能登時晴・前
名鑑・三十
五指登録・下の壱・爆炎
解理が人格投影によってコピーしたイズの人格には五指登録という幻覚も付随していた。
その下の壱には爆発を起こす幻術が登録されている。
使用者が爆発を起こしたいと考える座標を自動で検出し、式に代入する。
爆発の威力は非常に高く、直撃すれば大抵の物は焼失する。
威力は使用時に変更する事が出来ず、手加減をする事は困難である。
爆炎は直径約一メートルの球状に発生する。
射程はおよそ二十二メートルで、それより遠くに発生させようとしても上手く爆発しない。
また、周囲の水素、酸素などを一点に集め、さらに温度を急激に高める事で爆発を起こす。
よって、一度使用するとその近辺に水素や酸素が戻るまではこの幻術を使用する事は出来ない。
開発者、使用者は解理。
「ああーっ!待てーっ!」
お手製のミニ気球が風に煽られ飛んでいく。
風向きが急変し、どんどん東に。
走って追いかけるが追いつく事は叶わない。
「まずい!私有地に入っちまう!」
大きな建物がそびえ立つ。
このままだと激突してしまうし、勝手に入る事も出来ない。
気球が壊れるだけならともかく、器物損壊や不法侵入でトラブルになってしまうかもしれない。
「頼む!せめて何も巻き込まず墜落してくれぇ!」
時晴の叫びも役に立たず、一メートル程の気球は目の前の建物にぶつかってしまった。
グワシャーンッと台座は崩れ、風船は破裂した。
「あぁー、どうするかー?とりあえずここの人に訳を話して謝るかー、、、」
「へぇ、ワタシらの研究所に襲撃なんて度胸あるじゃーあないの」
「わっ!?」
近くの木の陰に誰かいる。
ややタレ目の女性で、泥と木の葉だらけの白衣を纏っている。
「す、すいません!あの!襲撃とかじゃなくて!自作の小さい気球がここに飛ばされちゃって!」
慌てて弁明し、襲撃の意図は無いと伝える。
「あの気球は自作なのか」
「えっ、はい。許可は取ってますけど。ってえ?」
女性が出てきたそのすぐ左から白衣の男性が出てきて言った。
「何を載せてたの?」
今度はポニーテールの女性だ。
次から次へと人が草むらから出てくる。
「え、えっと、測定用の機械です。気温とか、気圧とかの」
怒られるのだろうか。
訴えられるのだろうか。
どちらにしても気分の良い物では無いし、就職活動に不利に働くかもしれない。
「来たまえよ、若者。じっくり話を聞かせてもらおうじゃーあないか」
「、、、これ絶対叱られるっ!」
「自力でデータを集めたのか、これら全てを」
「はい、毎日計測して記録してます」
時晴は散らかった部屋で質問攻めにあっていた。
これまで集めてきたデータを見せると質問はさらに加速した。
「これが昨日の分だね紙で記録してるなんて珍しいね」
勝手にリュックを漁られ、昨日の分のデータが記録された紙を探し当てられた。
「紙は古代から受け継がれてきた神秘の技術の結晶!そう考えるとロマンを感じません?コンピュータも使いますけどね」
「よく分かんないね」
「ま、キミが良いなら良いんじゃーない?」
軽く流されてしまった。
とは言え、話が襲撃から離れてくれたのは時晴にとってありがたい事だった。
「ところで、今キミは何歳だい?」
何故それを気にするのか分からなかったが、言って困る物でも無いと思ったので正直に言った。
「二十二歳、大学生です」
卒業年度の夏、そろそろ進路を定めなければならない時期だ。
そんな時期にミニ気球で遊んでいたとなるとあまり褒められる事ではない。
「就職先は決まっているか?」
「いや、全く決まってないです」
ここまで聞かれたら流石に分かりそうだが、時晴は自分に関する事には無頓着で鈍かった。
「採用!」
「え?」
「ここで働こうよ!ときはる!」
「ええええええええええええーっ!」




