最終話 「 ルーニー・ザ・スカル 」
鬼丸が非業の死を遂げてから数百年の時が過ぎた。
元号は「平成」となり、この世界の片隅に世界征服を企む者が現れた。
その者はアイザック・ゾルドという名の科学者だ。
彼は、自らのテリトリーを「邪心帝国」と名付け、自ら皇帝を名乗り、研究を続けた。
その研究は、生死を問わず人を改造し、人ならざる者に作り変え、新たな命を与え、超能力や超人的な身体能力を付加した怪物を作り上げるものだった。
そして、それを量産できるプラントの建設に着手しようとしていた。
しかし、これは相当に大掛かりな事業となる為、多数の忠実な指揮官が必要だった。
ゾルドは、最初に造った人造人間、暗闇魔女ザイラに命じた。
「ザイラ、新たな改造手術を行う。 サンプル用の人間を捕らえて来るのだ。 生死は問わん。」
ザイラは恭しく跪き、一礼して飛び立った。
そして、上空で見回すと、空気と気流が歪む程の邪気と怨念を見つけた。
「あらあら、まぁまぁ、なんて禍々しい気! それに、こんなにも強い怨念なんて初めて見ましたわ! これを具現化して持って帰れば皇帝閣下もお喜びになられますわ!」
ザイラは怨念の出所を探り当て、呪術で具現化を試み、その怨念の主の具現化に成功した。
だが、かつて鬼丸と名乗ったそれの姿は、もはや人と呼べるものではなかった。
骸骨の頭に、上半身は殆ど剥き出しの筋肉や内臓で、下半身は辛うじて人間の姿を保っている、そういう姿だった。
そして、手には短刀が、その胸には赤い鎧と、腕には刃手甲が、鈍く光っていた。
「邪気が強過ぎかしら? すごい姿ねぇ。 それより何か服でも着せないとだわ!」
ザイラは、錬金術で周りの土や木から衣服を作り出し、鬼丸に着させた。
衣服は、ズボンと貫頭衣とベルトいう簡素で粗末な物だったが、鬼丸には充分だった。
「これでよろしいわ! アナタ、なんてお名前?」
鬼丸は戸惑いながらも低い声で答えた。
「名前・・・? わからん。 俺は・・・誰だ? だが、一つだけ分かる。 俺は、大名という者共が憎い。 どうしようもなく憎い。」
ザイラは、この者を味方に付ければ必ず強大な戦力になると確信した。
「大名が憎いですって? 付いていらっしゃい。」
答えを待たず、ザイラは魔法で鬼丸ごと飛び、都市の上空から溢れかえる人々を見せ、言った。
「見えるかしら? こいつらは全部アナタの憎む大名の子孫なの。 アナタが呑気に何百年も死んでる内に、大名はこんなにも栄えちゃったの。 どう思うかしら?」
鬼丸は、憎しみを込めて歯軋りをして、その身を強張らせた。
ザイラはほくそ笑むと、そのまま鬼丸を連れてゾルドの元へ飛んだ。
「皇帝陛下! 素晴らしいサンプルが手に入りました。」
ゾルドは頷き、鬼丸に向かって言った。
「お前は大名が憎いのか。 その復讐を成し遂げるに相応しい力が欲しかろう。 私に従え。 そうすれば、何物にも負けない力を与えよう。」
その声は鬼丸に心地よく響き、その言葉には疑念を抱かせない説得力があった。
そして、鬼丸は静かに頷いた。
ゾルドは鬼丸に歩み寄り、その胸に邪気に満ちた青い宝玉を埋め込んだ。
その強大な邪気は鬼丸の全身に巡り、その額に邪眼を開かせた。
それを見たゾルドは、頷きながら静かに言った。
「開眼したな。 これでいい。 お前は今から死神忍者ルーニー・ザ・スカルと名乗るがいい。」
額の邪眼を輝かせ、宝玉の中に新たな命を感じ、希望にも似た感情を抱きながら、鬼丸、いや、ルーニー・ザ・スカルは呟いた。
「俺は・・・ 死神忍者ルーニー・ザ・スカルだ。」
ジオ戦士が誕生するのは、これから数年後の事である。