」


空間打撃は衝撃の位置を変える能力。

利得では安定した物体の衝撃の位置しか変えられない。

よって伸ばしたのは安定性ではなく、連続性。


「なばっ!?」


回転するハンマーで生まれる衝撃を、何度も頭に移す。


「あっ!?がっ!?うっ!?ぐっ!?ずっ!?あ、あ、あ、あ、がぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


何十回も少年の頭を打撃した。

ハンマーが地面に落ちるまで何度も。

シロップの銃撃はとっくに止んでいた。


「余裕ぶっこくのはアタシだけで良いんだよ」


少年は身の丈に合わない大きな銃の上に倒れている。

意識は飛んでいるようだ。


「歳はあの双子と大して変わんねェな。じゃあもうちっと頑張ってほしいもんだな」


襟を掴んで頭を持ち上げた。

涙が頬に流れた跡が残っている。


「あ、がっ」


少年の意識が戻った。


「はぁ、はぁ、ごほっ!?ぼ、僕がまたこんな屈辱を!先代なんかと違って僕は正統後継者なのに!受け継いですぐに死んだあいつなんかより僕の方が優秀なのに!」


死に際の悪足掻きのように叫ぶ少年。

それを見て利得はため息をついた。


「で?優秀だから何だ?オマエはアタシに負けたんだよ、バカが」

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