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ねことおでかけ 3

如月工務店。

彼らは時間と空間へ手を加える作業、つまり時空干渉を得意とする企業であり、その技術で生み出される商品は様々な精神医学的分野において多大な効果をもたらす。


日本生類創研 。

生物学に非常に強い社員ばかりが集まっており、その分野の研究や発明にいたっては右に出るものがいないとまで言われるトップクラスの生物学科商品取扱企業。


東弊重工。

一般企業には到底理解不能かつ実用不可能な科学技術で多数の製品を開発する企業。建築ももちろん得意としており、財団職員がお気に入りのとあるカラオケもこの企業が作ったものである。


さて、これほど超越的技術を持つ三社が、もし手を組んだら。

もし全力を注いで1つの『商品』を手掛けたら?

それはきっととんでもない「何か」になるだろう。

そして今回それは実現した。

三者合同で作り上げた商品は、もはや『作品』と言えるレベルだ。

今回の作品は……


「これは……デパート……?」


「はい。まだ開業前ですが」


そう、超企業三社合同の夢のデパートだ。


「どうしてここへ?」


「お礼として、ねこの知り合いの伝手でオープン前のデパートの体験、いわゆるβテストプレイヤーとして参加させて貰えることになりました。このデパート、無人店舗を数多く導入しており、電子決済などキャッシュレス化が酩酊街でも広まりつつあることを利用しています。どうですか?楽しそうでしょう?」


「は、はい!なんだかすごいですね……」


「では、行きましょう」


こうして2人はデパートへ足を踏み入れた。

先に言ったとおり、無人で開いている店舗をいくつか利用してみたり、これから仕上げ予定のフロアを覗いてみたり、楽しい時間を過ごした。


そして……





20××/××/×× 酩酊街郊外デパート


ねこです。

今日は……今日は勝負の日です。

彼を取り戻すためにねこにできることなら何でもします。

さあ、もうすぐ「作戦」の時間です。






ピーンポーンパーンポーン……


来ました。「放送」の音です。








「財団日本支部所属研究員様。恋人のねこさんがお待ちです」









ピーンポーンパーンポーン……


「……?今のは?僕達以外にも誰かいるんですか?」


「……いいえ、今のはあなたを呼んだのです」


「えっ……?でも、恋人……それもねこさんって……」


「さあ、着いてきてください」


「えっ、ちょっ、どこへ!?」


ねこは目的地に向かって早足で歩きます。早く、早く、早く……!


「着きました、ここです」


「これって……映画館?」


そう、ここはデパートやモールの中にある映画フロア。今回の作戦はここからスタートします。


「では席に着いてください」


ねこと彼が座ると、間もなく映像が流れ出しました。


ナレーターが映像と共に語ります。


「えー、本日は東弊重工が誠心誠意手がけましたこちらの映画フロアへお越しくださり誠にありがとうございます。こちらでは今回特別に、日本生類創研様が作られましたとある映像をご覧頂きます。それではどうぞお楽しみくださいませ」


映像本編がスタートします。







『むかしむかし、ある所に小さな猫がいました。まだ産まれたばかりの子猫はとても人懐こく、皆から愛されていました。ある日、ねこは小さな女の子と遊んでいました。ところが女の子は怪我を負ってしまい痛みを訴えました。その様子に心を痛めたねこが、彼女の回復を心から願うと、なんと彼女の傷はたちまち消えてしまいました。それからも、ねこにとって悲しいことが起きる度に何故かすぐに好転するのでした。ねこが原因だと気づいた周りの人々は始めは奇跡だ光の力だと囃し立てた周りの大人は、いつからかねこを恐れるようになりました。子どもたちにとっては不思議な英雄のような存在でも、一部の醜い大人からすれば思い通りにならない化け物でした。そうしてねこは悪い大人たちに騙されて、その土地に昔からある古代の大木である桜の木を、子どもが登って降りれなくなったと騙され、救い出すために荒らしてしまい桜主の怒りを買ってしまいました。ねこはすぐに事情を説明したのですが、悪い大人たちは今まで起きた不思議な出来事を、まるで悪い事をしたかのように嘘をついて桜主までも騙しました。そうしてねこは龍によって暗い大穴に閉じ込められてしまいました。大穴に底はなく、ねこはいつまでも落ちて落ちて落ち続けました。

