第八十七話「強く」
「そうだ電話。田島にでも仕事させておくか」
「ちょっとは仕事の事忘れたらどうです?あんまり根詰め過ぎても効率良くないですよ?」
「仕事の事も分からん若者が俺に口出しするな!結局はやるしかないんだよ!あいつらだってこんな簡単な事も分からないで休みだの何だの言いやがって。俺たちはただ働く事でしか必要とされないんだ。俺はあいつらを働かせる!それで全て上手くいく!」
断片、山道を歩きながら怒鳴る。
時晴、歩みを止める。
「、、、働く事でしか必要とされないなんて間違ってる。人はそんなに無機質な生き物じゃない」
「何だと?」
断片、歩みを止めて時晴の方に振り返る。
「人は働く事以外に価値があるって言ってんだ」
「敬語はどうした!そんな当たり前の事も分からないのか!これだから若者は!働く事の大切さも知らずに何を言っても無意味だ!人は社会を回すために働く!働かないやつはただの役立たずだ!」
「お前に敬語なんて使わない!尊敬に値しない!尊敬されるのはな、働く人を助けて働けない人に寄り添えるような人だ!働く事の本質が分かってないのはそっちだろ!」
「いいや分かっていないのはそっちだ!働かないやつは社会をだめにする!働くしか能がないのが俺たちだ!働いていないのは死んでいるのと同じだ!死者は社会から追放するべきなんだよ!」
断片、時晴に掴みかかる。
時晴、体重移動で断片を横に転がす。
断片、時晴の服を掴んで二人とも転がる。
「が!?」
「ぐ!?」
時晴、断片を下にし、肩を強く掴む。
「社会は何のために回すんだよ!幸せになるためだろ!そのために仕事をして、友達と遊んで、美味い物食って、家で家族と過ごして、その日の事を振り返りながら寝るんだろ!仕事は手段の一つであって目的じゃない!人生の目的は幸せになる事だ!働けない人には幸せになる権利が無いなんて事は無い!働いていない人じゃねぇ!目的を見失って、働く事でしか自分の存在を確かめる事が出来ない人を死者って言うんだよ!」
時晴、枠円をリュックから取り出す。
「あんたは生き返れる!もう一度自分を見つめ直せ!」
断片、何も言わず手を広げて力を抜く。
時晴、枠円を断片の額に強く押し当てる。
枠円、男性から出たもやのような物を吸い込んでいく。
「後で部下に謝っとけ。多分許してくれるから」




