田島沫奈・前
名鑑・三十八
五指登録・上の肆・強化
秋野イズが上の弐に登録している強化の式と同じ幻術。
身体能力を強化する式に若干の改良を加え、五指登録によって使いやすいように自動でオンオフの切り替えをし、強化倍率、強化部位を設定する。
開発者は秋野イズ。
使用者は秋野イズ、解理。
ビーッといううるさい音で試合は始まった。
「な、なんだこの動き!?」
「低すぎる!?」
超低姿勢でのドリブルで次々と相手を突破していく。
赤いゼッケンの相手チームは、男子二人、女子一人。
男子二人はサッカー部、女子はバレー部で、かなりの優勝有力株だったに違いない。
「そりゃっ」
難無くレイアップシュートを決める沫奈。
試合は十分、試合終了時により高得点だった方の勝ち。
「ほらほらこっちこっち!」
出来るだけ引き付けたら想愛にパス。
マークが甘くなっていた想愛は、練習したシュートを堅実に決めた。
「楽勝だね」
「ま、負けた」
「こんなの無理じゃーん」
一度も得点を許さず圧勝。
優勝候補だと高らかに宣言したようなものだ。
「ほっ、ほっ。残念!」
二重三重のフェイントで華麗に翻弄し、敵地に突っ込んでいく。
そして、無情にも試合終了の合図。
「よし!この調子で行くよ!」
「はぁ、はぁ、、、うん。あと二勝だね」
息を切らす想愛とは対照的に田島姉妹は大して疲れていない。
想愛の二倍は動いているというのに。
「ふぅ、すごいスタミナだね」
「まぁね、昔格闘技やってたから」
想愛は、何故それがスタミナに繋がるのか、とでも言いたげだ。
それを察したのか、泡里が続ける。
「単純なスタミナ量もだけど、それより効率の方が大切よ。呼吸の仕方とか、短時間で休む方法とか」
つまり、田島姉妹はあれだけ動いている間にも適宜身体を休め、体力を回復させていたのだ。
「そんなのまで格闘技で身に付くんだ」
「ま、直接教えてもらったってよりは、自分達で身に付けたって感じだけどね」
「さぁ、最終決戦ね」
ここまで無敗で総当たり戦を勝ち抜き、別ブロックの一位と戦う事になった。
赤いゼッケンの相手チーム、青いゼッケンの田島姉妹と想愛。
「流石にちょっと疲れてきたけど、十分くらいなら大丈夫でしょ」
三人はかなりの汗の量だ。
タオルで拭いても次から次へと湧き出てくる。
「ふん、やはりオマエ達か」
バスケ部の二年生エースの男子、バレー部の長身アタッカーの女子、どこまでも食らいつく事で有名なサッカー部の狂犬マン。
「手強そうな相手だね、、、」
「弱気になるなよ、ソア?」
「私達には秘策もあるし、必ずカードは手に入れられる」
袖を改めて捲り直し、コートに入る。
「それでは決勝戦、開始!」
開始の轟音。
ボールは相手のエースに渡った。
アタッカーとのパス回しで確実に攻めてきている。
「ふわっひゃあぁぁぁぁ!オレから逃げられると思うなよ?」
狂犬マンにしつこくマークされているせいで泡里はボールに近付けない。
「おりゃあっ!」
豪快なジャンプとレイアップシュートで先制点を許した。
「まだまだ!」
双子での超連携は使えない。
代わりに想愛と沫奈で進む。
「ソア!」
「はっ!」
見事にシュートを決めて同点にする。
「「ナイスシュート!」」
想愛は嬉しそうに拳を上げた。
「リバウンド!」
「任せろ!」
長身かつ力強いエースにリバウンドで勝負するのは無理だ。
「ソア!追うな休め!」
一瞬戸惑った様子の想愛だったが、双子の指示に従い脚を止めた。
結果、容易くゴールを決められ、同点に追いつかれた。
「ソア、次で決めるよ」
「決める一瞬までは上手く休んでおいて」
「分かった」
想愛は双子の考えを受け入れた。
想愛には何でも受け入れる包容力と、ここぞと言う場面で必要なフォローが出来る援護力がある。
