サドリア・バナガルト・後
名鑑・三十九
五指登録・上の伍・治癒
秋野イズが登録している治癒の式と似た幻術。
五指登録で呼び出せるように改造してあるのは同じだが、治療速度が速く、治療の許容量が少ない。
許容量が少ないため、大きな傷は完全に治せず、同時に複数箇所治療する事も出来ない。
解理は、自身の戦闘能力の高さを踏まえ、大きな傷を負う事は無いと考えていたため小さな傷を速く治す事に特化させていた。
開発者、使用者は解理。
「ホテルクリスタルネイルで行われるパーティーに出席する政府関係者の殺害が予告された。パーティーに潜入し、対象の護衛、さらに実行犯を捕らえるのが今回の作戦だ」
大柄な男にこのミッションを告げられた四人は早速ホテルに向かっていた。
「情報によると、実行犯は三人以上。電子機器を破壊する事も可能らしい」
「誰情報だよ。信用出来んのかそれ」
大きな車だが、利得が脚を組んでいる分狭くなっている。
「先日捕らえた組織の人員の証言だ。ただ、外部から傭兵を雇って作戦を行うらしく、詳しい情報までは知れ渡っていないらしい」
「金で力を買った訳か」
分吾は以前自分が行った事を思い出しながら言う。
あの時は八十人近く雇ったが、たった数人に敗れた。
「組織は情報流出しにくくなり、傭兵は仕事が貰える。共存関係とも言えるな」
助手席に乗るサドリアは帽子を整えながら言う。
スーツで身を固めたサドリアは、パーティーに似つかわしい装いと言える。
ただし、他の三人は正装ではなく、いつも通りの格好だ。
サドリアも普段から戦闘時はスーツを着ているので普段着と言えなくもないのだが。
「そろそろ着く。用意しておけ」
「用意も何も、この身一つで飛び込むんだけどな」
「幻術の使用は許可している。並の装備よりは頼もしいだろう」
車を停めながら大柄な男は言う。
「自分で作った訳でもねぇのによ。どこまでも人任せな野郎だぜ」
「最適な場所に最適な人員を割き、人任せにするのが我々の仕事だ」
「まだ動きは無い」
分吾の視界泥棒を使い、パーティー会場の様子を窺う。
四人は会場近くのスタッフ用控え室で待機している。
時々分吾がドアから顔を出し、参加者を見る。
見た人物の視界は、別の人物の視界に切り替えたり対象人物の意識が無くなったりするまで使えるため偵察に向いているのだ。
「演説を始めるようだ」
「えー、今回はこのような素晴らしいパーティーにえーお招きいただいてえーありがとうございます」
護衛対象は六十代の小太りの男。
金と権力に溺れた人物だと言われても誰もが納得するような容姿だ。
「アタシならここで襲撃するな。護衛が歩き出した瞬間だ」
「概ね同じ意見だね。より警戒をした方が良いだろう」
四人は立ち上がり、身体を伸ばす。
「えー彼とは十年来の友人でしてね、えー彼の洞察力と思いやりにはずいぶんと助けられ」
ドガァンッ!
「来たか!」
「上だな。利得、行ってくれ」
「あいあい。あのおっさんから目ェ離すんじゃねェぞ!」
パニックになりつつある会場に背を向け、利得は階段を上っていく。
「行くぞ!やっぱ護衛になんか任せてらんねぇな!」
途作に続き、控え室からサドリアと分吾が飛び出す。
「私が兵で周りを固めよう。君達は」
サドリアの身体が横に吹っ飛んだ。
分吾と途作も襲撃に気づけなかった。
「ふははははははは、我輩の接近に気づけなかったか!流石我輩!スピードも一級品!」
右手に細長い剣、左手には照明を受け輝く銃。
この男の髪はブロンドで毛先までがっちり固められている。
「実行犯じゃねぇ訳ねぇよな!分吾!オレがこいつをやる!」
「いや、俺がやる。俺の方が相性が悪そうだ。良い鍛錬になる」
「バカかよお前!、、、まぁ相性は結局オレも大差ねぇか。任せるぜ!」
足早に途作は先に行く。
サドリアの生死は不明だがとにかく護衛対象に近付かなければ何も守れない。
「が、はぁ、はぁ。何とか間に合ったか」
サドリアは奥の通路にまで飛ばされていた。
袖の内側には特殊な素材で出来たプレートのような物が入っている。
プレートによる防御が間に合っていなければ骨が折れていてもおかしくない一撃だった。
「あのスピード。幻術か?だが打撃は大した威力では無かった。とは言ってもこの老体が吹き飛んでしまったが」
「独り言が多いぞ、じーちゃん」
転がるようにして相手の攻撃を避ける。
その攻撃とは、ボール。
ピンポン玉くらいの大きさの赤いボールが飛んできたのだ。
「パーティーの参加者ではないようだね」
赤いボールはさっきまでサドリアがいた場所で炸裂していた。
床や壁は焼け焦げている。
「いや、パーティーには参加してるぜ!スーパーボールパーティーに!」
キャップを後ろ向きに被った青年は黄色の小さいボールを複数個まとめてサドリアに投げた。
サドリアは霊体で受け止め、後ろに下がる。
「へぇ、幻視者なんじゃん。レアな相手と戦えてラッキー!」
黄色のボールがめり込んだ霊体が消えた。
小さい割にかなりの威力があるようだ。
「私はサドリア・バナガルト。君の名前を聞いておこう」
青年はポーチから緑色の、テニスボール大のボールを取り出した。
「オレはジェミー・マムサカ。パーティー大好き野郎さ!」
緑色のボールは投擲と同時に分裂し、ショットガンのようにサドリアを襲う。
「はっ!」
五体の霊体で身を守り、さらに二体の霊体でジェミーに掴みかかる。
「おっと、これは厄介だな」
右の霊体に肘を突き出して消し、腰を落としながら回転して左の霊体の脚を払った。
「彼女には尊厳だなんだと言われたが、やはり私は霊魂を惜しみなく使う。力を役立てる方が死者も喜ぶだろう」
一気に三十体の霊体を生み出し、通路を塞ぐ。
さらに、掌は全てジェミーの方を向いている。
「やっべぇ!」
一斉砲火で室温は急上昇した。
「君の霊魂も、使わせてもらおうか」