ねこは暗闇を漂いながら、自分を愛してくれた人達のことを考えていました。最初はただただ悲しくて怖くて仕方が無かったのですが、そのうち段々と寂しくなってきました。寂しくて寂しくてねこは泣きました。また誰かと遊びたい。また誰かに見て欲しい。また誰かを見つめたい。そう願ったねこは、気づけば不思議な力を初めて自分のために使っていました。するとねこはとある能力を手に入れました。ねこを見たものはねこの事を忘れられなくなり、また他の人にもねこの存在を、確かに生きていることを伝えてくれる不思議なおまじないを掛ける能力でした。これで寂しくなくなる、そう思っていました。それからねこは色んな人の視界に入り、色んな猫になりすまし、色んなところに行けるようになりました。でもねこはずっとずっと寂しかったのです。ねこはすぐに何故だか分かりました。そう、ねこは誰かを見つめても、誰もねこを見つめ返してくれませんでした。ねこは苦しくて痛くて辛くてどうしようもありませんでした。寂しがりやの野良猫は、ずっと見つめ合う誰かを探していたのです。なのに誰も見つけることが出来ませんでした。



しかし、そんな時不思議な人間が現れました。ねこの事を調べあげて、保護するという人間でした。その人間はねこが落とされた穴を封じてしまいましたが、ずっとねこの事を研究しているようでした。ねこは自分のことを考えている生き物がいると思うと、少しだけ寂しさが紛れました。その人間はちゃんと対策をしていると言っていたので、ねこのおまじないは効果がありませんでした。ねこはいつかこの人間の目を見てみたいと思っていました。この時ねこ自身は気づきませんでしたが、自分のために力を使ったのは二度目でした。ねこはなんと人間の形になっていました。ねこは彼を探し、彼が研究している場所に入り込み、ねこが好きなご飯をみんなで食べる場所を作りました。


ねこは毎日が再び幸せでした。たくさんの笑顔に囲まれ、たくさんの愛に包まれ、そして……

そして……大好きな人間にも出会えました。彼の目を見た時、不思議と“愛情”という感情が芽生えました。楽しい、嬉しい、悲しい、寂しいは感じたことがありましたが、こんなに暖かい気持ちは初めてでした。


ねこは彼が大好きになりました。今のねこは彼のおかげで存在しています。彼と彼の住むこの世界が大好きです。だから……』




「だから」



『どうか帰ってきてください』

「どうか帰ってきてください」



ねこはボロボロ泣いていた。体内の水分を全て吐き出す勢いで涙を流していた。


「ねこは……ねこはあなたが大好きです……!あなたが……あなたが作ってくれたねこの世界が大好きで大好きで大好きです……!!だからあなたがいなければ、ねこの隣にあなたがいなければねこにとってはなんの意味もないのです!お願い、お願いします……お願いします!帰ってきてください!ねこの、ねこのせいなら!ねこがこの姿で生きているせいなら!ねこは元の姿に、元の姿に戻ってもいいですから!またあなたに研究される日々でも構いませんから!!あなたを、あなたを失いたくないんです!!あなたのいない世界なんてねこには分かりません!!だから……お願いします……お願いします……!!」


