第八十八話「そろそろ」
「はっ!まずはこっち!」
腹に裏拳を叩きつけられる。
体感時間がおかしい。
もう二十秒くらい経ったような気がしていたが。
まだ一秒も経っていない。
「がぶ」
壁の硬い感覚。
「次はこっち!」
右腕はこちらを向いている。
ロケットのように上に向かって来る。
上野は強化の式なんて使っていないはずなのに動きが速すぎる。
経験か、実力か、いやそんな事どうでも良いか。
「ごは」
痛みはあるが、何故か二人とも冷静だ。
ただの高校生に、裏拳で壁に叩きつけられたり、空中で渾身のストレートを食らったりするような経験は無いはずだ。
なのに、冷静だ。
今も連続で殴られて、防御で精一杯のはずなのに。
強化の式で身体の強度を上げていなければ手が腹を貫通していたはずなのに。
私達はアポトーシスと同じ高さまで登ってしまったのか。
それとも落ちたのか。
じゃあ、もう、そろそろ、やっと。
本気でも出してみるか。
「なっ!?」
手を掴んでいた手は硬くない。
硬化していると動きにくくなるのだろう。
つまり強化の式で無理矢理こじ開けられる。
落ちていた盾を拾い、二人で同じ方向に。
「また盾で防御か?一体一だとお前たちの長所は活かせねぇと思うんだけどなぁ」
「完全に分業すればそんな事ないよ」
「その腕、硬くすると動きが悪くなるでしょ?」
上野は何も言わない。
「だから何かを掴む時は硬化させない」
「腕以外は硬く出来ないんじゃないの?」
上野は何も言わない。
「関節周りとか姿勢維持に使う腹筋とか」
「だから、腕だけ」
脚を蹴った時も異常な硬さは無かった。
何回か腕以外に攻撃が当たったがどれも普通の硬さ。
「だからどうした!結局はこの狭い地下通路で硬化出来る腕が四本ある戦闘のプロと戦うって事なんだぞ!お前たちに負けるはずねぇよ!オレはお前たちを倒すために強くなった!オレがお前たちに勝つ!その結果だけが残る!」
「「私達には勝てない」」
盾の前に出る。
強化の式、、、千パーセント。
眼を閉じるよ。
眼以外は閉じるからね。
通り過ぎて、斜め後ろに跳んで、少しだけ前、右ストレート。
二つの倒れる音は認識出来た。




