今、伝えたい
「もしもし、俺」
「ウチにはお金はなかばい」
「母ちゃん!俺ばい。圭太」
「わかっとっさ」は
「騙したろ。母ちゃんの方が詐欺師ばい」
「どがんしたと」
「別に何もなかけど、近かうち帰ってくっけん」
「あらそうね。気をつけて帰ってこんね」
圭太は電話を切った瞬間、体の力が抜けた。
それは久しぶりに母の声を聞いたからというのもあるが、帰郷する理由は母に告げるかどうか、悩んでいたからだ。
でも、結局この電話では肝心なことは何ひとつ言えなかった。
圭太の足取りは重かった。
なぜなら、これからの生活の事を考えると何をすべきなのか
分からないというのも、もちろんあるが
自分のこれまでについても後悔があるからだ。
「ただいま」
「あら、早かったね」
「うん」
「疲れたやろ、先に風呂に入らんね」
「そがんすうかな」
「夜はなんば食べるね」
「なんでんよか」
「そいが一番困ると」
「そがん言われたらおいも困る」笑
「あんたが風呂に入ってる間に考えるけん」
そう言って、母は台所へ消えた。
啓太は風呂に入りながら
ぼんやりとこれまでのことを考えていた。
高校までは長崎で過ごしたが、
夢もなく鬱屈とした日々を過ごしていた。
とにかくここを出たかった。