ねこは初めて大きな声を出した。既に喉が枯れそうで、息は苦しかった。

涙で前が見えない。このまま泣き続けたら溺れてしまいそうだった。

それでも構わない、ねこは自分のことはどうでもよかった。ただただ彼に帰ってきて欲しくて、彼と同じ世界にいたくて、それだけが望みだった。





「……ねこ……さ……ん」


彼は、目こそ開いているものの意識は朦朧としていた。

もしこれで失敗したら、もしこれでダメだったら。






その時は死んでしまおう。





ねこは本気でそう思っていた。

異常性がない今なら普通の人間と同じように死ねるだろう。などと考えていた。



その時



「ねこさ、ん……ねこさん……!ねこさん!お、俺、あ、ああ……!思い出した、全部!全部思い出した!!」


奇跡が起きた。


「あぁ……!!」


ねこは声が出なかった。ついに喉が涙で沈んでしまった感覚だった。たださっきとは違い、それは歓喜の涙だった。


「ごめん、ごめんなさいねこさん、僕は、いや、俺は酷いことをしました……!」


「ううっ……うううっっ……」


「ごめんなさい、ごめんなさい……」


「も、もう……どこにも行かないでください……ねこの……ねこのそばにいてください……」


「はい、もう離れませんから。ねこさん、お待たせしました」


「……もう待ちませんから」


「はい、もう待たせません」


「約束です」


「はい、絶対に約束です」




ピーンポーンパーンポーン……



「財団日本支部所属職員様。恋人のねこさんがお待ちでした」



ピーンポーンパーンポーン……




2人は強く抱きしめ合い、まるでお互いの存在を納得するまで確かめあっているような格好のまましばらく泣き続けた。










-----翌日-----


「この度は、多大なるご迷惑をおかけしました!!!」


俺は全力で謝罪した。それはもう全力だ。


「いや、構わないさ。戻ってきてくれてなによりだ」


部長を始めとする仲間達や機動部隊のみんなは意外とあっさり許してくれた。

というのも、どうやら俺が酩酊街に引き寄せられた理由にあるらしい。

自分で言うのはなんだが、俺はかなり高いミーム抵抗力があるのだが(診断してもらった結果部長がそう言ってくれたのでナルシズムではない、はず)、そんな俺がなぜこんなことになったのか追加依頼として例の三社に調査をしてもらったところ、三社とも同じ答えが返ってきた。いわく、


「酩酊街の意思です」


との事。

なんと酩酊街()()()()が俺を気に入ってしまったらしい。

これには誰もが口を噤んで驚愕の表情を見せる他なかった。


そんな酩酊街からまた手紙が来ていた。



「こんにちは。お元気ですか?以前そちらにお送りしましたオブジェクトのわんこを可愛がってくださってることをつい先日知り、とても嬉しくなりました。

さて、この度は私共酩酊街がご迷惑をおかけしました。

お詫びになるかは分かりませんが、例の彼とその恋人様に謝罪の意志を込めてとある品をお送りしました。これは例の件の調査の時に、同時に三社合同で制作を依頼した品です。どうぞお納めください。それでは、今度また酩酊街に来てくださることがあれば是非御一報下さい。私の案内の元でしたら確かな安全が保証できますから。

酩酊街より 愛をこめて」



「お詫びの品ってことか」


俺とねこさんは手に同じネックレスを持っていた。

ネックレスに付いていた別紙によると、


『こちらの商品は完全受注生産の特別な製品です。ネックレスの紐部分は東弊重工様にご提供頂きました、最新の化学繊維でてきております。こちらに肌を触れていますと心拍数や脳波を測定し、異常な状態に陥った時に沈静化、冷静化に最適な波長を脳に直接お伝えする優れものでございます。また、しずく型のトップ部分のガラスは私共如月工務店が手がけさせて頂きました。ガラスには特殊な技術を施しており、内部には酩酊街様からご提供頂きました雪と日本生類創研様からご提供頂きました猫のシルエットを封じ込めております。ガラスのしずくの中で止まることなく永遠に振り続ける雪と揺れ続ける猫の尻尾はお二人の永遠の愛を象徴しております。時折猫の耳も動く仕様となっておりますので、お時間がある際は是非眺めて頂きたく思います』


との事。


いや凄すぎんだろ。小さいしずくの中で雪と猫が動き続けるとか。SCPレベルだよ。紐も何気にとんでもないし。


と思いつつねこさんを見ると、目を輝かせて早速身につけていた。


「ねこさん、似合いますよ」


「あなたも着けてください……ほら、似合いますよ」


そう言って笑顔を向け合う2人の胸元ではゆらゆらと不思議なしずくが揺らめき輝いていた。






おしまい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 良い話だなぁ… お幸せに [一言] 最後の物品等って明らかなオバーテクノロジーが入ってるだろ と言うかオブジェクトじゃねそれ?
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