相手を翻弄する事と突破力が取り柄の田島姉妹と相性が良い想愛がチームを組んだのは偶然だったのかもしれない。
だが、想愛は一時の偶然で自分の存在を片付けられたくないと思った。
それほどに心に田島姉妹の存在が焼き付いてしまっていた。
「ふひゃひゃ、さぁ、あと一分だな。九分間動けなかった気分はどうだ?」
狂犬マンは気味の悪い笑い方で挑発してくる。
「本気でマーク出来てると思ってたの?だとしたら相当な間抜けよ」
「ああ!?」
想愛から沫奈に、パスが通る。
沫奈は低姿勢のドリブルでエースを突破し、アタッカーと対峙した。
「最近、初彼氏が出来たんだってね」
「な、何でそれ」
を、と言う前に身体を翻して突破してしまった。
沫奈から泡里にパスが通った。
マークの一瞬の隙を狙い、位置を逆転させていたのだ。
「だが、オレを抜けると」
「あぁーばよォォォォォォォッ!」
高速でボールを何回も跳ねさせた後、やや後ろに退く。
ボールの急加速からの急なバックステップ。
狂犬マンは急いで対応しようと踏み出した。
「うわっ!?」
ドテンッと派手に転んだ哀れな狂犬マンに無慈悲な言葉を浴びせる。
「「わーははは!これで完勝!決まりだ優勝!」」
転んだ隙に二人で突き進もうとすると、エースとアタッカーが並び立つように双子の目の前を守っていた。
「まだ同点だ!」
「勝った気にならないで!」
「もう遅いよ」
「ほら」
二人は肩をすくめて両手に何も持っていないとアピールする。
ボールは既に手を離れて飛んでいた。
ブロックされている前ではなく、想愛がノーマークになっている後ろへ。
アタッカーとエースは驚きの表情を作っていたために反応が間に合わない。
残り時間はおよそ五秒。
「失敗しても何とかしてくれる!」
スリーポイントシュートを放った想愛は確かに笑っていた。
「何で必要無いのにわざわざスリーポイントなんか打ったのよ」
「同点だったんだから普通のシュートで良かっただろ?」
「言ったでしょ?完勝って」
「ああっ!あそこでオレが転んだりしなけりゃ!」
狂犬マンは頭を抱えて叫ぶ。
「本当に間抜けね。転びやすくなるようにちょっとずつ汗を落として溜めておいたの。見事に引っかかってくれた訳だけど」
汗が止まらない場合の秘策を決行した。
混乱しないよう予め想愛には秘策を教えておいた。
「ぷたはっ!何だよそれ!ひっでぇなお前ら。はは、はははっ」
いっそ清々したかのように笑いながら相手チームは立ち去った。
「「ソア!優勝おめでとう!」」
「そっちこそおめでとう」
わいわいとうるさい体育館で、改めて優勝の実感を得る。
「いやー決めてくれると思ってたよ!」
「流石は私達が見込んだ男!」
双子もテンションが上がっているのか、ハイタッチの威力が高い気がする。
想愛は衝撃でやや後ろに仰け反った。
「どうしてあそこで僕にパスしたの?自分達でも突破出来たと思うけど」
「スリーポイントの方がロマンあるじゃん。それに」
「あんな頼もしい分かった、を聞いたら信じたくなるからね」
それを聞いて想愛の顔と耳はより赤くなった。
田島姉妹は、それは運動後だからだと思っているらしい。
「は、はは、ありがとう」
「よーし!これから勝利のパレードを決行よ!」
「さ、肩車して肩車!」
「うわぁ!?」
泡里に肩をぐいっと下げられ、沫奈が乗り込もうとする。
眩しい太ももに柔らかく挟まれ、汗で濡れた頭に掴まられながらパレードが始まった。
泡里は前で群衆の波をかき分けながら先導している。
「さぁさぁ皆さん!勝者が通るぜ!」
恥ずかしさと嬉しさと、もう一つ恥ずかしさを感じながら想愛は沫奈を乗せ練り歩いた。
「こら!危ないから降りなさい!」
「わ、見つかった!」
「撤退じゃー!」
沫奈は想愛からするりと降り、双子は人混みの中に消えた。
「あれっ!?アワリ?アワナ?」
先生に捕まったのは想愛だけだった。




